藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

冷静と情緒のの間で

画期的な新型万能細胞の話で日本中が沸いている。
晴れがましい報道だけれど、その辿ってきた「いばらの道」の努力を聞くとつくづく「継続の恐ろしさ」を感じないではいられない。

 「やめてやると思った日も、泣き明かした夜も数知れないですが、今日一日、明日一日だけ頑張ろうと思ってやっていたら、5年が過ぎていました」

そんな絶望感に打ちのめされながらも「続けてきた」この結果である。すばらしい。けれど怖いと思うのである。
こうした不断の努力、という話を聞くと、自分たちもついついそれを「追体験しに行ってしまう」ということが起こる。
そして、しばしば自分たちは道を誤るものである。

そもそも社会で「結果が保証されていること」などあまりない。
それがフロンティアと言われるような分野のことなら、尚のことである。
むしろ「勝算薄し」というようなフィールドに切り込んで行かなければ「画期的なもの」などには行き当たらないだろうことは、理屈ではよくわかる。

リスクとリターンの関係である。
ハイリスクハイリターン、は投資の世界では常識的だが、例えば仕事とか、人生の中での重要な選択の場面において、「そのことに賭ける」まさに"賭け"のリスクとリターンを冷静に考えることはとても難しい。

というか、冷静に考えたら大概の「チャレンジ」は止めておいた方が無難なものばかりである。

しかし、自分たちはしばしばそんな計算を振り切って、感情で突っ走ってしまう。
そんな「突き抜けた選択」がなければ、結果も付いてこない。
そんな「気の抜けたソーダ水」のような生活とは決別したい、というようなアブない願望を我われは常に持っているのだと思う。

毎日が、それなりに充実していて、あまり大した変化のない日常はとても幸せなことだと思うが、考えようによっては「耐えがたい退屈」とも表現できる。
冒険心と言えば聞こえはいいが、冷静に考えれば「無茶」なことをしてみたいというのがイノベーションの核心なのではないだろうか。
(つづく)

泣き明かした夜も STAP細胞作製の30歳女性研究者
いつも研究のことを考えています――。世界を驚かす画期的な新型の万能細胞(STAP〈スタップ〉細胞)をつくったのは、博士号をとってわずか3年という、30歳の若き女性研究者だ。研究室をかっぽう着姿で立ち回る「行動派」は、負けず嫌いで、とことんやり抜くのが信条だ。

* 新しい万能細胞作製に成功 iPS細胞より簡易 理研

 「やめてやると思った日も、泣き明かした夜も数知れないですが、今日一日、明日一日だけ頑張ろうと思ってやっていたら、5年が過ぎていました」
 28日、神戸市内の理化学研究所発生・再生科学総合研究センターでの記者会見。無数のフラッシュの中、小保方晴子(おぼかたはるこ)さんはこれまでの日々を振り返った。
 千葉県松戸市の出身。2002年、早稲田大学理工学部に、人物重視で選考するAO入試の1期生として入った。当時、面接で「再生医療の分野に化学からアプローチしたい」とアピール。ラクロスに熱中し、「日々、大学生の青春に忙しかった」というふつうの学生生活を送っていた。
 応用化学科の研究室で海の微生物を調べていたが、指導教官から「本当は何をやりたいか」を問われ、最初の夢を思い出し、大学院から、再生医療の分野に飛び込んだ。
 小保方さんを大学院時代に指導した大和雅之・東京女子医大教授は「負けず嫌いで、こだわりの強い性格」と話す。一から細胞培養の技術を学び、昼夜問わず、ひたすら実験に取り組んでいた。
 半年の予定で米ハーバード大に留学したが、指導したチャールズ・バカンティ教授に「優秀だからもう少しいてくれ」と言われ、期間が延長になったという。ここで、今回の成果につながるアイデアを得た。
 研究の成功に欠かせない特殊なマウスをつくるために、世界有数の技術をもつ若山照彦理研チームリーダー(現・山梨大教授)に直談判。ホテルに泊まり込みながら半年以上かけて、成果を出した。
 今回の発見について、小保方さんは「あきらめようと思ったときに、助けてくれる先生たちに出会ったことが幸運だった」と話す。理研笹井芳樹・副センター長は「化学系の出身で、生物学の先入観がなく、データを信じて独自の考えをもっていた。真実に近づく力と、やり抜く力を持っていた」と分析する。
 昨年、理研のユニットリーダーになった小保方さんは、自身の研究室の壁紙をピンク色、黄色とカラフルにし、米国のころから愛用しているソファを持ち込んでいる。あちこちに、「収集癖があるんです」というアニメ「ムーミン」のグッズやステッカーをはっている。実験時には白衣ではなく、祖母からもらったというかっぽう着を身につける。
 研究をしていないときには「ペットのカメの世話をしたり、買い物に行ったりと、普通ですよ」と話す。飼育場所は研究室。土日も含めた毎日の12時間以上を研究室で過ごす。「実験室だけでなく、おふろのときも、デートのときも四六時中、研究のことを考えています」(野中良祐)

