藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

土俵を作る。

*[ビジネス]競合不在。
顧客主義を重んじ、そのそあまりの徹底ぶりで側からはまるで宗教(道)のように見える会社がまた一つ、日経より。
その分野はトイレのメンテナンスだという。
「ニオイの元」を機械で計測して科学的に突き詰め「原因不明」を許さない徹底ぶりでなんと「厠(かわや)道」なる資格まで創設したというから大したものだ。
垂直に突き詰めた"深堀り"を全社員に「横に広げる」様子は凄まじい。
そして同業者に比べてサービス料金は5倍も高いとのこと。
 
パラノイドだけが生き残るインテル創業者の著書だが改めてなるほどと思う。
アメニティと同業他社は、トイレメンテナンスというくくりでは同じでも、実質的には異なる土俵で事業を展開していると捉えたほうがいいだろう。
自分も含めて事業がなかなかスムースにはいかないなぁ、と考えている人は"徹底"することを改めて考えるべきかもしれないと思った。
今の自分の仕事も「これでお終い」にしないでもっともっとやってみる。
お客のフォローとか実績の宣伝とか科学的なアプローチとか、できることはそう考えればまだまだありそうだ。
そこまでやるか ! を考えよう。
 
トイレメンテナンスを極め競合不在の強さ アメニティ
 

 
内視鏡風速計を使って、トイレのあらゆる場所をスタッフが検査する
アメニティ(横浜市)の事業は商業施設にあるトイレのメンテナンス。そのサービスの徹底ぶりが群を抜き、競合は実質的に存在しない。
 
トイレ清掃を請け負う会社は世の中にごまんとあるが、「うちのサービス価格は他社より5倍は高い」と山戸伸孝社長は語る。
 
「一言で表すなら『トイレの専門医』。医師が複数の検査で病気の原因を突き止めるように、当社は測定機を駆使し、トイレの汚れ、臭気などを根源から除去する」
 

原因を根治する「専門医」

通常のトイレ清掃は、便器などを洗って外見の汚れを取り、芳香剤を置いて臭気を緩和する。
 
対するアメニティは臭気の濃度を検知機で調べ、発生源を特定する。さらに風速計を使って、換気の状態を確認。排水管に専用の内視鏡を差し込み、尿石の付き具合なども調べ上げる。その上で高圧洗浄器や尿石除去剤などを使って、便器の奥、裏側、排水管内、床などから汚れと臭気の発生源を取り除くのだ。
 
「実は、尿そのものにはアンモニアは含まれていない。尿素が水と反応してアンモニアを作り、尿内のカルシウムイオンが、尿石となる。時間がたつほど化学反応が進み、アンモニア臭を発生させるだけでなく、尿石も付きやすくなる。化学反応する場所が見落とされていないか。それを探し出す」
 
そう説明する山戸社長の口ぶりはさながら研究者。自称「トイレの専門医」もうなずける。内視鏡まで使って、トイレの臭いに立ち向かう会社は聞かない。
 
アメニティは商業施設や駅、外食チェーン、病院などに月に1度のペースで訪問し、こうした細かな検査を実施する。トイレの快適さが施設のイメージにも大きく影響を及ぼすため、アメニティの存在価値は上昇。売上高はここ数年9億円前後で推移し、経常利益率は6、7%を確保している。
 

「トイレ診断士」を創設

アメニティは山戸社長の父の里志氏が創業した。もともと経営コンサルティング会社に勤めていたが、あるクラブのトイレに入ってこう思った。「お姉さんはきれいだが、トイレは汚い」--当時はナフタリンが吊り下げてある程度で臭いが気になった。
 
きれいなトイレはどうすれば実現できるか。里志氏は1975年に独立し、研究を重ねる。途中から息子の山戸社長も加わり、今の事業モデルを築いた。
 
独自のノウハウをてこに「アメニティネットワーク」というフランチャイズチェーンを展開。現在67社が加盟する。北海道から沖縄までカバーし、韓国と香港にもサービス拠点がある。
 
97年には独自の「トイレ診断士制度」を設け、トイレメンテナンスの専門家養成に力を入れてきた。
 
学科試験と実技試験から成り、例えば学科試験の「○×テスト」では「(臭いのもとである)イソ吉草酸の認知閾値は0.04ppmである(ちなみに正解は0.0004ppm)」など難易度の高い設問が並ぶ。
 
「トイレ診断士2級」は社員や加盟店従業員の90%が取得しているが、1級は30%と狭き門。最上級の資格は「トイレクリーンマイスタートレーナー」という指導者レベルだ。現在2級が73人、1級が70人、トレーナーが61人。2003年には厚生労働省に社内検定制度として認定された。
 
