藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

初めて、への戸惑い。

円高たけなわ、の時には誰も何も言わなかったくせに、10円ほども為替が振れたら早速危ぶむ声が聞こえてくる。
結局先進国や新興国の政治家というのは、互いの国の政策を批判し合っているだけのような気もする。こういう局面を見ていると特に。
結局先進国の成熟とか、地球規模での環境問題とか、かつてない規模での「マネーの移動経済」とか、そういう「初もの」が世界中を惑わせている。
皆が自分の分析や思惑で思いつくことをワアワア言うものだから混乱するわけである。
(それにしても、安倍政策に批判的だったアナリストでさえ今の状態を「勢いがある」などと言い始めているのは滑稽である)

考えてみれば自国の通貨の発行を自由に調節してよい、となれば自国の輸出入産業の様子を見て「通貨の価値を調節する」というのは当たり前の経済政策だといえる。
税制とか、為替とか、はたまた産業政策とか、「いくつもの変数がかかわる方程式」が数多くあるわけだから、まずは「一つ一つの式」についての解法を考えて正解を得ることと、次には「他の式とのかかわり」を考える必要がある。

為替だけが安いか高いか、だけを議論しても「こんなことがある」とよその次元の話を持ち出して賛否している評論があまりに多いが、論点が多重化してしまい意味がない。
そうした議論を収れんしてゆくと、最終的には自国の将来像をしっかり設定して、それに向かう上での取捨選択ということを論じてゆく必要を強く感じる。

輸出メーカ主導か、内需を重視するのか、特に海外との「衣食住」でのかかわりをどのように心算するかで、日本自身の在り方も変わってくると思う。
お国柄もふくめ、日本国内中心の世界を考えるほうがより日本らしい、と自分などは考える。
グローバル化して世界に活動範囲を広げるスタイルには少し無理を感じるのである。

円安でデフレを輸出する日本、問われる安倍政権の品格
2013/1/21 7:46ニュースソース日本経済新聞 電子版
 これまで中国は、人民銀行が市場の人民元買いを吸収することで人為的に自国通貨を高めに誘導し「為替操作国」と非難されてきた。中国は米国の製造業を空洞化することで「失業」を輸出している、ともいわれた。そして今、日本が「デフレを輸出する国」「隣国の雇用を奪いデフレ脱却を図る国」として国際社会から「イエローカード」を突き付けられている。
 「為替政策」とは往々にして「為替操作」と紙一重の危うさを持つ。特に、政権要人の口先介入で「石破ライン85〜90円」とか「浜田ライン95〜100円」などを市場にあけすけに意識させる「円安政策」は、その政策の品格を問われる。
 なりふりかまわず全力でデフレ脱却に動く政権の言動に対し、選挙民は半信半疑ながらも心地良い響きを感じるかもしれない。しかし、環太平洋経済連携協定(TPP)参加は逡巡(しゅんじゅん)し、隣国を踏み台にしても国益を優先、となると国際的反発を誘発する。本欄1月15日付「円90円秒読み 鍵握る米国発リスクオフ」に「世界モーターショーが開催されているデトロイトでは日本勢の巻き返し現象が顕著だ。ドル高が続けば、米国内産業もだまってはいまい」と書いたが、早くも自動車ビッグ3で構成する米自動車貿易政策評議会(AAPC)が、円高修正を目指す安倍政権を「近隣窮乏化策」と批判。対抗措置を大統領に要請した。
 1ドル=90円程度までは、世界も「落ち目とはいえ世界第三位の経済大国が元気になってもらわないとグローバル経済も困る」との認識で反則切符は切られなかった。しかし、一気に95〜100円誘導に突進すれば、国際ルールで「オフサイド」と認定されよう。
 そもそも、国内ではデフレといわれるが、アジアの中で、日本はダントツの生活水準を維持している。この経済的繁栄が様々な規制の上に成り立っていることは否定できない。それらの規制を撤廃することは選挙民に痛みを背負わすので、政治家は先送りする。
 本来は、同じルールのもと、同じ土俵の上で競うべきだ。自国が比較優位を持つ産業に特化し、比較劣位産業は優位を持つ国に譲る互譲の精神こそが国際貿易の基本である。さすれば、1プラス1が3にもなるのだ。パイの取り合いでデフレを輸出しあうのではなく、パイを大きくする世界経済成長モデルとなる。しかし、貿易自由化も過渡期には短期的失業を生み、選挙民に痛みを与える。
 そこで、選挙民が痛みを感じにくい、(無制限?)量的緩和などの金融政策と巨額の財政出動、そして円安誘導がデフレ脱却政策第1弾として華々しく祭り上げられるわけだ。安倍政権がとなえる「デフレ脱却のための3本の矢」のうち金融政策、財政政策に続く3本目の「成長戦略」は痛みも伴い、効果が出るにしても1年以上はかかる。選挙民も忍耐の限界ゆえ、目に見える即効性を期待し、焦がれがちだ。けれども、構造改革のような病巣にメスを入れる治療なかりせば、糖尿病のように、痛みを感じなくても病状は進行する。出血は止まっても、経済の基礎体力は戻らない。そもそも、今の円安の基礎的要因の一つが貿易収支赤字化だ。日本国の経済成長を支えてきた輸出産業の衰退化の結果の円安ともいえる。
 しかし、円安が進行すれば、輸出産業も息を吹き返し、やがて貿易収支は再度黒字に転換し、外為市場では円高圧力がかかる。これが変動相場制における外国為替レートが抱合する自動安定メカニズムだ。そのプロセスでの短期的なかく乱要因がシカゴ国際金融取引所(IMM)通貨投機筋などの投機マネー。そのマネー騒乱を刺激するのが要人発言なのだ。
 バーナンキ米連邦準備理事会(FRB)議長は、常に「市場とのコミュニケーション=対話」「政策の透明性」を重んじ、米連邦公開市場委員会(FOMC)後には、学者としての見識にユーモアを交ぜつつ、自ら記者会見で1時間、忍耐強く記者団の質問に答える。しかし、ガイトナー財務長官や米民主党幹部、そしてオバマ大統領の政策ブレーンが具体的なドル相場水準に言及することはない。安倍政権にも経済政策の品格が問われているのだ。
豊島逸夫(としま・いつお)
 豊島逸夫事務所(2011年10月3日設立)代表。9月末までワールド ゴールド カウンシル(WGC)日本代表を務めた。
 1948年東京生まれ。一橋大学経済学部卒(国際経済専攻)。三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)入行後、スイス銀行にて国際金融業務に配属され外国為替貴金属ディーラーとなる。チューリッヒ、NYでの豊富な相場体験をもとに金の第一人者として素人にも分かりやすく、独立系の立場からポジショントーク無しで、金市場に限らず国際金融、マクロ経済動向についても説く。
ブログは「豊島逸夫の手帖」http://www.mmc.co.jp/gold/market/toshima_t/index.html
ツイッターhttp://mobile.twitter.com/search?q=jefftoshima)ではリアルタイムのマーケット情報に加えスキー、食べ物など趣味の呟きも。日経マネーでは「現場発国際経済の見方」を連載中。日本経済新聞出版社日経BP社から著書出版。
業務窓口は jefftoshima@hyper.ocn.ne.jp