藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

歴史の上塗り

特定秘密保護法案が可決。
こうした政治の話は、とかく国民には見えにくい。
日本版NSCなる奇怪な(まるで植民地でのような名称ではないか)名称も跋扈し、さらには防衛や外交の「指定された秘密」が対象になるという。

こういうものを提案する場合、一番できない営業マンのすることが「分かりにくい長文での説明」だが、まさに国会運営とはそうしたものである。

ある識者に聞いたところ「法律と政治は、国民に分かりにくくするために"特殊言語"を用いているだけの自己権益保身でしかない」との弁だったが、正鵠を射ている。

そもそも日本版NSCがなぜ必要で、わざわざ官房長と防衛・外務省だけで協議するのか、どうもそれは第一次安倍内閣からの発露のようだが、「それを必要とする人や業界」がちらちら見えるのは自分だけではないだろう。

日本がインテリジェンスと言われる諜報に疎く、産業分野でもスパイなどに手痛い目に遭っている、というのは何となく分かるが、それにしても本当に「指定された秘密を漏らしたものに対する罰則強化」がどのような場合に必要で機能するのか、ということを政府は説明していない。

ビジネスマンなら、最初からスライドなどを作って例えば「大事故が起きた場合には」とか「例えば隣国からの攻撃があった場合、ありそうな場合」とかケースをまず説明して理解を得るのが常道である。
それがまた、どんどん表現を曖昧にして、分かりにくく、複雑にして最終的にはエイヤ!でやっちまおうというのは、国民に対して不敬と言われても仕方がない。

読売の記事が提灯かどうかはともかく、こうしたスタイルは「これからの政治を志す若者」を創造して行かないのではないか、と危惧する。
政治家が育たない国の未来は暗いのは当然ではないか。

特定秘密保護法案が意味するもの

調査研究本部主任研究員 笹森春樹 特定秘密保護法案が、今国会で成立する見通しになった。
 国家安全保障にかかわる秘密の漏えいを防ぐのがこの法案の目的であり、およそ普通の国ならこの種の法律を持っている。
 日本は、今でも、日米相互防衛援助協定に伴う秘密保護法があり、これによって6年前、イージス艦の情報を漏えいしたとして海上自衛官が逮捕される事件があった(懲役2年6月、執行猶予4年の判決確定)。今回の特定機密保護法案の対象は、防衛だけでなく、外交、テロ防止、スパイ防止を含む4分野で、機密性の高い特定秘密を保護しようという狙いである。

秘密保護法制を国際標準に合わせる 罰則は、最高で懲役10年と、秘密保護法の懲役5年や国家公務員法の同1年(守秘義務違反)より重いが、他の主要国と同程度か、むしろ軽いくらいである(米国は最高死刑)。特定秘密指定の有効期間が原則で最大60年というのは、確かに長いが、それでも米国の75年よりは短い。要するに、特定秘密保護法案というのは、秘密保護法制を国際標準に合わせたものと言ってよい。
 ところが、メディア、学者、法曹団体などには、法案に反対する声が総じて根強い。ノーベル賞受賞者益川敏英白川英樹両氏らが結成した「秘密保護法案に反対する学者の会」は、「思想の自由と報道の自由を奪って戦争へと突き進んだ戦前の政府をほうふつとさせる」という声明を発表し、その中の1人は、同法案をナチスドイツの全権委任法になぞらえている。テレビで「戦争への道を開くものだ」と批判するジャーナリストも少なくない。
 懸念を抱く気持ちは分からぬでもないが、反発の言辞はやはり大げさだし、滑稽にすら思う。彼らの多くが指摘するように、また、安倍首相も明言するように、特定秘密保護法案は、今国会ですでに成立を見た国家安全保障会議(日本版NSC)設置法とセットのものだ。米国などから機密情報の提供を受けるために、秘密保護法制を強化するのが真の狙いだろう。

手の内がすべて筒抜けだった昔 逆に言うと、日本の秘密保護は、法制の面でも意識の上でも諸外国に比べて弱かった。それは今も昔も変わらない。太平洋戦争勃発の1年前から、日本の外交電報は米国に解読され、日米交渉の日本側の手の内はすべて米側に筒抜けになっていた。駐日大使グルーは、最高機密の御前会議の情報を、樺山愛輔伯爵と見られる情報員から得ていた。
 有名なドイツ人スパイのゾルゲは、日本の権力中枢に食い込み、独ソ戦勃発後、日本がソ連に参戦しないという情報を入手し、ソ連に伝えた。これによってソ連は、極東で日本の攻撃を心配することなく、ドイツとの戦争に集中できた。日本で刑死したゾルゲは、今でもロシアの英雄だ。
 あるいは、毎日新聞の前身の東京日日新聞は、最高機密の対英米開戦日の情報を事前に入手し、当日の1941年12月8日の朝刊に「東亜撹乱・英米の敵性極まる」「断乎駆逐の一途のみ」とピタリと照準を合わせた紙面を作っている。開戦スクープの情報源は、米内光政・元首相だった。この手の話は枚挙にいとまがない。

「戦争の時代に回帰するもの」ではない 要するに、機密情報が漏れやすい点は、言論統制下にあった昔も、憲法言論の自由が保障された今日も、本質的には変わっていない。同盟国(昔はドイツ、今は米国)から「日本は情報が漏れやすい」とたしなめられている点も同じである。特定秘密保護法案というのは、反対論者の「戦争の時代に回帰するもの」ではなく、当然の安全保障上の備えをしようというものにすぎない。
(2013年12月5日 読売新聞)