新しい万能細胞作製に成功 iPS細胞より簡易 理研
理化学研究所などが、まったく新しい「万能細胞」の作製に成功した。マウスの体の細胞を、弱酸性の液体で刺激するだけで、どんな細胞にもなれる万能細胞に変化する。いったん役割が定まった体の細胞が、この程度の刺激で万能細胞に変わることはありえないとされていた。生命科学の常識を覆す画期的な成果だ。29日、英科学誌ネイチャー電子版のトップ記事として掲載された。
 理研発生・再生科学総合研究センター(神戸市)の小保方晴子(おぼかたはるこ)ユニットリーダー(30)らは、新たな万能細胞をSTAP(スタップ)細胞と名付けた。STAPとは「刺激惹起(じゃっき)性多能性獲得(Stimulus―Triggered Acquisition of Pluripotency)」の略称だ。
 iPS細胞(人工多能性幹細胞)よりも簡単に効率よく作ることができた。また、遺伝子を傷つけにくいため、がん化の恐れも少ないと考えられる。
 作り方は簡単だ。小保方さんらは、マウスの脾臓(ひぞう)から取り出した白血球の一種のリンパ球を紅茶程度の弱酸性液に25分間浸し、その後に培養。すると数日後には万能細胞に特有のたんぱく質を持った細胞ができた。
 この細胞をマウスの皮下に移植すると、神経や筋肉、腸の細胞になった。そのままでは胎児になれないよう操作した受精卵にSTAP細胞を注入して子宮に戻すと、全身がSTAP細胞から育った胎児になった。これらの結果からSTAP細胞は、どんな組織にでもなれる万能細胞であることが立証された。
 酸による刺激だけではなく、細い管に無理やり通したり、毒素を加えたりといった他の刺激でも、頻度は低いが同様の変化が起きることも分かった。細胞を取り巻くさまざまなストレス環境が、変化を引き起こすと見られる。
 さらに、脳や皮膚、筋肉など様々な組織から採った細胞でもSTAP細胞が作れることも確かめた。
 STAP細胞は、iPS細胞とES細胞からは作れない胎盤という組織にも育ち、万能性がより高く、受精卵により近いことを実験で示した。さまざまな病気の原因を解き明かす医学研究への活用をはじめ、切断した指が再び生えてくるような究極の再生医療への応用にまでつながる可能性がある。
 ただ、成功したのは生後1週間というごく若いマウスの細胞だけ。大人のマウスではうまくいっておらず、その理由はわかっていない。人間の細胞からもまだ作られていない。医療応用に向けて乗り越えるべきハードルは少なくない。
 万能細胞に詳しい中辻憲夫・京大教授は「基礎研究としては非常に驚きと興味がある。体細胞を初期化する方法はまだまだ奥が深く、新しい発見があり、発展中の研究分野なのだということを改めて感じる」と話す。(小宮山亮磨)
 ■山中伸弥教授「重要な研究成果、誇りに思う」
 京都大iPS細胞研究所長の山中伸弥教授は「重要な研究成果が、日本人研究者によって発信されたことを誇りに思う。今後、人間の細胞からも同様の手法で多能性幹細胞(万能細胞)が作られることを期待している」とのコメントを発表した。
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 〈万能細胞〉 筋肉や内臓、脳など体を作る全ての種類の細胞に変化できる細胞。通常の細胞は筋肉なら筋肉、肝臓なら肝臓の細胞にしかなれない。1個の細胞から全身の細胞を作り出す受精卵のほか、少し成長した受精卵を壊して取り出したES細胞(胚(はい)性幹細胞)、山中伸弥・京都大教授が作り出したiPS細胞(人工多能性幹細胞)がある。万能細胞で様々な組織や臓器を作れるようになれば、今は治せない病気の治療ができると期待されている。