藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

普及するほどに。

北朝鮮が盛んにミサイルを飛ばしている。
目に見えると分かりやすいが「サイバーワールド」は同様のことが起きていても、今ひとつ話題性に欠けている。

あらゆる製品や自分たちの日常にITが結びつき、遠くない将来には「自分が自分である認証」も「お金の決済」も日常生活を送る上では「サイバー手続き」なしにはいられないだろう。
そこでもし妨害や破壊が起きて、交通網が破断したり、電源供給が止まったり、機械が暴走したりすれば、まさにサイバーテロなのだが、現実には「ミサイル発射」ばかりが注目されてしまう。

飛躍的に便利になるサイバー社会はそれだけ「サイバー依存社会」である。
今の日本でもsuicaやネット送金が止まったら大騒ぎになると思うが、本当のサイバーテロはそんなレベルではないはずである。
金融も投資も医療もインフラも、加速度的に便利になることは「それだけ注意を持って」臨まねば足元をすくわれる道理を含んでいる。

何事にも「一方に寄りかかること」には注意が必要ではないだろうか。
技術が突出して進むときは、その技術について立ち止まって考える時だ。

そこにある脅威 世界同時サイバー攻撃(ルポ迫真)

 「教育、交通、医療、エネルギーなどで数十万件のウイルス感染が報告された」。中国内陸部の貴州省で5月25日に開かれたIT(情報技術)関連の国際会議。世界のIT大手関係者を前に中国のサイバーセキュリティーの権威、沈昌祥(76)が厳しい表情で語った。

 13日未明、サイバー攻撃が世界を襲っているという一報が中国に飛び込んだ。約30カ国の首脳級を招き、広域経済圏構想「一帯一路(海と陸の現代版シルクロード)」の会議を開く直前だった。

 国家主席習近平(63)の威信がかかる大舞台だ。「一帯一路を絶対に守れ」。公安省トップ、郭声●(たまへんに昆、62)は部下らにシステムの安全確保を厳命した。中国では公安が数万人の「ネット警察」を擁し、ネットの安全も担う。公安は一帯一路の会議を守った一方、自らの組織で失態を見せた。

 「今日は受け付けません」。出入国管理当局や免許センターが13日から14日にかけてこんな貼り紙を出した。管理システムで感染が発覚したためだ。北京、上海、天津、江蘇省でビザの手続きなどが止まり、吉林省では運転免許の試験が延期となった。河南省四川省でも免許などの交通管理システムに支障が出た。

 公安だけではない。石油大手、中国石油天然気(ペトロチャイナ)が北京、上海、重慶江蘇省などで運営するガソリンスタンドの支払いシステムも使えなくなった。

 今回の攻撃は米マイクロソフトの基本ソフト(OS)「ウィンドウズ」の弱点を突いた。公安のシステムを手掛けた沈は「中国は独自のOSを開発する必要性がある」と強調。米グーグルの検索サービスを締め出した中国はネットを巡る独自路線をさらに強めそうだ。

 英国では工場や病院の情報システムがダウンした。探偵小説「シャーロック・ホームズ」でホームズが相棒の医師ワトソンと出会った聖バーソロミュー病院も手術や診察の先送りを迫られた。

 欧州警察機関(ユーロポール)長官のロブ・ウェインライト(49)は「欧州の多くの国で医療部門が特に脆弱だと心配していた」と明かす。英国は欧州債務危機で緊縮財政を進め、公共医療を提供する国民保健サービス(NHS)は予算を減らされた。NHSのパソコンの9割が2014年にサポートが打ち切られたOSを使い続けていた。

 システムを止め、元に戻すための「身代金」を求めたサイバー攻撃。大騒ぎと同時に研究者や企業が真相を探り始めた。

 ある英国在住の研究者(22)は攻撃に使われたウイルスを停止させる方法に気付いた。ウイルスは暴走に備え、緊急停止指令を受け取ると活動を止める仕組みがあった。その指令を出すウェブサイトを研究者が開設し、感染が収まった。

 セキュリティー大手の米シマンテックなどは犯人について「ハッカー集団『ラザルス』とつながりがある」と指摘する。ラザルスは14年にソニー米映画子会社に攻撃を仕掛け、米政府は北朝鮮の関与を断定した。

 かねてサイバー攻撃への関与を疑われ、米欧の批判を受けてきたロシアも、今回は政府のシステムなどで被害を受けた。

 「脅威の根源は米国の情報機関にあるとマイクロソフトが指摘している」。大統領のウラジーミル・プーチン(64)は15日、ここぞとばかりに矛先を米政府に向けた。

 マイクロソフト社長のブラッド・スミスは「米国家安全保障局(NSA)から盗まれた(ソフトの)欠陥が世界中の顧客に影響を与えた」と政府を公然と批判していた。

 NSAのソフトはウィンドウズの欠陥を突いて感染する。外国政府やテロ組織から機密情報を入手するために秘密裏に開発していた。ロシアと関係があるとされる著名ハッカー集団「シャドー・ブローカーズ」が4月、NSAから流出したとして公開し、12日からの攻撃に悪用された。

 サイバー空間は常に米ロや中国などの主要国も北朝鮮も情報入手を競い、攻撃の機会を探る戦場。その「兵器」が市民や企業にも牙をむいた。

 「我々は自分たちにふさわしい敵を選ぶ」。シャドー・ブローカーズはブログで米国に挑戦状をたたきつけた。どんな国や組織も備えを磨くことを怠れば危機にさらされる。(敬称略)