やるべきことが見えてくる研究者の仕事術―プロフェッショナル根性論
- 作者: 島岡要
- 出版社/メーカー: 羊土社
- 発売日: 2009/08/01
- メディア: 単行本
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これまでの書評二十回ほどで、言いたいことはほとんど言い尽くしている、のだが。
何がもやもやしているかと考えてみる、と「一覧性」である。
何の一覧性かというと、「思考の一覧性」なんである。
自分は「この本は気に入った」というときに付箋をつけ、赤線を引いてポイントと思うところをまとめてゆく。
なぜそうするかというと、そうしないと、その著作の「要点の全て」が頭に入らないのである。
「研究者の仕事術」を読んでから、しょっちゅう
「強みを生かすとはどういうことか」とか
「強みとはどういうことか」とか
また「そういうこと」を特に、よーく考えて逡巡せねばならないのは、どういう場面だろうか。
そんな疑問が頭をよぎるようになった。
それで気付いたこと。
まだまだ「この程度のまとめ」では、著者の考えを「取りこぼしている」ということに。
あらためて、目次を拾ってみる。
その1:プロフェッショナル研究者への成長の道
その2:「好き」よりも「得意」にこだわる仕事術
その3:プロダクティビティーを上げる時間管理術
その4:自分の世界で一番になる
その5:批判され/批判して自分を磨く「フィードバック力」
その6:変化に対する苦痛・恐怖を克服する
その7:自分のストーリーを語る「物語力」
その8:説得力のあるプレゼンテーション
その9:日本人中年男性研究者のための英語力向上戦略:人間力英語術
その10:検索される自分:発信力
その:11創造性とは
この、1から11までの目次を見て、サッとその内容が浮かぶように。
特にその1〜6まで、というのは仕事の日常で何らかの意志決定の際には極めて重要な観点である。
著作を読んで、その後すぐに「すっきり」した気持ちにならなかったのは、この1〜11が完全に自分の思考形式になっていなかったことではないか。
目次の提唱する「意味」
「何を自分の仕事の報酬とするか」とか、
「今の好き」より「得手にこだわれ」とか。
「生産性をあげろ」とか、
「自分の世界で一番になれ」とか。
どれもが重要だが。
だが、それだけではない。
どれも著書のP54で紹介されている「緊急度と重要度」の軸の中の最重要象限。
「第二象限」--緊急度は低く、重要度が高いこと。
自分の仕事の報酬の定義、とか
自分の強みを生かす、とか。
それらも重要だが、最も肝心なのは「重要度の高いテーマ」にリソースを集中して投下できるか。
それまでの幾つかの前提、はこの「優先順位のコントロール」という部分に結実するのだろう。
そして「その5からその11」までいくつかの重要なポイントが指摘されている。
しばらくhow-to論が続くようだが、最後が良い。
そして、「創造性」とは情報処理能力のこと。
創造性とは誰もできないような斬新な考え方をする、他人とは質的に異なる「ユニークな能力」ではなく、必然的に起ころうとしている発見をだれよりも早くつかみ取る「効率のよさ」のこと
『ロバート・K・メルトン』
と考えられます。
この説が正しいとするならば、創造性を高めるとは、何かユニークな能力を高めることではなく、時代の流れとしての社会の叡智の成熟の程度を観察し(つまりよく勉強し)、そこから効率よくアイデアを読み取り、プロジェクトとして実行するという、情報処理能力のことです。
自分の仕事の報酬、を人間的成長、という価値観におき、
好き、よりも強み、を重点に考え、
生産性、を上げ、
自分の世界で一番になり、……………
そして最後の「創造性を高める」に。
究極はここだろう。
創造性のユニークさ、はその「誰も考え付かない着想の希少性にある」のではない。
「必然的に起ころうとしている発見を誰よりも早くつかみ取る「効率のよさ」のこと、であると。
これを聞くだけで、研究者世界でも、ビジネス界でも、技術者でも、明日の仕事に勇気が湧いてくるではないか。
突飛な、奇想天外なアプローチ頼みではない。
日々の真面目で、気配りのあるセンサーが、「周囲のいち早い変化」を掴み取るのだ、というこのメルトンの言葉は、万人に勇気を与える。
ビジネス世界にいる自分も例外ではなく。
そして、この「研究者の仕事術」はこの最終章で「創造性についての勇気」を読者に与え、またそこに至るまでの思考の姿勢、方法を指し示して、そのメッセージを終えている。
Dr.コビーの記した「7つの習慣」の提言する7つのメッセージがどれも普遍的で、「常に全部を意識する存在」であったことと同様、
また、著者の島岡要氏が「ビジネス界の文書から影響を受けた」というその中にまた「7つの習慣」が取り上げられており、
そして、またこの「研究者の仕事術」もその構成である「1〜11まで」が連続して「一貫した存在」であることは、はたして偶然だろうか。
ようやく、書評も「喉のつかえ」がとれたような感じがする。
何にしても、ピンとくる著作と出会い、徹底してそれと付き合うこと、というのは人間関係に似た、人生の楽しみなのだ、ということもこの度思いを新たにした。