藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

種火の恐怖

ネットのメールやSMSを通じて自身のセクシャルな画像を送ることを「セクスティング」というという。
わざわざそんなものに名前を付けなくとも、と思うがそれだけ社会問題化しているということなのだろう。

それにしてもこれがネットの恐ろしさである。
冗談で発した行為や発言も収束しない。
それどころか「それ出た!!」とばかりに比可及的に拡散する。
デジタルの手軽さ、速さに「匿名性」が掛けあわされて増幅する。
人間心理のどこかに必ず存在するダークな性向、いやいたずら心のようなものを煽りたてるような快感がネットにあると思う。

それが人の社会生活に重大な影響を与えたり、時には生命さえ脅かしたりすることになって、初めて事の重大さに気付くというケースはとても多い。

燎原の火のごとく、とか"炎上"などというけれどさもありなん。
いたずら心でも「付け火」は重罪である。
インターネットへのデータ送信は、ガソリンスタンドで火を扱うくらいの配慮が必要なのである。

(49)「セックスティング」被害の対処方は
「セックスティング(sexting)」という新しい言葉がここ数年、英語圏で使われるようになった。「Sex」(性または性行為)と「texting」(携帯電話のショートメッセージサービス=SMS=を使ってメッセージを送る)が合わされた言葉だ。裸あるいは下着姿の写真、動画、性的な文章などをSMSで(広い意味ではネットで)送ることを指す。交際相手に送った写真が広く共有されてしまい、窮地に追いやられる10代の少年少女たちがいる。

「みんなが私のことを『汚い』と思ってる」

 繁華街から少し離れた場所にあるカフェの前のベンチに、グレーのフード付きトレーナーを着た少女がうずくまっている。あたりは薄暗く、夕方から夜にかけての時間のようだ。風が吹きすさび、寒そうに体を縮める少女。携帯電話が鳴り、メッセージが届く。メッセージを一瞬にして読んだ少女は、電話を路上に投げつけた。

英児童支援団体「チャイルドライン」が作ったセックスティングの被害についての動画の冒頭である。

 少女は家に帰りたくても帰れない。この世から「消えてしまいたい」と言う彼女はセックスティングの経験を語りだす。「私は何も悪いことをしていないのに」。

 しかし、思い起こせば、ボーイフレンドのことを「どれぐらい好きかを見せたかった」「自分でそうしたかったら、自分の写真を送った」のだった。

 動画は少女がソーシャルメディアを友人たちと楽しむ様子を描く。その延長線上で、少女はボーイフレンドにお風呂あがりの自分の裸の写真を送ってしまう。翌朝、学校に着いた少女は友人たちの間で写真が共有されていたことを知った。ボーイフレンドに真意を問いただすと、別の友人に写真を送ったことは認めたものの、元は少女自身がアップロードしたという事実を指摘されてしまう。

 少女の裸の写真を集めた特設サイトが立ち上がり、「汚い奴(やつ)」「俺と遊ぼう」などのメッセージが次々と送られてきた。「みんなが私のことを『汚い』と思っている」。両親に事態を知られてしまうことを恐れた少女は家には帰れず、カフェに身を隠すしかなくなった。

「セックスティングは誰もがやっている」

 当人の意思に反して、自分の性的な画像がネット上に拡散されてしまうことによる被害については、「リベンジポルノ」という言葉も近頃見かける。これは過去に交際していた男女が、相手に復讐(ふくしゅう)する意味で交際時に共有した性的な画像をネットで公開することだという。セックスティングで送信された画像がリベンジポルノとして使われる場合もあるだろう。

 セックスティングは、友人同士あるいは交際中の男女の間で、共通の話題をシェアしているうちに、性的な画像も比較的気軽に送りあってしまうという日常性が特色だ。誰もが落とし穴に入り込む可能性がある。
チャイルドラインと児童虐待を阻止するための英団体NSPCCが共同で今年2月に行った調査によると、10代の少年少女の10人に6人が性的な画像・動画の送信を頼まれたことがあるという。
 チャイルドラインのウェブサイトには17歳の少年のセックスティング経験が紹介されている。「僕たちの年齢層ではごく普通のことだ。みんながやっている」。

 この少年は「相手に性的な画像を送信することを強要したことはない」というが、青年支援組織で働くナタリー・スミス氏は「送らなければいけないと圧力を感じる少女たちがかなりいる」と指摘する(BBCニュース、2月5日付)。「ボーイフレンドから性行為を要求された少女たちの中には、熱を冷ましてもらうつもりで、代わりに性的画像を送る場合がある」。

 ほかにも少年少女が性的画像を送りあう理由はさまざまだ。例えば、チャイルドラインのウェブサイトによれば、

 「友人たちがやっているので、仲間はずれにされたくない」

 「お堅いと思われたくない」

 「自分には性的な魅力があることを証明する必要性を感じる」

 「脅かされた」

 「何度も要求され、拒否することに疲れた」

 「頼まれたことをやらないのは罪悪感を感じるから」

 「相手を完全に信頼しているから」

 「長距離恋愛のために普段は会えないから」

 「自分の体に自信があり、ほかの人に見せたいから」。

 「友達の間だけ」と思っていても、誰か一人が自分の知らない「友人」と画像を共有してしまうことがある。自分の手が届かない広い範囲にまで情報が拡散してしまう可能性がある。将来、就職の際などに過去がよみがえってくることもないわけではない(もっとも、今後10年で、ネットについての認識がずいぶんと変わっている場合もあるだろうが)。

 ネットを利用するすべての人が、何をアップロードするのかに留意し、「友達・知人同士での共有」は「ネット利用者全員との共有」となる面があり得ることを頭の片隅に入れておきたい。

 とは言っても、このセックスティング、簡単には止まりそうにない。2011年、米国ではアンソニー・ウィーナー元下院議員がソーシャルメディアや電子メールで性的な情報・画像を女性に送りつけていた事件が発覚した。大人でさえ、情報発信が簡便なネットを使って、セックスティングに興じてしまう時代だ。

 また、「性」というトピックからは少々外れるが、筆者はソーシャルメディア上で「友達限定」で児童の写真をアップロードしている大人を見かけることがある。児童保護の面でもっと注意深くあってもよいように思うのだが、どうだろうか。

「現実を直視して、反撃に出よう」

 性的な興味が高まる10代の少年少女の手の中にしっかりと納まった携帯電話。何を送るべきで、何を送るべきでないかを他者がコントロールするのは事実上不可能だ。

 自分がアップロードしてしまったセックスティング画像が思いがけず広い範囲の人に共有され、「自分を消してしまいたい」と思うほど追い詰めた、冒頭の少女はどうしたか?


泣きはらした少女の隣に、「もう一人の自分」が現れる。その「自分」が少女に向かって、画像の送り手が自分であったという「愚かさ」を認め、「現実を直視して、反撃に出よう」と呼びかける。裸の画像を集めた特設サイトを閉鎖してもらい、家族と協力しながら、事態の改善に努めよう、と。

 英国では16歳以上の性行為は合法だ。しかし、18歳未満の人物の「わいせつな」画像を撮影、所持、共有する行為は刑法違反だ。法的手段に訴えることも可能であろう。

 動画は、少女が家に帰り、相談先としてチャイルドラインや政府機関「児童搾取オンライン保護センター(CEOP)」をあげて終わっている。

2014年04月01日 08時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun