藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

何幕目かの舞台で

珍しく世界一の座にいた東京エレクトロンの合併を受けて、「ムーアの法則がついに終わる」と言う予測。
これまでも何度も「もう限界」と言われ続け、そのたびに新しい素材や、さらにミクロな加工技術や、また複層化などの新技術でつねに「ムーア」は存在してきたわけだが、それがついに終わるのだろうか。
もう五十年あまりも続いてきたこうした「半導体の高性能化」がもし本当に終わるのならば、コンピュータの使い方や普及の仕方にようやく「一区切り」が付くということなのかもしれない。

つまり、限りなく速く、小さく、安くなってきたがゆえに、コンピュータの用途は限りなく「広く、細かく、早いスピードで」普及してきた。
スーパーの全ての商品の価格シールにチップが付く、などと半世紀前の人は想像できなかったのである。
もし半導体の集積に本当の限界がくるとすれば、もっとも重要なのは「価格と普及の関係」になるだろう。
今のスマートフォンが再び一台十万円を超えるような商品にはならないだろうから、いよいよ「コンピュータのやれること」に限界が見えて、その限られた中でどのように利用してゆくか、という利用技術(アプリケーション)に注目が集まってゆくと思う。

今のように「よりデータ量の重いコンテンツを扱う」ばかりがコンピュータの高度利用になるのではなく、民間レベルでも必要なITサービスと「いらないもの」の判別がされてゆく時代になるのだろう。
そうした転換は、同時にもう「無限の妄想」からも離れて、「限りある資源の活用」というこれまでのIT業界にはなかった視点で「社会利用」を考えてゆくということも意味する。

本当の進化・熟成はこれから始まるのではないだろうか。

ムーアの法則の終わり」が生んだ半導体装置再編  編集委員 中山淳史
2013/9/25 14:19ニュースソース日本経済新聞 電子版
 半導体製造装置でかつて世界一だった東京エレクトロンと、現在世界一の米アプライドマテリアルズが経営統合を発表した。背景にあるのは、技術革新が半導体の製造コストを下げ続けるという「ムーアの法則」の終焉(しゅうえん)だ。
■急激に増えた開発コスト
東京エレクトロンの東会長兼社長(左)と米アプライドマテリアルズのゲイリー・ディッカーソン社長兼CEO(24日午後、東京都港区)
 「単独で世界市場を攻めていこうとすると立ちゆかなくなる」。24日夜、日本経済新聞の取材に対し、東京エレクトロンの東哲郎会長兼社長は経営統合の背景をそう語った。
 もともと巨大な装置産業ではあった。だが、現在、3位の東京エレクトロンでさえ開発コストの急激な増加に耐え切れなくなり、再編を余儀なくされたのは象徴的だ。
 ムーアの法則。それは終わったのだ。
 「ムーア」とは米インテルの創業者の一人、ゴードン・ムーア氏のこと。1965年に「半導体の集積度が2年ごとに倍増する」との経験則を見いだし、その後の半導体技術の進化や産業の成長に大きな影響を与えた。
 記憶や思考をつかさどる半導体チップの集積度が上がれば、パソコンなどの性能(特に応答速度)も向上する。パソコンや半導体、さらには製造装置の作り手にとっても、微細化の進歩のたびに何割かの飛躍的なペースで生産コストを減らしていたことになる。
 だが、それも技術の壁に突き当たっている。現在、半導体の世界最先端は回路の線幅が19〜20ナノ(ナノは10億分の1メートル)の製品。すでにこれ以上、回路の線幅は小さく(微細化)できなくなるところまで行き着いており、半導体の進化もこれで終わりかという状況だった。
 そこで半導体や装置メーカーが向かい始めたのが半導体ウエハーの層を何層も重ねた立体(あるいは複層)構造の半導体。「3D」とも「3次元」ともいわれる技術だ。
 この技術を使えば、集積度は上がる。ただし、層を重ねた上で、各層の回路を束ねる技術は難易度が高く、開発コストも爆発的に増加する。パソコンやスマートフォンスマホ)の性能は向上し続けるが、進化のたびに「半導体の製造コストが下がる」とのムーアの法則は通用しなくなるのだ。
スマホが要求する「高性能低価格」
 野村証券の山崎雅也アナリストは、半導体の技術革新は今後「パフォーマンス(性能)と省エネがカギになる」と話す。単に開発コストがかかるだけではない。スマホの価格はこれ以上上げられる状況にはなく、半導体メーカーは「高性能なのに低価格」という難題と向き合うようになる。製造装置のメーカーにとっても、投資した資金を回収できる企業規模が確保できるかどうかが、生存競争のカギを握るようになるわけだ。
 半導体産業では今、3次元化と同時にシリコンウエハーの口径を大きくする新技術開発も進む。双方とも米インテルや韓国サムスン電子、台湾の台湾積体電路製造(TSMC)が開発、投資の中心を担っており、日本勢の存在感は薄れるばかりだ。
 「対等の精神」と東京エレクトロンアプライドマテリアルズは言う。だが、経営統合後の株主構成をみれば、勢力関係は一目瞭然だ。エルピーダメモリが米企業の傘下に入るなど、大口の顧客が国内から消えつつあるのも再編のきっかけになったのか。「ムーアの法則の終わり」とともに日本の半導体産業が一段と小さくなっていくのは、何とも寂しい限りだ。