藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

マンモス、東芝から見えること。

力の入った日経ビジネスの記事。

原子力東芝の意思決定をゆがめる構図は、今も昔も変わらない。
現実を直視しない限り、東芝再生は難しい。

記事を読んでいて「ここ30年のこと」で思い当たるのは「マンモスの最期の話」だ。

巨大化しすぎたマンモスが、ついには自重に耐えられなくなり滅びてゆく。
多分、「マンモスの代謝システム」がその時代に合わなくなったということだ。
会社も同じだろう。

やっぱり「時代が変わった」のだ。

高度成長期の「大規模システム」が完全に機能麻痺を起こしている。

何とかその巨大性に合わせてIFARSだのCOPだのISOだのと色々な枠を作ってはいるものの、その限界に来ているのではないだろうか。

日本は戦後に急速に産業を巨大化させ、欧米を"模倣"してきたから、成長も早かったけれど老化も早い。
「自分で考え、経験しながら作ってきたシステムではない」から、崩れ始めても対処のノウハウがないのだと思う。
だから起業家や日本発の製品メーカーも少ないのだと思う。

模倣は悪いことではないし、今この国は豊かだから「既存のステレオタイプ」からどれだけ早く脱するかが肝になるのじゃないだろうか。
これまでの、いわば"大成功体験モデル"を捨てるのは、高いところから飛び降りるに等しいかもしれないけれど、その見極めが遅ければ火事の現場に巻き込まれてしまうだろう。

時代の変化を実際に感じながら動くのって、現実にはとーーっても大変だけれど「今がそのときかも」というセンスは常に持っておきたいものである。
茹でガエルになるかどうかは自分が決めるのだ。

東芝の「聖域」原子力に隠された不都合な真実
2016/5/31 6:30
日本経済新聞 電子版

日経ビジネス東芝の不正会計を象徴する「チャレンジ」が、米原子力子会社ウエスチングハウス(WH)でも行われていたことが、日経ビジネスの取材で分かった。

不正会計を調査した第三者委員会は、チャレンジを「過大な目標設定」や「業績改善の指示」などと定義。東芝経営陣がチャレンジの達成を部下に強要したことが、利益水増しの原因だったと指摘している。

日経ビジネスが入手した内部資料によると、WHのCFO(最高財務責任者)だった「T」は2013年7月、日本語と英語で1通の電子メールを送った。メールには、「予算達成」に向けて「チャレンジも織り込む」と書かれていた。受け取ったのは、WH会長だった志賀重範や社長兼CEO(最高経営責任者)のダニエル・ロデリックら40人超。志賀は16年6月、東芝会長に就任する予定の人物だ。

三者委はWHを巡り、13年度の会計処理で不正があったと指摘。詳しく調べた役員責任調査委員会は、当時の東芝社長だった田中久雄と副社長CFOの久保誠に善管注意義務違反があったと認定した。志賀はこの件で責任を問われていないが「関与者」の一人として名前が挙げられている。志賀は「当時の役割、責任の中できちんと対処したと考えている」とコメントした。

WHは12年度と13年度に単体で計1156億円を減損処理し、2年連続で赤字に陥っていた。しかし東芝は、対外的には原子力事業は「順調」と主張し続けていた。メールが送られたのは、WHが赤字に苦しんでいた時期である。

■減損直後にメールで報告
メールの背景を説明しよう。東芝は06年、約6000億円を投じてWHを買収。15年までに30基以上の原子力発電所を新規受注し、原子力事業の売上高を1兆円に伸ばすと宣言した。だが、11年の東日本大震災で目算が狂う。原発安全神話が崩壊して、新規受注が停滞。経営不振に陥ったWHは12年度の単体決算で約762億円の減損処理を迫られ、赤字に転落した。

WHのCFOだったTが志賀らにメールを送ったのは、減損処理が確定した5日後、13年7月28日のことだ。Tはこう書いた。
「各PLでそれぞれチャレンジも織り込む。予算達成に向けてPLを鼓舞していきたい」

PLはプロダクトラインの略称で事業部門を意味する。WHは当時、「新規建設」や「燃料」など4部門で収益を管理していた。Tが危惧していたのはWHの業績が回復せず、東芝本体に悪影響を及ぼすことだった。Tは東芝副社長の久保に対し、「13年度は東芝(連結)レベルでののれん減損回避が課題」だと、別のメールで報告している。

WHが手掛ける「AP1000」型原発の新規建設プロジェクトではコスト超過が深刻になっていた。さらに、ウラン燃料の売り上げ減とチャレンジ未達が足を引っ張り、13年度は予算達成が難しいとTは分析した。Tは減益の要因を英語で「unachievable challenges for each PLs」と表現している。この状況を打開するには、PLを「鼓舞」する必要があるとTは考えた。

喫緊の課題は資金不足だった。新規建設の不調と「dividend payment (配当支払い)」が根深い問題になっていた。そこでTは、次のような対策を志賀とロデリックに具申した。

「各PLには投資の抑制、インボイスのタイムリーな送付、回収強化、注入抑制、棚卸削減、支払い繰り延べ等チャレンジする」

様々な手法を駆使して資金をかき集めるよう、各PLに求めたのだ。

会計をあずかるCFOの「チャレンジ」が何を意味するか、各PLの担当者が分からなかったはずがない。社長のロデリックや会長の志賀も同様だ。Tがメールを送ったのと同じ時期、東芝の別の部門では、チャレンジという名目で様々な不正会計が続けられていた。

志賀は日経ビジネスの取材に対し、WH会長時代にチャレンジという言葉を「使ったこと、聞いたことはあるが、私自身は達成困難な改善要求をする趣旨で使ったことはない」と述べた。

チャレンジの効果はあったのだろうか。WHは13年度も約394億円の減損処理を余儀なくされ、2年連続で赤字に転落した。

WHでのチャレンジの実態が、なぜ今まで明かされなかったのか。背景には東芝経営陣も含めた隠蔽工作がある。

日経ビジネス15年11月23日号では次のように報じている。東芝の法務部門は第三者委の委員と「謀議」し、WHに対する調査範囲を限定するよう画策した。謀議の内容は、現社長の室町正志や前社長の田中にもメールで伝えられた。

三者委がWHの問題点にメスを入れ、東芝が連結で計上するのれんの議論に発展すれば、経営危機につながりかねなかったからだ。結果として第三者委は、WHの減損問題を調べていない。つまりWHには、外部の目が入っていない不透明な部分が残されている。

日経ビジネスは15年、WHで減損隠しがあった事実を報道し、問題の再調査を促した。だが東芝の監査委員会委員長の佐藤良二は15年12月、記者会見で「現在の監査委員会の役割ではない」と述べ、再調査の意思がないことを示した。

16年6月、志賀が東芝会長に就任する。指名委員会委員長の小林喜光(三菱ケミカルホールディングス会長)は「過去の解釈よりも、新生東芝になくてはならない人物」だと志賀を評価した。ロデリックも6月、原子力などを所管する東芝社内カンパニー、エネルギーシステムソリューション社の社長に昇格する。

社外取締役のみで構成された監査委員会と指名委員会は、「新生東芝」(小林)のカギを握る存在だ。そのいずれもが、WH問題を“過去”のものとして目をつぶろうとしているようだ。

原発の稼働予定は3年遅れ
東芝は16年4月、WHを含む原子力事業で2600億円を減損処理した。東芝の格付けが低下したことで、WHの資金調達コストが上昇したのが原因だという。一方で室町は「原子力事業の事業性、将来計画に大きな変更はない」と説明。今後15年間で45基の新規受注を目指す方針は変えなかった。

5月3日昼、日経ビジネスなどのインタビューに臨んだロデリックも、極めて楽観的な見通しを示した。
「6月にはインドで少なくとも6基契約できると考えている」
「中国は200基の原発を造る計画で、今後5〜10年でこのうち30〜50基を我々が受注できるだろう」
記者団から疑念を呈されても、ロデリックは強気の姿勢を崩さなかった。

取材場所は米ジョージア州オーガスタ郊外にあるボーグル原発3、4号機の建設現場。WHの作業員ら約4000人が働いている。巨額減損を実施しても、原発ビジネスは「順調」だとアピールしたかったわけだ。

