藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

解体の危機だけど。

日経日用経済口座より。
池上さんも「ユーロはヨーロッパの壮大なチャレンジ」と表現していたが、ついに「国を超えた秩序の維持」というのは難しいのかもしれない。
元より、「国」と「国の集合としての地域」と「地政学的な大陸」と、「北と南の半球」というような"ブロックで"地球上の国は様々に活動をしてきたけれど、やはり基本的な単位は「国」。
民族的、あるいは宗教的な対立が激化すると「新しい国」が出来て、その単位で争う、ということをここ二千年くらいは繰り返してきたように思う。

ユーロはそうした「国単位」の秩序に、しかも経済的な視点から「新しい家族」を作り出すことを志向してきたようだが、それも各国の制度が揃わねば、いよいよ維持できないようである。
特に国民の福利厚生にかかわる、公務員の比率とか、財政基盤の強弱とか、はたまた「その国の基幹産業」というような話題になっては、どうしても「稼げる村と、そうではない村」に分かれて「二つのグループ」が出来てしまうのは仕方がないのかもしれない。

それらを超越するには、もう少し人類の価値観が熟成し、「自分の村の損得」を"本当に超えた政策と組織の運営"が出来るレベルにならないと難しいのではないだろうか。
とはいえ、今回の「ユーロ」の試行は無駄ではなかっただろう。
あと数百年も経てば、今回の試行と失敗の経験が生かされ、「本当のEU自治体」ができる可能性は十分に有ると思う。
ヨーロッパの歴史はそれだけの重みを内包しているのではないだろうか。
拙速に地域統合を試み、一旦は破たんしたけれど、その苦い経験をもとに、「本当の統治の叡智を探る」。
自分の見る欧州はどうもそんな気がする。

数世紀後の"再EU"をぜひ楽しみにしたいと思う。

【日曜経済講座】編集委員・田村秀男 「ドイツ対ギリシャ」は縮図
2012.2.5  産経新聞朝刊から

ユーロ、解体の道に踏み出す
 ギリシャ債務危機勃発から2年たった今、欧州共通通貨「ユーロ」は解体の道に踏み出した、と言ってもよさそうだ。この間、欧州連合(EU)はユーロ危機打開に向け、この1月末までに16度も首脳会議を開いたが、ギリシャはユーロの盟主ドイツが突きつける緊縮財政要求を拒絶する。ギリシャが離脱すれば、ポルトガル、スペイン、さらにイタリアと連鎖しかねないが、ドイツは南欧抜きで再結束を図る覚悟のようだ。


■「北」と「南」に分裂
なぜ「解体」が不可避か。ユーロが利益になる「北」と、重荷になる「南」にユーロ圏が分裂し修復できそうにないからだ。

通貨がないとヒト、モノ・サービスを活動させられない。国としての考え方、政策が信頼されないと外部からカネが入ってこない。対外重債務国ギリシャは政府債務の一部の返済を免除されたところで、残りの債務や新規の借金をきちんと返済できなければ、だれからも貸してもらえない。打開するためには、国民が厳しい緊縮生活に耐えるしかないが、失業率が20%近い中、失業保険も医療保険制度も破綻し、国民は疲弊しきっている。政治指導者が代わっても、債権者からの信用を回復させられる見通しは示せない。

主力は観光産業なのだが、治安の悪化で不振を極めている。最大の打開策は通貨の大幅切り下げで、国際競争力を取り戻すことだ。ならば、古代ギリシャ以来の通貨「ドラクマ」に復帰し、思い切ってユーロの10分の1といった水準に切り下げるしかない。

東西冷戦終了時の1990年にポーランドを訪ねたとき、当時の日本では500円以上はするだろうと思えるランチセットがわずか5円程度だったことを思い出す。30年以上前の中国も同様だった。残酷な現実だが、あえて自国通貨をとことんまで切り下げることが、相対的に痛みの少ない実体経済再建の第一歩になるのだろう。ユーロはギリシャにとって今や足かせでしかない。


■リーマンの一撃
ここで、グラフを見ていただこう。ユーロ加盟の問題5カ国、ギリシャポルトガルアイルランド、イタリア、スペインと、フランス、ドイツの標準国債の利回り推移である。2002年にユーロ建て国債が普及して以来、各国債利回りはほぼ1本の縄となり安定していたが、08年9月のリーマン・ショックに直撃されバラけてしまった。


欧州の金融機関がバブル崩壊した米金融商品を大量に抱えていたため、信用不安はたちまち欧州に波及し、財政に問題のある国の国債が売られた。その後一時的に持ち直しかけたが、10年初めにはギリシャ政府が米金融大手のゴールドマン・サックスやJPモルガン・チェースに法外な手数料を支払って膨大な債務を帳簿外に飛ばしてきたことが露見した。ギリシャ問題をきっかけに、その他4カ国の放漫財政も表面化し、11年後半には大国イタリアまでも国債利回り債務危機の目安とされる7%を突破した。

ユーロ加盟以来、強いユーロのおかげで、全員がそれぞれの財政規律とは無関係にドイツ並みの低金利借金で財政支出してきたが、リーマンの一撃で豪華なユーロの衣装が吹き飛ばされた。

するとユーロ加盟国の間で明暗がはっきりするようになった。リーマン以来、ユーロはドルに対して8%、円に対して33%下落した。ドイツの輸出は国内総生産(GDP)比が約38%(日本は約15%)で、ドイツの輸出産業はすっかり息を吹き返し、失業率は11年12月で5・5%と低い。


対照的に輸出産業の比率がさほど高くない他の国々の景気は冷え込んだままだ。失業率はスペイン同22・9%、アイルランド14・5%、ポルトガル13・6%、イタリア8・9%と苦しんでいる。


■時間稼ぎに焦点
従ってドイツはユーロ危機の中の最大の勝ち組なのだが、ドイツ国民は、野放図に見えるギリシャ、イタリアなどの財政支援に猛反対する。リーマン後、ドイツの労働界は賃上げ要求を控え、雇用維持を優先してきた。年4%程度の賃上げを続けてきた楽天的なイタリアなどと対照的な「緊縮」ぶりだ。そこでメルケル首相はギリシャ政府に対して財政主権を放棄し、EU当局に移譲するよう迫る強硬論をぶつ。ギリシャは一歩も譲らない。この構図はドイツを中心とするユーロ圏北部と南欧の対立の縮図といえるだろう。

 欧州中央銀行(ECB)はユーロ札を刷って、ギリシャ国債を買い支えている。国際通貨基金IMF)も支援の構えを見せているが言葉だけだ。もはやギリシャ、さらに他の南欧各国の離脱に伴う金融市場の混乱を最小限に抑える準備のための時間稼ぎに焦点が移っている。