藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ジョブズの家、アメリカの家。


相変わらず、知的で抜群に面白い渡辺さんのコラムより。
hpと並んで有名なジョブズのガレージ&ハウスが歴史資産に認定された、という話。
こうして地元の認定を受けると、実は増改築にも自由が利かなくなるらしいが、それもアメリカ全体のことのようである。

うちの社内のミーティングでもしばしば「日本と欧米の住宅の建物の評価」についての話が持ち上がる。
つまり日本の家は大体10-20年でほぼ「建物は無価値」というのに対し、欧米は「土地よりもむしろ建て屋に価値がある」というくらい中古住宅の値段が下がらないのはなぜだろう? というのだが、一つの理由がこんなことであるらしい。

アメリカの住宅は中古が常に流通しており、中古になっても価値があまり落ちません。その背景には、厳しい建築のルールがあり、断熱材の入れ方からコンセントの数や位置まで細かく指定され、それが実際に守られるように、たとえ個人住宅の増改築であっても綿密に審査されます。

常々、日本も「土地神話」だけでなく、建物も100年、200年流通するような制度にできないか、とおもっていたが、こうしたアメリカのような「建築基準と、それを守るシステム」が必要なのかもしれない。
ぜひ日本でもこうした試みを参考に、「建物はガラクタになる」という常識から抜け出してはどうだろうか。
長持ちのする、木造住宅を古来作っていたはずの日本が、いつの間にか使い捨ての住まいに住んでいるのは何とももったいない。
ぜひこれからの住宅制度に取り組んでもらいたいものである。

歴史的資産になった「ジョブズの家」
スティーブ・ジョブズの育った家が、地元の市の歴史的資産として認定されました。

 これまでシリコンバレーのガレージと言えばヒューレット・パッカード社発祥のガレージが有名でしたが、それをもしのぐ重要建築物と言えましょう。 最初のアップルコンピュータが作られたのもこの家のガレージ。ジョブズと、アップルの共同創業者であるスティーブ・ウォズニアックジョブズの妹のパトリシアの3人で組み立てたそうです。

現住人は父親の再婚相手、持ち主はジョブズの妹

さて、この家ですが、今でもジョブズという苗字の人が住んでいます。よく知られた話ですが、スティーブ・ジョブズは赤ちゃんの時にジョブズ家の養子となりました。そして1986年に母親のクララが肺がんで亡くなった後、父親が再婚。今この家に住んでいるのは再婚相手のマリリンです。ただし、持ち主は妹のパトリシア(パトリシアもジョブズ家の養子です)。

ちなみに、「歴史的資産認定」ですが、された方は「困ったな」と感じているかもしれません。というのも、家の増改築には市の認可が必要なのですが、今後はちょっとしたリモデルもそう簡単には許されなくなるからです。

個人住宅の増改築基準が厳しい米国
アメリカの住宅は中古が常に流通しており、中古になっても価値があまり落ちません。その背景には、厳しい建築のルールがあり、断熱材の入れ方からコンセントの数や位置まで細かく指定され、それが実際に守られるように、たとえ個人住宅の増改築であっても綿密に審査されます。アメリカの建築の認可基準は市ごとに違うのですが、スティーブ・ジョブズの育った家のあるカリフォルニア州ロスアルトス市の認可は大体以下のような感じ。

1)建築前に設計図の審査
2)近所の人に告知、設計図に文句がある人からの異議申し立て受け付け
3)工事中に役所の担当者が来て配線などの「壁の裏側」がきちんとしているか確認
4)建築後に再度、役所の担当者が来て確認

 それぞれの過程で「ダメだし」が入ってやり直させられるのも日常茶飯事。普通の家の増改築でもこれだけ厳しいわけで、スティーブ・ジョブズの家はもうこのまま住むしかない、という感じかと思われます。


妹パトリシアは困窮している?

ちなみに、この家のオーナーである妹のパトリシアは、シングルマザーとしてかなり困窮した生活をされている模様。ちなみに、家の価格サイトZillowでこの家の現在価値を見てみると160万ドル、1億5000万円超でした(今ある古い家を取り壊して新築すれば300万ドルはいくでしょう)。この家を所有しながらなぜ困窮?と不思議に思いますが、サンノゼマーキュリー紙によれば、彼女と現在の家の住人であるマリリンとは口もきかない仲のようですので、いろいろ難しいことがあるのでしょう。トルストイの名作、『アンナ・カレーニナ』の冒頭に「幸福な家族はどれも似通っているが、不幸な家族は不幸のあり方がそれぞれ異なっている」という一文がありますが、ふとそれを思い出しました。


ジョブズも歴史的に重要な家を取り壊していた

なお、生前のスティーブ・ジョブズも、近隣のウッドサイドという市の歴史的に重要とみなされる家を壊して新しい家を建てようとして大反対にあい、6年間も裁判をすることになりました。結局、ジョブズその裁判に勝ち、家は2011年に取り壊されたものの、再築される前にジョブズは亡くなってしまいました。彼の育った家はこれからどんな運命をたどるのでしょうか。

渡辺千賀(わたなべ・ちか)
東京大学工学部卒、米スタンフォード大MBA。三菱商事勤務などを経て、米シリコンバレーコンサルティング会社Blueshift Global Partnersを経営。ITの戦略立案などに携わるほか、共同で設立したNPOのJapanese Technology Professionals Associationを通じて、シリコンバレーで活躍する日本人のネットワーク強化にも取り組む。ブログ「ON,OFF AND BEYOND」を執筆中
(2013年11月1日 読売新聞)