しかし、なぜそこまで徹底するのか。山戸社長も当初、トイレのデータを集め続けながら「こんなことをやって意味があるのだろうか」と考えていたという。
 

ひたすらデータを取る

あるターミナル駅のトイレについて、臭気などの数値基準を作ってほしいと依頼されたことがある。
 
その日はクリスマスイブ。着飾った人たちでごった返すなか、山戸社長は一定間隔で何度もデータを測った。「おれは何をしているんだろう」。そんな思いが、途中、何度か頭をよぎったという。
 
「しかし、人から見ればバカじゃないかと思われるようなことを地道に積み重ね、データを集めてきたから、私たちの今がある。清掃回数や芳香剤の数を増やすだけでは不十分。本当にきれいなトイレをつくりたいし、そうするとお客様も利用者も喜んでくれる。一見意味がないと思われることでも、続けていれば意味が出てくる」
 
各種分析器を駆使してデータを集めても、どこまで生かせるかは分からない。しかし、それをしなければおそらく問題の本質にはたどり着けない。目先を優先するか、それとも、本質を追求するか。その差が大きな競争力を生む。
 

無理な成長はしない

山戸社長は言う。「あるテレビ番組で、一流パティシエを目指す日本人を取り上げていた。フランスの一流店に修業に行ったら、実はレシピは自分が作っていたものと同じだった。では、その差は何かというと徹底する度合い。そのシェフは、物事を徹底するかしないかで結果が違うことを学んだという。人と同じことをやっているようでも、それをどこまで突き詰めて徹底できるか。ここが重要だと思う」
 
山戸社長が2代目社長に就いた当初、創業者の父と違い、カリスマ性のない自分がどのように経営をしたらいいのか、悩んだという。
 
坂本光司氏の『日本でいちばん大切にしたい会社』などを読み、社員の幸せを実現するという考え方が、とてもふに落ちた。社員や社会に幸せを提供する会社なら、社会に必ず必要とされるから、会社は自然に伸びていくはず。私たちのトイレメンテナンス事業の考え方も、まさにそれに合致するものだった」
 
父の里志氏は、未上場企業の株式を売買できるグリーンシート市場に公開するなど、企業成長を意識していた。
 
山戸社長も年10%成長を目指しているが、無理やり会社を大きくする気はないし、社員を疲弊させてまで大きくしたいとも思わないという。
 

「厠道」を追求する

むしろ、自社の強みであるトイレ診断の精度とサービスの向上に努めている。月に一度のトイレ訪問時に作成する報告書では、トイレ・便器ごとに、未解決の不具合が赤字、訪問時にアメニティが解決した問題は緑字、顧客側で解決した問題は青字で示されている。
 
便座下のひび割れ、便座ピンの紛失、表示シールのはがれなど、あらゆる点をチェックし、報告する。訪問は月1回のため、指摘点を顧客側が日々の清掃で実践してこそ、トイレを真にきれいに保つことができる。
 
だから、この赤字を緑字や青字に変えるようPDCAサイクルを回すことを顧客にも求めるのだ。まさしく顧客と一体的な関係を築く教育化そのものである。
 
山戸社長は言う。「世界中を探しても、ここまで科学的にトイレを診断し、その実行まで細かく指導するのは、おそらくうちくらいだろう。『そこまでやってどうするのか、あんたはバカか』と言われようとも、私たちは『厠道(かわやどう)』をとことん徹底する。仕事を突き詰めれば、他社と競争することもない」
 
★★解説:だから儲かる★★
 
他社の5倍の価格でも顧客を増やせるのは、なかなか常識では考えにくいことだが、アメニティのサービスを知ると、それも納得できる。
 
「美しいトイレ」という顧客のゴールははっきりしている。これをどこまで実現するか。トイレを表面的にきれいにするのは簡単だが、そうではなく、科学的に検証し、顧客の協力も得ながら、顧客と共に美しいトイレを実現する。
 
アメニティと同業他社は、トイレメンテナンスというくくりでは同じでも、実質的には異なる土俵で事業を展開していると捉えたほうがいいだろう。
 
顧客を大切にすることは大事だが、どうしてそこまでやる必要があるのか。そこまで時間と費用をかけて、何のリターンが得られるのか──。私たちは、ついそうした言葉を発してしまいがちだ。しかし、安易に妥協してしまうと、顧客の本質的なニーズに応えられない。
 
価格競争から脱したいと思っていても、方策が見つからないという人は多い。確かに価格競争から脱するのは一筋縄ではいかないかもしれない。しかしそんな人たちに、アメニティの山戸社長の言葉の数々は鋭く突き刺さる。競争を憂う前に、どこまで仕事を徹底できているか。そこを自問したい。

 
アメニティの三段活用
[書籍「リアルビジネス3.0~あらゆる企業は教育化する~」から再構成]