藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

高齢者の出口。

*[次の世代に]行政頼みを止められるか。
日経より。
グループホームと看多機サービス。そして飲食店と障害者就労継続支援事業所。これらを分散させて運営するより、一カ所に集約して注力する方がいいのではないか。これだけの土地があれば、職員の働きやすさの実現と多世代交流を可能にする保育園も併設できる。住まいは、グループホームではなく、もっとスケールアップしてサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)にしよう。
介護の仕事に接していると、日々「構造問題」に思いが及ばない日はない。
不思議なのは「医療保険」も同じ構図なのに介護ほど問題になっていないことだ。
(やはり「病気」について世間は寛容なのかもしれない)
 
国の財政がどこで破綻するかは分からないが、今高齢者が「年金+生活保護」でなんとか生きているのを考えると、絶対にどこかで「自力の生活」ができる方法を探さないと高齢者は野垂れ死にになるだろう。
だから「そうならないために行政に予算割く」のは本末転倒だ。
どれだけ「介護(医療)保険や行政の手間をかけない仕組みを作るか」がテーマになると思う。
そんな試みがいくつかの地域で始まっている。
記事にある仙台の「アンダンチ」もその一つの先進事例だ。
高齢者をどう支えるか。
高齢者は(自ら)どう生きるか。
を地域が考えていかなければ(行政まかせでは)多くの地域は廃れてしまうだろう。
「しかし、「アンダンチ」の高級サ高住の運営は、福井さんの最終目標ではありません。本当に実現したいのは、低所得でも安心して暮らせるサ高住の開設なのだと言います。」
ゴールはそこに違いないと思う。
 
 
 

介護を知らなかった30代元商社マンが11億円の融資を受け、複合福祉施設「アンダンチ」を開設できた理由

多世代交流複合施設アンダンチ。アンダンチとは仙台の方言で「あなたの家」のこと
介護のことも介護業界も、よく知らない。そんな30代の若者が介護業界に参入し、2億円の融資を受けて介護事業所を新規開設。その3年後には、さらに11億円の大型融資を受けて1000坪の土地を購入し、多世代交流複合施設を開設しました。
それが、2018年8月に開設した「アンダンチ」(宮城県仙台市)です。開設したのは、元商社マンの福井大輔さん(35歳)。なぜそんなことができたのでしょうか。まずは、福井さんが最初に開設した介護事業所の話から。

ホームページもない介護事業所の多さに衝撃

商社に勤めていた福井さんが介護業界に関わったきっかけは、開業医の親族から、「在宅患者を支えるための環境整備に力を貸してほしい」と求められたこと。いずれは独立したい、起業するなら国際協力分野で、と考えていた福井さん。数ヶ月悩みましたが、介護事業へのチャレンジを決めました。
2013年9月に商社を退社。介護職の入り口となる介護職員初任者研修を受講しながら、どの介護サービスに参入するかを検討します。しかし、情報を集めようとインターネットで仙台市内のデイサービスなどを検索しても、ホームページがない事業所が多く、あっても情報があまり更新されていません。生きた情報をスムーズに得られないことに、“情報が命”の世界で生きてきた元商社マンの福井さんは驚きました。
「介護業界の外から来た人間からすると、介護事業所でどんなことをやっているのかよくわからない。非常にクローズドな空間、というイメージです。インターネットでも情報を集められないのでは、ケアマネジャーに事業所を紹介されたご利用者やご家族は、自分で足を運んで見に行くしかありません。今後、高齢者がますます増えていくのに、このままでいいのかと感じました」
実際、介護事業、中でも中小事業者が多い訪問介護やデイサービスなどの在宅サービスでは、ホームページの開設があまり進んでいません。というのも、在宅の介護サービスは、サービス提供エリアが限定されていて、広いエリアからの集客に向くインターネットより“口コミ”が重視されがちだからです。そのため、今も、ホームページ整備やインターネットでの情報発信へのモチベーションが低い事業者は少なくありません。
福井さんは、事業所を開設したらインターネットで積極的に情報発信しようと決めました。「顔がわかる写真の掲載OK」「名前の掲載OK」など、きめ細かい同意書を作成し、利用者の承諾を得る。そして、SNSでの情報発信を積極的に行っていく。こうした実践は、事業所開設後、大きな力を発揮していくことになるのです。
「福ちゃんの家」「アンダンチ」を運営する(株)未来企画の代表取締役・福井大輔さん(筆者撮影)

