藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

お題目と実務。

なんだかんだで、IBMのワトソンががん治療で人を凌駕しつつあるという。

ITの怖いところは、最初は浮ついた「キャッチフレーズ」としてしか認知されていないことが、「いつしかリアル社会の必須テクノロジーになっているものがある」ということだろうと思う。

つまり、技術の出だしなのに「これが次世代テクノロジーだ」とばかりにいつも囃し立てるのがよくない、と思う。
技術者は大抵謙虚に、開発と製品化を志しているし、最初から「市場制覇」なんて考えていない。
さらに。

データ総体に潜むパターンを見つけ、その変化をみるやり方は、感染症の広がりや金融システムのお金の流れといったほかの複雑なシステムを分析するのにも使えることがわかっています。

自分たち人間は、これまで多少の大小はあれど「自分の記憶し、演算できるデータ」を基準に勝負してきた。
これが「エクサ」とかそれ以上の扱えるデータを前にどうなるか。

これからのテクノロジーは「画期的な技術素子」とともに「圧倒的なデータ量」も新技術として考えねばならない。
人間が、自分の脳でイメージできる量のデータをはるかに超えたものを「自分たちはどのように想像する」のだろうか。

人のクリエイティビティがまた試されているような気がする。

AIでがん治療 遅れる日本

がん研究は人知を超えた世界へ足を踏み入れつつある

 東京大学医科学研究所は血液がんの診断に、人工知能(AI)技術を活用した米IBMのコンピューター「ワトソン」を使い、治療に成功した。がん関連の遺伝子解析に取り組んできたヒトゲノム解析センター長の宮野悟教授はAIの力を借りてがんの診断・治療を大きく改善したいという。

――ワトソンを使い始めたきっかけは。

 ワトソンが米国の人気クイズ番組で勝ったのをネットで見た瞬間、これだと思いました。実際にがんの診断・治療への応用が始まった米国の病院の話も聞き、2015年にIBMとの共同研究として使い始めました。

 がんの発症や進行のしくみは複雑です。原因遺伝子の変異も多様で、ゲノム(全遺伝情報)の解読が不可欠です。次世代シーケンサーと呼ばれる装置で解読は加速しており、データ量は累計で2エクサ(10の18乗)バイトを超える勢いです。

 医学論文も大量で、米国の公共データベースに2600万件登録されています。50年には、印刷して積み重ねると大気圏外に出るくらいになりそうです。人知を超えた世界に足を踏み入れつつあり、AIの助けが必要になりました。

 ――どう使いますか。

 まず、がん組織などのゲノムデータから、原因となる遺伝子変異の候補を独自の解析ソフトを使ってスーパーコンピューターで見つけます。結果をワトソンに入力するとがんの進み方や治療に関連した論文、臨床試験結果などの膨大なデータと照らし合わせて最適な薬などを示してくれます。

 ゲノムデータを解析して、変異候補が数百万カ所見つかることもあります。研究者が論文を数百本読んでも、変異の意味を解釈し診断や治療に結びつけるのは困難です。ワトソンを使うと、研究者なら1年かかる作業が10分ほどで可能になりました。診断画像の分析などにも有望です。

 ――日本の企業とは組めなかったのですか。

 ゲノムデータを医療現場に役立てる発想が、日本にはあまりなかったように思います。今でもめざすべき医療の未来像がはっきりせず、本当に必要な研究に十分な資源が割り当てられているか疑問です。解析に必要な要素技術はあっても、統合的な研究が評価されないという問題もあります。

 米国立衛生研究所とエネルギー省は協力して、スパコンや大容量データ記憶装置をがん研究のために提供します。ゲノムデータやAIを駆使したがん研究プロジェクトも始まりました。日本でもゲノムデータは集めていますが、ほしいデータも解析できる人材も足りず後れをとっています。

編集委員 安藤淳