藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

重みづけの時代。

FTより。
ITによるポピュリズムが世界を劣化させる、という話は実は当たらないというコラム。
これは「透明化」を怖がる一派の常套手段だと思う。
今の保守派は「本当の透明化」が恐いのだ。
だから「一般市民はアホだ」と言ってはばからない。
 
台湾ではすでに1000万人の人がデジタルの政治プラットフォームに参加し、政策や議事について公開して市民と双方向のやり取りを実現しているという。
分散化技術は、アナログ時代には解決が不可能だったであろう、大規模かつ複雑な問題に対する一般市民の意見を整理できるという側面がある。重み付け投票がいい例だ。(中略)
重み付け投票では、一つの議題に対して賛成か反対かの二者択一を迫らない。多くの人々がデジタル・プラットフォームを使い、多様な争点について自分がどれだけ重視しているかを表現できる手法だ。 
これがこれからの特徴だろう。
今まではメディアが主導し「右か左か」「増税か否か」「合憲か違憲か」を取りまとめるので精一杯だったと思う。
いちいち「右と左の間」にあるいく通りもの選択肢について議論する時間とシステムがなかったのだ。
 
デジタル技術は衆愚を招く、という人もいるが自分は「ようやく末端まで議論が深まる」と思っている。
街中でスマホを使って「これには賛成」「これには反対「「これには条件付き」と考える若者が増えるのに違いない。
若者は参加する気がないのではなく、大人たちの保守派にしらけているだけなのに違いない。
 
  [FT]民主主義を鍛える「分散化」 
 
巨大IT(情報技術)企業の力は競争を阻害し、自由民主主義を劣化させる――このところ、こうした議論をよく耳にする。米連邦取引委員会(FTC)が先日、IT大手による過去の企業買収を再調査すると発表した理由の一つでもある。世界中であらゆる政治勢力がデータやソーシャルネットワークを自分たちに都合よく操作しているのではないか、との懸念が消えないのも同じ理由からだ。

 
    イラスト Matt Kenyon/Financial Times 
しかし、それとは逆の事実も存在する。監視国家の暗雲が垂れこめるなか、分散化技術が、個人や自由民主主義を世界中で支えている。
 

台湾「データの管理人」育てる

台湾がその好例だ。最近、台湾当局のデジタル担当政務委員(閣僚級)である唐鳳(オードリー・タン)氏から話を聞く機会があった。唐氏はフリーランスのソフトウエア・プログラマーで「保守的アナキスト」を自称する。2014年に中国政府が台湾での影響力を強める中で起きた抗議活動「ひまわり学生運動」で名を上げた。
 
唐氏は、ネットを通じて一般市民の力を生かす手助けをする「市民ハッカー」でもあった。現在は、分散化技術の代表例である分散型台帳や重み付け投票といったオープンソースのオンライン・プラットフォームを利用して台湾に参加型民主主義を広めようとしている。
 
今では台湾市民の約半数がオンライン・プラットフォームを通じてデジタル統治に参加している。米ウーバーテクノロジーズが運営する配車サービスの台湾参入を認めるべきだが、従来のタクシー料金より安くしてはならない、といった労働法の改正議論に利用されているほか、持ち帰りの飲み物にプラスチックのストローを付けることを禁止するといった独自の法案提出など、あらゆる面で意見の表明が可能だ。
 
現在、約1000万人の市民がこのプラットフォーム上で活動している。法案の策定に参加するだけでなく、政治家の発言内容が事実かどうかもチェックしている。台湾当局は、当局機関の管轄分野で誤った主張がネットやソーシャルメディアに投稿された場合は、各機関に2時間以内に反論するよう求めている。
 
また、公共の課題に対する革新的な技術解決策を生み出すことを目的にした当局主催の「総統杯ハッカソン」にも参加者が集まる。台湾市民は公立学校の教育課程の一環として、データの消費者にはとどまらず、いかにして「データの管理人」になるかを学ぶ。
 
台湾では透明性を非常に重視している。唐氏は記者会見の内容を必ず数日以内にネットに公開する。こうしたことは、台湾の統治体制への信頼を築くために大いに役立つと思われる。
 
スウェーデンの研究団体V-Demの報告によれば、台湾は世界でもとりわけ多くの偽情報にさらされているという。偽情報の多くは中国本土から配信されている。にもかかわらず、台湾では独立派の政治家の支持率が上昇している。唐氏はここに政治家と市民の相互関係があるとみている。政治家が一般市民の政治への直接参加の機会を広げれば、市民は政府への信頼をより強めるのだ。ソーシャルメディアが「偽の敵対感覚」を生む以上に、台湾では分散化技術を通じて人々が「現実を共有している感覚を持てる」ようになってきたと唐氏は言う。
 
同じことは他の多くの国・地域でも言える。例えばイスラエルでは、緑の党の党首で中流層の不満の抗議活動を主導してきたスタブ・シャフィール氏が、ネット上で仕事を受発注するクラウドソーシングでIT技術者に資金を提供し、不透明だった同国財務省のデータを見やすくした特製のデータ解析アプリを開発させた。同氏は現在、経済協力開発機構OECD)の透明性委員会の委員長として、各国の政治家にその手法を伝授している。
 

二者択一でない投票で問題解決

分散化技術は、アナログ時代には解決が不可能だったであろう、大規模かつ複雑な問題に対する一般市民の意見を整理できるという側面がある。重み付け投票がいい例だ。これは経済学者のグレン・ワイル氏が共著「ラディカル・マーケット 脱・私有財産の世紀」で世間に広めた概念だ。ワイル氏は参加型民主主義の強化を目指すラディカルエクスチェンジ運動の創始者だ。重み付け投票では、一つの議題に対して賛成か反対かの二者択一を迫らない。多くの人々がデジタル・プラットフォームを使い、多様な争点について自分がどれだけ重視しているかを表現できる手法だ。
 
たとえば、米コロラド州議会のクリス・ハンセン議員は、下院歳出委員会の委員長を務めていた頃、4000万ドル(約44億円)の予算に対して提案された100以上の使い道の案のどれにどのように予算を割り当てるかを決めていく際に、重み付け投票を使い迅速に答えを導き出した。
 
「非常に素早く合意できた」とハンセン氏は言う。同氏は現在、州議会上院の議員となり、上院予算委員会でもこのシステムの利用を計画している。カナダの保守派もメディアへの公的資金の割り当てを決める際に、この重み付け手法の利用を検討している。
 
重み付け投票は、数多くの州政府や地方政府、また国の政府が、意見が対立して決着をつけにくい問題について一般市民が何を重視しているかを測るために利用されつつある。
 

ボトムアップでの技術浸透を

政治が分断して中道が不在ななか、こうした手法は現代の民主政治が抱える大問題に取り組むために有効な手段だ。巨大ITプラットフォームの興隆から生まれた忌まわしい副産物の一つは、極論の増幅により政治の二極化が一層進んだことだ。極論がはびこるのは利用者がつられやすく、最もクリックしやすい内容をどんどん送り付けるターゲット広告というビジネスモデルがあるためだ。その結果、我々は自らが見たいと思う情報を見る機会が増え、より殻に閉じこもるようになった。
 
現在の社会はかつてないほど分断されているようにみえるかもしれない。だが、政治の両極に位置する人々の多くが気に掛けている課題は、教育、医療、年金とどれも共通しているものばかりだ。この分断を埋めるには、システムそのものへの信頼を築き直す必要がある。
 
そのためには、トップダウンではなくボトムアップで技術を活用していくのがよいかもしれない。
 
By Rana Foroohar
 
(2020年2月17日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/