苦しんだ、事業所開設後の1年半

2015年7月、福井さんは小規模多機能型居宅介護(以下、小規模多機能サービス)「福ちゃんの家」を開設しました。小規模多機能サービスは、住み慣れた地域で暮らし続けたい人を支える「地域包括ケア」の中核的な介護サービスとして、2006年に創設されました。事業者は、通い、訪問、泊まりのサービスを、利用者の心身の状態や家庭の事情に応じて組み合わせて提供し、要介護度ごとの月額定額制の介護報酬を受け取ります。
小規模多機能サービスは、在宅で暮らす認知症をもつ人を支えるのに、非常に有効なサービスです。しかし、訪問にも通いにも対応できる人材の確保や、収益性の問題などから、全国的に見ても、なかなか事業所数がふえていかない状況にありました。
当時、普及途上だったこのサービスに、バックに親族の医療法人があるとは言え、介護業界初心者である福井さんが初仕事として取り組むのは大きなチャレンジです。当初は、職員も最低基準を満たす人数をようやく確保してのスタートでした。
「開設から1年半ぐらいは本当に大変でした」と、福井さんは言います。
利用者は思うように増えない。増えても、介護報酬が少ない要介護度が低い人ばかり。その一方で職員の退職も続き、福井さんは足りない夜勤担当をカバーするために「ほぼ、事業所に住んでいた時期がありました」と笑います。
2015年7月に開設した「福ちゃんの家」(「福ちゃんの家」ホームページより)

情報発信が利用者も職員も引き寄せた

そんな中で、成果が見えてきたのが、前述のSNSでの情報発信でした。フェイスブックやブログに掲載した日々のケアや取り組みを見たケアマネジャーや家族から、感謝の言葉や好意的な評価のフィードバックを受けるようになったのです。
「画像を見てもらえるSNSでは、いかにいい表情の瞬間を捉え、それを発信するかが重要です。『顔の掲載OK』という同意を得て取り組んだ成果は、思った以上に早く出たと感じました」
SNSでの情報発信は、人材の確保にもつながりました。
「ホームページやSNSの情報を見た介護職の方から、『職員を募集していないか』と問い合わせが入るようになったのです。うちのケアに共感して連絡をくれる人ですから、採用すると、実際、いいケアを提供してくれます。開設から1年半かかって、ようやくご利用者も増え、いい人材も採用でき、運営全体がうまくいくようになりました」
利用者の女性の85歳の誕生祝いに、本人の希望で寿司屋でランチ(「福ちゃんの家」フェイスブックより)

「なぜ福井さんのところには人が集まるのか?」の問い

福井さん、そして「福ちゃんの家」は、町内会長のサポートもあり、地域住民との関係も深めていきました。
「地域のゴミ拾いにご利用者と一緒に参加したり、子ども会の廃品回収に協力したり。毎月、うちの栄養士や地域の方を講師役にした料理教室も開いています。昨年は、インターンで来た大学生が、地域の子どもたちを集めて、2週に1回、学習支援を行ったりしました」
そうした取り組みも、福井さんはすべてSNSで発信しています。それを見た他の事業所から、「なぜ福井さんのところは人が集まるのか」と聞かれ、情報発信の大切さを伝えたこともありました。
そうした他事業所との関わりから、福井さんは事業者同士の勉強会の開催を提案。月1回(現在は2ヶ月に1回)、小規模多機能サービスの管理者やケアマネジャーが集まり、利用状況についての情報交換や、抱えている課題について話し合う勉強会を開催するようになりました。
月1回開催されている「福ちゃんの家」の料理教室の様子。この日のメニューはピザ(「福ちゃんの家」フェイスブックより)

