目下、最大のテーマは「複雑系」だろう。
今の人類の生活系がすでに「予想できない系」になっている。(というかまだ分からないまま)から、ともかく「今の人類とか地球系」がまずはテーマになるに違いない。
程なく宇宙とか量子にも話は及ぶだろう。
私たちは逆で、予想をたてずにいろいろなデータを放り込んでたくさんの仮説候補を見つけます。
これからの自分たちの生き方は、こんな風になるのだろうか。
これまでの経験や知識がまるで通じない時代。
まるで通じない、は言い過ぎかもしれないが、また「課題と解」という意味では今までのやり方がまるで通じない、ということは十分にありそうだ。
そしてビジネスの世界にもその思いは及ぶ。
データ総体に潜むパターンを見つけ、その変化をみるやり方は、感染症の広がりや金融システムのお金の流れといったほかの複雑なシステムを分析するのにも使えることがわかっています。
「分析と想像。」
そんなテーマに一つの「定石」ができるかもしれない。
"既存の理屈と分析と批判"に辟易してきた自分たち以降の世代に、何か風穴が開いて欲しい。
テクノロジーの進歩が、人の思想に何かをもたらす時代がいよいよ来るのかもしれない。
心と体の相互作用 解明へ
心をひとつのまとまった複雑系として統合的に理解したい
理化学研究所の入来篤史シニア・チームリーダーは心の病の研究や治療薬の開発に役立つ、新しい動物実験の手法の開発に取り組む。新技術を世界に売り込むため理研認定のベンチャー企業も立ち上げた。
――新薬開発や病気の原因解明には動物を用いた研究が不可欠ですが、これまでにない試験装置の開発に取り組んでいるそうですね。
一言でいえば、高等生物の複雑な脳と心、体の相互の関わり合いをひとつの「複雑系」と、とらえて研究するシステムです。サルの仲間のマーモセットを集団で飼育し、テレビゲームのような課題をさせたり互いにコミュニケーションしたりする様子を24時間、脳波や画像などを記録します。
この大量のデータを私たちが開発した手法(複雑系解析アルゴリズム)で分析します。時間的な変化を含め、データの全体像に潜む特有のパターンを見つけ出し、その移り変わりから集団で何が起きているか、変調の現れなどを推測できます。
――パターンの変容から自然に何かが浮かび上がるのですか。
動物実験は「この病気はある遺伝子に変異があるからではないか」と仮説をたて、遺伝子を改変したマウスを使って発病するかどうかなどを調べるやり方が普通です。私たちは逆で、予想をたてずにいろいろなデータを放り込んでたくさんの仮説候補を見つけます。新しい装置は飼育条件を変えるなどして、それらを自動的に仮説として絞り込み、検証します。
調べたいのは心の病で、心と体が相互に作用し合って病気になったり回復できたりする仕組みです。脳と心、体は互いに影響を及ぼし合う複雑なシステムで、一部を切り取るように調べても全体像はつかめません。
――仮説をたて実験で検証し、仮説を修正したり棄却したりする従来の科学の手法とは確かにアプローチが違いますね。
生物は複雑系です。構成要素を取り出して個々に調べる要素還元的な従来の科学の手法ではとらえきれません。とりわけ脳や心が関係する病気では限界があります。
データ総体に潜むパターンを見つけ、その変化をみるやり方は、感染症の広がりや金融システムのお金の流れといったほかの複雑なシステムを分析するのにも使えることがわかっています。
――ベンチャー企業を設立したのはなぜ。
私たちの発想は世界に例がないアプローチだと考えています。装置を研究機関や製薬関連企業に提供して、精神疾患の新薬開発につなげるとともにこの手法をひとつの国際標準にしたい。
(編集委員 滝順一)