1979年のスリーマイル島原発事故以降、米国では原発の新規建設が長らく途絶えていた。ボーグル3、4号機は事故後米国内で初となる建設計画だった。だが既に、当初の計画から大幅な遅れが生じている。当初は16〜17年稼働予定だったのが、今では19〜20年へと後ずれ。現在の工事進捗率は20〜30%にとどまっているという。

現場を歩くと、圧力容器やタービンローターといった原発の中核部品が収容されず、別の場所で保管されていた。「米国の建設許諾の仕組みが変わり工事が進められなかったためで、今後は予定通り進む」。横についた東芝原子力事業担当者は工期が順調であることを強調する。

11年の福島第1原発事故を受け、米原子力規制委員会(NRC)は原発の安全基準を厳格化。結果、格納容器を保護する遮蔽壁などで細かな設計変更が求められるようになり、さらに工期が延びる可能性が出てきた。シェール革命の影響などで天然ガスの価格は下落傾向が続く。工事の遅れは、原発の高いコスト競争力を前提にした利益計画に狂いを生じさせることになる。

海外での大胆な受注計画も大きく崩れる恐れがある。

中国は現在、原発国産化を進めている。WHの技術をベースに中国で開発された第3世代と呼ばれる新型炉が、国際原子力機関IAEA)による安全性評価を得るなど、事業化に向けて着実に動き出している。

ロデリックは「我々には実績がある」と胸を張るが、中国が国産技術を袖にして、WHによる大規模受注を容認するとは考えにくい。中国以外の国々でも、今後は安値を武器にする中国勢との競争が激化する。買収以後、WHが受注し建設しているのは8基のみ。思惑通りに受注できる保証はない。

ロデリックが強気を貫く背景には、原発で稼がない限り再生が難しいという苦しい台所事情がある。過去数年間、東芝の利益を支えてきたNAND型フラッシュメモリーの変調が覆い隠せなくなってきたからだ。

■主力のメモリーが急減速
スマートフォンの減速が需給バランスをゆがめている」。こう指摘するのは、半導体業界に詳しいIHSグローバル調査部ディレクターの南川明だ。米アップルがiPhoneの減産に踏み切ったことも影響し、フラッシュメモリーの価格は下落が続いている。東芝は、17年3月期の「メモリ事業」の営業利益が前期比で8割減ると予測する。

フラッシュメモリーは2年ほど前まで、20%超の営業利益率を誇る東芝の大黒柱だった。ここで稼ぐ巨額の利益を分配することで、メモリー以外の半導体や家電、パソコンといった不振事業を延命させてきたと言えるだろう。

だが今のフラッシュメモリーに、他の事業を支える余裕はない。価格の反転は見込みづらいうえ、先行投資負担が重くのしかかるからだ。

東芝は16年3月18日、今後3年間で8600億円をフラッシュメモリーに投じると発表した。注力するのが、次世代型の「3次元メモリー」だ。

3次元メモリーの量産技術では「韓国サムスン電子が2年ほど先行している」(東芝半導体関係者)。手をこまぬくと、サムスンに圧倒的な差を付けられかねない。当面は厳しくても設備投資を続けることで「市場シェアを確保し、研究開発費を賄っていく」と東芝ストレージ&デバイスソリューション社社長の森誠一は述べる。

ただし、東芝が巨額の投資を続けるのは難しい。財務体質が脆弱だからだ。

不正会計により、ほぼ全事業で収益力が悪化。白物家電中国企業に売却するなど大規模なリストラに踏み切らざるを得なくなった。医療機器子会社をキヤノンに約6655億円で売却することで一息ついたが、それでも16年3月期は4832億円の最終損失に沈み、自己資本比率は前の期の17.1%からわずか5.8%に落ちた。

この比率は、リーマンショック直後の2009年3月期の7.1%をも下回り、過去最低水準。これに伴って格付けも大幅に低下し、投機的水準と呼ばれるレベルになった。

さらに深刻なのは、リストラをしても収益力が一向に上向かないことだろう。本業の強さを端的に示す営業利益率は12年3月期以降、15年3月期まで1期を除いて1〜2%台。17年3月期は、前述の大規模リストラで1200億円の黒字にV字回復するとしているが、営業利益率はそれでも2.3%とほとんど変わらない。

同業の日立製作所と比較すると、その低収益ぶりは歴然としている。日立の営業利益率は同じ期間中、4〜6%台。東芝はほとんどの期で日立の半分以下の利益率となっているのだ。

