藤野の散文-私の暗黙知-

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コンテンツとの距離

*[若者文化]アイコン化する文豪。

もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら (宝島SUGOI文庫)

もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら (宝島SUGOI文庫)

 
月の読書時間ゼロが48%を超え、本を読まなくなった若者が…と書いて、自分は人生のほとんどでビジネス書以外を読んでいないことに気づく。自分もそっち側だった。
でそんな若者が多様化し、自分の好きなテキストだけを貪るようになったら「共通体験」を求めて、結局文豪にたどり着いた、と言う話。
けれど
「1973年のカップ焼きそば
きみがカップ焼きそばを作ろうとしている事実について、僕は何も興味を持っていないし、何かを言う権利もない。エレベーターの階数表示を眺めるように、ただ見ているだけだ。(後略)」
と読むとニヤッとさせられる。
SNSに投稿されて拡散しているというから、今の若い人は共通体験が欲しいのか、それとも他人との関わりは煩わしいのか。
 
それにしてもコンテンツは増えに増え、リーチする距離は限りなく身近になり、「文学作品」が実に売れにくい世の中になっている。選択肢の山の中に埋もれてしまっている。
文藝春秋が完全に電子化される頃には純文学は滅びているのか、それとも若い読者を増やして再興しているだろうか。

文豪いじりSNS映え 奇書「もしそば」が売れる理由学生消費 裏からみると…(2)

 
2019/12/16

「もしそば」を手にする著者の1人、菊池良氏(左)と担当編集者の九内俊彦氏(右)

「もしそば」を手にする著者の1人、菊池良氏(左)と担当編集者の九内俊彦氏(右)
U22世代に売れた商品について、そのヒットの要因や、仕掛け人の動きを追う新企画。今回は、文豪や有名作家の文体をまねてつくったベストセラー本「もし文豪たちがカップ焼きそばの作り方を書いたら」(神田桂一・菊池良著 宝島社 通称・もしそば)を取り上げる。若者の活字離れがいわれる中で、学校の教科書にも載っている文豪や有名作家の文体をパロディーにするスタイルと、ツイッターやインスタグラムなどのSNSにフィットする内容とが相まって若い世代に受け入れられたようだ。
「もしそば」は、100人以上の国内外の文豪や有名作家の文体をまねて、カップ焼きそばの作り方を延々と書き連ねた本だ。太宰治芥川龍之介などの文豪から、小沢健二星野源などのミュージシャン、さらには、やまもといちろう、ちきりんなどのブロガーまでが登場する。早速、本の中から引用してみよう。
1973年のカップ焼きそば
きみがカップ焼きそばを作ろうとしている事実について、僕は何も興味を持っていないし、何かを言う権利もない。エレベーターの階数表示を眺めるように、ただ見ているだけだ。勝手に液体ソースとかやくを取り出せばいいし、容器にお湯を入れて三分待てばいい。その間、きみが何をしようと自由だ。少なくとも、何もしない時間がそこに存在している。好むと好まざるとにかかわらず。読みかけの本を開いてもいいし、買ったばかりのレコードを聞いてもいい。同居人の退屈な話に耳を傾けたっていい。それも悪くない選択だ。結局のところ、三分間待てばいいのだ。それ以上でもそれ以下でもない。ただ、一つだけ確実に言えることがある。完璧な湯切りは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。
村上春樹作品を読んだことがある人ならニヤリとすることだろう。このまわりくどい表現は、村上春樹の初期作品あるあるとして、マニアはもちろん、代表作しか読んでいない人でもわかる。
その後も、文体模写芸はこれでもかと続く。
麺の細道 から容器 大食いどもが 夢の跡
池上彰なら
今回はなかなかニュースでは取り上げられることのない「カップ焼きそばの作り方」について解説したいと思います。
カップ焼きそばは、「適当」に作れるところが、よいところだと思う。
 
これ以外にも、どこかで聞いたことのあるような、読んだことのあるような文体模写芸が続いていく。その人物のことや文体を理解しきれていなくても、くすりと笑える。
全国大学生活協同組合連合会が2019年2月に発表した『第54回学生生活実態調査の概要報告』によると、読書時間「0」の学生は48.0%だった。1日の読書時間の平均は5年ぶりに伸びて30分(前年比+6.4分)、読書時間60分以上の人が26.7%と前年から8.4ポイント増加するなど明るい兆しもあるが、大学生の約半数が読書習慣なしというのが実態だ。
そんな中で、もしそばは2017年6月に初版2万部でリリース後、すぐに増刷がかかり、2019年10月時点でシリーズ全体で15万部のベストセラーとなっている。文庫化され、最近では電子版もリリースされたほか、台湾版、韓国版と国際展開も進んでいる。出版した宝島社によると、読者の3分の1が10代から20代の若い層。「埼玉県の高校図書館司書が選んだイチオシ本2017」にも選ばれたほか、大学生と本のタッチポイントである大学生協でも売れ行きは好調で、SNSへの表紙の投稿が相次いだ。

なぜ、本を読まないとされる若い世代に受け入れられたのか。著者の一人である菊池良氏と、宝島社の担当編集者九内俊彦氏に話を伺った。
著者の菊池氏はあるとき、読書離れの進む若者世代にも、共通の読書体験があることに気づいた。それが、教科書に載っている「文豪」と呼ばれる人たちの作品だった。インターネットで情報が手に入り、お金や時間をかけて読書をする習慣がなくても、教科書だけは読むのだ。
実際、ツイッターなどのSNSで評判になる、文体や設定を模写したパロディー投稿でも「鉄板」でウケるのは太宰治の「走れメロス」や、芥川龍之介の「羅生門」など、教科書で頻繁に見る作品だ。
文豪のキャラクター化も進んでいる。泉鏡花芥川龍之介が登場するゲーム「文豪とアルケミスト」(DMM GAMES)や春河35朝霧カフカが書いた「文豪ストレイドッグス」(KADOKAWA)などが若者にヒットしている。価値観や志向の多様化が進む中、文豪こそが実は共通体験になっている。
文体の模写など、作品を「いじる」投稿は若者も含め、SNS上で盛り上がりを見せる。菊池さんは2015年に村上春樹風の投稿をTwitterに投稿して反響を呼び、テレビ番組の中でも一部、取り上げられたほどだ。
ちなみに、現在、32歳の菊池さんが最初に読んだ村上春樹は「海辺のカフカ」だったという。村上春樹が書かないようなことを、彼の文体でSNSに投稿したら、ウケた、バズった。「面白くて、初めて上下巻読みきった小説でした。文体が格好良く、模写したものも格好良くなるので書いていて気持ちいいです」と語る菊池さん。この「文体模写芸」が売れる素地を感じたという。

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