地域の事業所の連携による「分担営業」を提案

勉強会で見えてきたのが、病院との連携のあり方でした。病院は、小規模多機能サービスにとって、退院患者を紹介してくれる重要な連携先です。しかし、病院で退院支援を担う地域連携室やソーシャルワーカーには、まだ小規模多機能サービスをよく知らない人もいます。また、小規模多機能サービスを退院する患者に紹介しようと考えても、空きがある事業所を探す手間をかけられない場合もあります。
「そこで、ソーシャルワーカーの方の仕事を軽減しつつ、小規模多機能サービスに紹介してもらうためにどうしたらいいかを考え、事業所の状況一覧表をつくることを提案しました。事業所名、住所、連絡先、管理者名、ケアマネジャー名、定員数、利用者の状況、空き状況、受入れ可能な利用者のタイプなどを、エクセルの表にまとめたのです」
併せて、各事業所と病院の所在地をマッピングした地図も用意。空き状況表とセットで持参し、病院に営業することにしました。役立つ資料をつくって営業に結びつけるあたりは、さすが元商社マンです。
「営業と言っても、どこの事業所もマンパワー不足で人員は割けません。だから、それぞれの事業所が、この2つの資料を持って自事業所近くの病院や地域包括支援センター*に行き、地域の小規模多機能サービス全体の営業をすることにしました。いわば、分担営業です」
*地域の介護サービスや高齢者の生活支援などについての総合相談窓口
A事業所が近くのB病院に営業に行っても、時にはA事業所ではなくC事業所への患者の紹介があるかもしれません。しかし、C事業所が営業に行ったD病院からA事業所への患者の紹介が来る場合もあります。小規模多機能サービスの事業所同士で持ちつ持たれつ。これが功を奏しました。
「病院や地域包括支援センターからは、紹介しやすいと評価していただきました。事業所間でも、今は、『A病院から紹介が来たが、うちでは受けられないからお宅で受けてもらえないか』といった話ができるようになっています」
この勉強会の評判が仙台市に伝わり、3月には、市主導で市内の全小規模多機能サービスと全看護小規模多機能型居宅介護*(以下、看多機サービス)を合わせた、50事業所ほどの連絡会が開催されることになりました。
*小規模多機能サービスに訪問看護機能が加わったサービス。
「福ちゃんの家」では年末に地域住民も招いて餅つきを行う(「福ちゃんの家」フェイスブックより)

地域全体を全事業所で支える意識転換につながるか

さらに、福井さんの提案で、今、仙台市と一緒に、この連絡会で取り組もうとしているのは、各小規模多機能サービス事業所がどの地域まで訪問に行っているかをマッピングする作業です。
仙台市は、小規模多機能サービスの設置を中学校区に1事業所と定めています。しかし、実際に事業所からの訪問でカバーできる範囲は、中学校区より狭く、「空白地帯」があるのではないかと、福井さんは感じていました。
「空白地帯を『見える化』できれば、中学校区に1事業所ではなく、小学校区に1事業所必要だとわかるかもしれない。あるいは、空白地帯に開設しようと考える事業所が出てくるかもしれない。『見える化』でわかることがあるのはないかと提案したら、市もやってみようと言ってくれました」
病院への分担営業、空白地帯の「見える化」は、地域で暮らす要介護者を、個々の事業者が支えるのではなく地域の事業者がスクラムを組んで支えていくという、意識の転換につながる一歩になるかもしれません。情報の価値と使い方を熟知している福井さんが加わったことで、仙台市の小規模多機能サービスを取り巻く状況は、今、大きく変わってきているのです。
「アンダンチ」には、サ高住、飲食店「いろは」、企業主導型保育園、看多機サービス、障害者就労継続支援B型事業所がある(筆者撮影)