■もはや銀行が延命する“ゾンビ”
それでも東芝が利益を積み上げて自己資本比率を上げていければいいが、今度は負債の膨張が難題となる。借入金と社債の「有利子負債残高」は16年3月期に1兆4517億円に膨らみ、営業CF(キャッシュフロー)に対する倍率は974.5倍にも達した。前期の営業CFで有利子負債を返済するには1000年近くかかることを意味する。悲惨な状況と言わざるを得ない。

注:「 キャッシュフロー(CF)対有利子負債比率」は、営業CFで有利子負債を返済するのに何年かかるかを見る指標。格付けは米スタンダード・アンド・プアーズ。「B」は投機的水準の一つ、2016年5月13日に変更された

負債の膨張は別の問題をはらむ。「財務制限条項」である。金融機関が信用力の低い企業に融資を行う際に付ける条件のことで、企業がその基準を割り込むと即座に債務の返済を求められる。

これが東芝に重くのしかかる。16年3月期の第3四半期報告書には「純資産や営業損益、格付けが、財務制限条項に定める一定水準を下回ると債務返済をする」との趣旨が記載されている。

東芝の財務制限条項は、前期までの融資にも付けられていた。前期末に格付けが投機的水準に下げられた時点で、負債の返済を迫られてもおかしくないはずだが、その形跡はない。銀行と東芝との間で、返済の繰り延べ交渉を行ったとみるのが自然だ。

「リストラをしても収益力は上がらないが、融資が巨額すぎ、取引先・従業員も膨大な数に上る。融資の即時返済を迫れば、東芝が行き詰まるのは確実だけに、実行できなかった」というのが銀行の本音だろう。東芝は銀行によって延命させられている“ゾンビ”企業とさえ言えそうな状態である。

不正会計の発覚から1年が経過し、東芝の外見は大きく変わった。

不正を主導した歴代3社長は引責辞任に追い込まれた。複数の事業が切り売りされ、1万人超の従業員がリストラの憂き目に遭った。長年の懸案だったWHののれん問題は、2600億円を減損処理することで一定のめどをつけた。


16年6月には、事業売却を主導した綱川智が社長に就任し、新体制が発足する。綱川は「しがらみのない合理的な経営判断を行い、自由闊達な雰囲気を作り出す」と抱負を語った。構造改革が一段落したのを機にトップ人事を刷新することで、一連の不正会計問題に幕を引きたいわけだ。

ただし東芝内部には今も“聖域”が残されている。
日経ビジネスが繰り返し述べてきたように、WHの買収こそが不正会計の原点だ。巨費を投じたWHが想定通りに稼げなくなったため、複数の事業部門が利益の水増しに手を染めた。WH内部でも「チャレンジ」が求められていた。にもかかわらず東芝は、原子力事業は「順調」と主張し続けてきた。

赤字事業を整理する過程でも、WHは守られてきた。室町は「売れる事業は売る」と宣言し、家電やテレビなどを次々と俎上(そじょう)に載せてきた。一方、累積赤字に陥っていたWHの売却は話題にすらならなかった。

■グレーな経歴より「国策」重視
2600億円の減損に踏み切っても東芝のスタンスは変わらない。WHのロデリックは強気の発言を繰り返し、志賀は「原子力事業全体としては現在も収益力は十分にある」と述べた。

東芝社内では今なお、原子力の未来は「バラ色」なのだ。志賀が会長に昇格する人事も、この延長線上にある。指名委員長の小林は「若干グレーだと思われているが、原子力という国策的な事業をやるうえで、余人をもって代えがたい」と志賀を評した。

不正会計との決別姿勢を示す絶好の機会に、あえて「グレー」な人物を会長として選んだ意味は重い。対外的なイメージが多少損なわれても、原子力ビジネスを重視したわけだ。小林が言うように原子力は「国策」である。東芝はそこに寄り添うと決めたのだろう。

 原子力東芝の意思決定をゆがめる構図は、今も昔も変わらない。現実を直視しない限り、東芝再生は難しい。
日経ビジネス 小笠原啓、林英樹、主任編集委員 田村賢司、坂田亮太郎)
日経ビジネス 2016年5月30日号の記事を再構成]