藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

聞いたことをやれるか。

「うちの商品を他社がまねしてきても、それを超えるスピードでうちが新商品を出し続ければいい」

そして

大山社長は「アイリスオーヤマ社員は生活者の代弁者でなければいかん」と話す。

そして開発者にはこう説く。
「自分の奥さんが本当に買いたくなるものをつくり出せ」

たったそれだけの。
誰もが納得するような仕事をし続けられる人は少ない。
不思議なことだ。

650人のリサーチ担当社員が全国の800の売り場から"不満"を聞いてくるという。
しかも口コミだ。
そうした「マーケット調査から上がってきたものを集約して新商品を作る」というのはすぐにでもやれそうなことだ。
だのになぜか自分たちはそうした「基本姿勢」からは逸れてしまっている。

こうして大山社長の話を聞いていても、多分成功はしない。

こういう「動作」を実際に模倣できるか。

その辺が"改善の生き死に"に関わるところだろう。
自分はやれるだろうか。

アイリスオーヤマ 他社製品の不満、100個集めろ
大山社長は17年も新製品効果などで増収増益が続くと説明した(1月)
■石油危機の教訓を胸に

 アイリスオーヤマ仙台市)の大山健太郎社長が「なるほど」に強くこだわるのは、決して忘れることができない苦しい時期があったからだ。プラスチック下請け加工の大山ブロー工業所を創業者の父から引き継いで9年後、1973年に発生した第1次オイルショックが引き金となって起きた同社の経営危機だ。

 当時はプラスチック製の育苗箱が主力商品。原油価格の高騰を見込んだ問屋から大量に発注が入った後には各社が在庫の山を抱え、原価割れを覚悟で投げ売りする価格競争が始まってしまった。

 10年間かけて蓄えた資金は2年間で底をつき、本社や自宅とも一体だった大阪府東大阪市の工場も閉鎖せざるを得なくなった。東大阪でともに働いた約50人の従業員のうち、存続させる宮城県の工場への異動に応じたのは4人だけだった。

「もう決してリストラはしない」

 これで大山社長の経営路線は確定する。

 他社と似通った製品を作っていては、またいつか価格競争に巻き込まれかねない。生活者の不満を見つけて解消する「なるほど」に軸足を置くことで、他社と横並びになりやすい商品は避け、確実に利益を出し続ける。これこそが企業を存続させる道だった。

 消費者が本当に求める商品は何か、既存製品への不満はどこか。それを探るためにアンケートをする企業は多いが、アイリスは調査会社が収集するデータだけには頼らない。自ら一歩を踏み出し、ホームセンターなどの店内へ消費者の不満の声を集めに行く。

 その役割を担うのが「SAS(セールスエイドスタッフ)」と呼ばれる650人の販売支援担当者だ。大部分は女性で既婚者も多く、アイリスオーヤマと取引する全国の約800店舗の売り場で活動している。

 主な業務は家電操作の実演だが、自社商品を宣伝することだけが目的ではない。来店客と雑談し、本音を引き出すのが本当の役割だ。

 「高温の蒸気で油汚れなどを落とすスチームクリーナーは便利なんだけど、本体が重くて長い時間は使いにくい」

 「やっぱり家電は有名なメーカーの商品じゃないと、故障などが不安で買いにくいんだよね」

 SASは社内で製品に関する専門知識を学んでいるだけでなく、多くの場合は自身も家庭内で製品を実際に使っている。ユーザー同士が雑談する感覚で、気軽に話す。

 アイリス傘下でホームセンターのユニディを運営するユニリビング(千葉県松戸市)の野城慎二社長は、SASの現場での仕事ぶりに感嘆する。

 「彼女たちの話力は本当にすごい。アイリス商品への不満や要望、電機大手の製品を信頼して買い続ける理由など、ここでしか聞けないような消費者の生の声が次々に集まってくる」

 650人のSASは集めた本音を毎日、A4判1枚の日報(リポート)にまとめて提出する。自社商品への褒め言葉も必要だが、それ以上に不満や文句を書き漏らしてはいけない。他社製品への信頼感や褒め言葉は非常に重要だ。全員の日報を集約した内容は社内ネットワークに毎週1回掲載し、全社で「なるほど」を探すタネとなる。

■価格勝負せず、常に新商品

 SASが集めた不満が新商品を開発する出発点になることは多い。

 「重くて、長い時間は使いにくい」と消費者から不評だったスチームクリーナーは蒸気の噴き出し部分の近くにスイッチを付け、本体を床に置いたままホースだけを持って掃除できる商品を売り出した。「生の声」が持つ力は強く、改良した商品の販売は好調だ。

 アイリスは売り出してから3年以内の商品を「新商品」と定義しており、売上高の5割以上を新商品で占める体制を守り続ける。同社が重視する経営指標の1つだ。大山社長は言う。「うちの商品を他社がまねしてきても、それを超えるスピードでうちが新商品を出し続ければいい」。進化を止めるつもりはない。

 現時点で最大の収益源である発光ダイオード(LED)照明はパナソニックなど大手企業との競争が激しい。しかしアイリスのLED生産拠点、鳥栖工場(佐賀県鳥栖市)の副島昌和工場長は「ライバルは他社じゃない。うちが中国に持つ大連工場だ」と言い切る。

 アイリスは工場へのロボット導入に積極的で、大連工場では約600台ものロボットが稼働する。大量生産によるコスト抑制効果は大きい。アイリスのLED事業部門は鳥栖と大連のコストや納期などを見比べ、どちらに生産を発注するか決める。「鳥栖工場で製造ラインを組み替えて生産性を上げたら、1週間後には大連も同じラインを組み、うち以上に生産性を上げてきた」(副島氏)。グループ内での真剣勝負が競争力を生む。

 大山社長は「アイリスオーヤマ社員は生活者の代弁者でなければいかん」と話す。そして開発者にはこう説く。

 「自分の奥さんが本当に買いたくなるものをつくり出せ」

 一人の生活者として感じた不満を解消するアイデアを開発者が出し、研究部門が蓄積してきた技術を生かして製品に仕上げる。それを値ごろ感のある価格で売り出せるように工場が知恵を絞る。主要拠点をつなぐサイクルが完成したとき、消費者の「なるほど」を呼ぶ商品が生まれる。

(仙台支局 村松進)

日経産業新聞8月9日付]