500坪のはずが1000坪の土地を購入することに

さて、ここからが複合福祉施設「アンダンチ」開設の話です。
福井さんは「福ちゃんの家」を開設した2015年時点で、実はすでに3年後には看多機サービスの事業所を開設することを計画していました。親類の開業医が運営するクリニックで、2014年から訪問診療を始めており、シームレスな医療・介護体制の整備を目指したいと考えていたからです。
小規模多機能サービスを手がける中で、福井さんは、利用者の家族から、在宅介護が厳しくなり、入居先を求める声をしばしば聴いていました。
「だから、住まいのことも考えなくてはと意識していました。それで、当初は、認知症グループホームに看多機サービスを併設させるイメージで、500坪くらいの土地はないかと、銀行に探してもらっていたのです」
同時に、福井さんは介護予防や疾病予防に貢献できる場づくりもしたいと考えていました。それも敷居を低くして、一般の人も足を運びやすい場――「食」から考える健康や予防、ライフスタイルの提案などができる飲食店の運営を考えました。
「経営収支を安定させるため、飲食店に障害者の就労支援事業所を併せたら、障害者の働く場にもなり、収支が安定するのではないかと考えて、こちらは駅の近くのテナントなどを探してもらっていました。ところが、銀行から紹介されたのが、1000坪の土地だったのです」
グループホームと看多機サービス。そして飲食店と障害者就労継続支援事業所。これらを分散させて運営するより、一カ所に集約して注力する方がいいのではないか。これだけの土地があれば、職員の働きやすさの実現と多世代交流を可能にする保育園も併設できる。住まいは、グループホームではなく、もっとスケールアップしてサービス付き高齢者向け住宅(以下、サ高住)にしよう。福井さんはそう考え、当初の計画の倍の土地の購入を決めました。
こうして、2018年7月、「アンダンチ 医食住と学びの多世代交流複合施設」は生まれたのです。
「アンダンチ」にある「いろは」は、ライフスタイル提案型飲食店。東京・台東区の「(株)結わえる」が、福井さんの理念に賛同し、初めて地方出店した(筆者撮影)

11億円を単独融資した銀行の本気の支援

当時、職員20数名の(株)未来企画(「福ちゃんの家」の運営会社)にとって、1000坪の土地での複合施設運営は、とてつもないチャレンジ。資金面の課題もありました。
「資金力はありませんでした。信用力も、医療法人がバックにあること、『福ちゃんの家』の運営実績があることぐらいです。それでも、この1000坪の土地購入の話は、銀行側から持ちかけてくれました。それはつまり、融資する用意がある、ということだと受け止めました」
(株)未来企画では、「福ちゃんの家」の開設に際し、銀行から2億円の融資を受けていました。さらに1000坪の土地を紹介してきた別の銀行から、役員決裁での11億円の融資。それは、周囲から「奇跡」と言われました。
サービス付き高齢者向け住宅「アンダンチ・レジデンス」のエントランス(筆者撮影)
特別養護老人ホームの新規開設への風向きは、人材不足や入所申込者の減少などを背景に、今、転換期にあります。
「銀行は今、従来型の施設建設への融資は、リスクが大きいと見ているらしいのです。一方、『アンダンチ』のような複合施設を、収支を補完し合える新しいモデルととらえ、成功事例にしたいと考えてくれているようです」
情報を活用し、人を惹きつけ、状況を変えていく福井さんの持つ力を、銀行が高く評価しているということでしょう。
「アンダンチ」を支えていこうという銀行の強い意志は、11億円を複数行による協調融資ではなく、単独融資として実行したことからも見て取れます。
福井さんはサ高住の設計等では、建築デザイン、ケアデザイン、運営スタイルなど様々な面で高い評価を受けているサ高住「銀木犀」シリーズを手がける(株)シルバーウッドと提携。仙台市内にこれまでなかった、ハイクラスのサ高住として開設しました。
無垢の木をふんだんに使い、シンプルな中にも温かみが感じられるサ高住「アンダンチ・レジデンス」(筆者撮影)
住宅内には、薪ストーブがしつらえられたコーナーもある(筆者撮影)
しかし、「アンダンチ」の高級サ高住の運営は、福井さんの最終目標ではありません。本当に実現したいのは、低所得でも安心して暮らせるサ高住の開設なのだと言います。
「系列の医療法人では、人工透析患者の在宅医療を担っています。当初から、そうした患者さんの中でも低所得で不安を感じている方に、安心して暮らせる環境を整備することが、僕が介護業界に転じた理由でした。ですから、どうすればそれを実現できるかを考え、ここまで事業を進めてきたのです。『アンダンチ』のサ高住でハイクラスのケアを提供し、そこで収益を上げる。そうすることで初めて、低所得の方を支える場づくりができると考えています」
2019年2月に「アンダンチ」で開催された介護業界勉強会「未来をつくるkaigoカフェ」で、福井さんと(株)シルバーウッド代表取締役下河原忠道さんが対談。全国から大勢の介護業界関係者が集まった。
高齢者が増え、介護人材不足が続く今、旧態依然とした介護業界の発想で高齢者介護を考え、支えていくことはすでに限界を迎えています。福井さんのような他業界の経験者が加わり、異なる視点から新しい介護業界のあり方を考え、構築していくことが、今、求められているのはないでしょうか。
<取材協力>