藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

自分で見つける機会。

自分は「ビジネスモデル」という言葉があまり好きではない。
二十年くらい前に初めて聞いたときの何とも言えない違和感を思い出す。
なぜか「手数料稼ぎ」とか「お金のための方法」という風に聞こえるのである。
商流という言葉もあるがこちらの方が人同士の間を物とかお金が流れる感じがしてしっくりくる。それはともかく。

毎日、何か新しいことを考えたり、これまでのやり方を工夫したり、問題点を克服することを考えたりしているつもりだったけれど、これは「つもり」だったと思う。

ビジネスをしていると、一定のやり方やお客さんを見つけて「同じことを安定的にする」というのは悪いことではなく、むしろ重要なことだ。
そして、既存のやり方も分かっているから「生みの苦しみ」的な部分は相対的に減ってくる。
だんだん突拍子もないことは考えなくなってくるのである。
いつしか安全に、波風立たないような風土が出来てくるだろう。

もう一つ、自分はイノベーションという言葉もあまり好きではない。

政治家が「イノベーションを起こせ」というのを聞くと革命が目的なのかね?と思ってしまう。
何かの考え抜いた結果が新しいものの場合、それは結果的にイノベーションを起こすのだ。

「ただ利益が出ることを考える」とか「ただ革新を求める」という短絡的なことではなく、かといって既存の日常に埋没するのでもない微妙な思考の操縦法が大事なのだと改めて思った次第です。

そのためには、自分の周囲のあらゆる刺激に「上手に反応する心構え」のようなものが必要なのではないだろうか。

人工知能で東大合格をめざす 新井紀子さん(52)(3)
東ロボくんが練る「大学入試の傾向と対策」
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 「東ロボくんの成績(総合7科目)は、偏差値50が今年視野に入っています。偏差値60はやや厳しいですが、もしそうなると大きな話です。仮に60まで行くと、東京オリンピックの後には大不況が起きるんじゃないかと」
 新井はさらっと言ったが、聞き捨てならない話ではないか。「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトで、人工知能の「東ロボくん」がめざす東大合格には偏差値70以上が必要とされるが、偏差値60の段階で人工知能はホワイトカラーの仕事の多くを奪ってしまうというのである。
 このプロジェクトがスタートしたのは2011年のことだ。きっかけは10年、数学者である新井が一般向けに出版した「コンピュータが仕事を奪う」(日経新聞出版社)に対する世の中の反応が予想よりはかばかしくなかったせいだ。
 新井が14年に上梓(じょうし)した本「ロボットは東大に入れるか」(イースト・プレス)によると、忸怩(じくじ)たる思いを抱いていた新井は10年12月、あるアイデアを思いつく。
 所属する国立情報学研究所でエレベーターを待っていた新井は、エレベーターから出て来た同僚のロボット研究者を見つけると、その肩をつかんで問いかけたという。
 「ねぇ、ロボットは東大に合格するかしら」と。
 あまりに唐突な問いかけに、その男性研究者はしばらく考えこんでいたが、慎重に言葉を選びながらも、こう言った。
 「合格できない、とは言えないんじゃないでしょうか」
 ここから新井の面目躍如のエピソードが始まる。新井はその同僚の腕をむんずとつかみ、再びエレベーターに乗り込むと、自然言語処理が専門の男性研究者の部屋に無理やり引きずり込んだという。そして今度は、部屋の主に言った。
 「今2人で、『ロボットは東大に入れるかどうか』について考えているの。あなたはどう思う?」
 そう問いかけられた研究者も面食らった様子だったが、即答した。
 「入れるんじゃないですか」。それを聞いて、新井は決心した。
 「そう。2人とも『東大なんて絶対無理』とは言わないのね。だったら、10年本気でやってみない。『ロボットは東大に入れるか』」
 いまから振り返ると、新井が書籍「コンピュータが仕事を奪う」に込めた警句は時代をやや先取りしすぎていたようだ。 
 翌11年にはマサチューセッツ工科大学の研究者が同様の趣旨の書籍をアマゾンのキンドル自費出版し、ニューヨーク・タイムズやウォールストリート・ジャーナルなどマスコミ各社が競って取り上げた(邦訳は「機械との競争」=日経BP社)。翌13年にはオックスフォード大学の研究者が「2030年にはアメリカにおける仕事の半分が機械に奪われる可能性がある」という論文を発表し、欧米の産業界に衝撃が走った。
 ここで問題となるのは、人工知能の実力の今後の伸びだ。大不況の話は後述するとして、東ロボくんの現在の実力は果たしてどの程度なのか。
2015年08月12日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
ページ: 2
東ロボ君、472の私立大で「A判定」
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 11年に誕生した東ロボくんは13年と14年の2回、代々木ゼミナールが主催する「全国センター模試」と「東大入試プレ」を受けている。
 14年のセンター模試の結果はというと、国公立文系7課目コースの偏差値が47・3、私立文系3教科が53・6、私立理系3教科が49・7というものだった(表参照)。 つまり、全国581の私立大学のうち472大学1092学科で、合格可能性80%以上という「A判定」だった。一方、166大学ある国公立大学で「A判定」だったのは4大学6学部にとどまった。
 (注:国語は200点満点だが、東ロボくんは漢文を受けておらず150点満点で独自に採点。後述する理由から50点満点の英語のリスニングも受けておらず、英語は200点満点で採点した)。
 東ロボくんは現状、教科によって成績がばらつく典型的な「一点突破型」。いまのところは、私立大学向きの受験生なのである。とはいえ、7課目コースの偏差値も前年から2・2ポイント上昇している。

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 「うちの子は箱根駅伝に出場する大学には入れるかしら」。新井は仲間内でこんな冗談を言っているらしい。箱根駅伝に関係する新聞社に勤める身としては、この点に関しては踏み込まずに14年の教科別の出来を尋ねた。
2015年08月12日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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東ロボくんは漫画「ONE PIECE」を読めるか? 「実は世界史が一番でした。その次は国語、数学の順。でも、13年から一番伸びたのは英語です。英語はこれまで手がついていなかったのですが、14年はNTTコミュニケーション科学基礎研究所のチームが参加してくれまして、40点以上点数があがりました。この研究所は『しゃべってコンシェル』などの音声認識機械翻訳の研究を長くやっているところです」
 では、今回の英語ではどんな問題で得点アップができたのか。
 「会話文の理解ですね。2人が話し合っていて、うち1人が次に何を言うかを問う問題です。NTTの技術を入れたら、大幅に改善しました。英語はいま、リスニング以外の部分を一生懸命やっています。今年は多分、東大模試のリスニングに挑戦すると思います」
 ただ、そのリスニング問題を巡っては、思わず笑ってしまう話もある。リスニング問題を解くための日本の音声認識・雑音除去技術には定評がある。新宿駅の雑踏の中でも特定の人の携帯電話での会話を聞き分けられる技術があるのだという。
 しかし、代ゼミの「全国センター模試」のリスニング問題を受けようと考えた際、大学入試センター試験の過去問(2011年)を見て、新井の同僚は「こりゃだめだ」と思った。解答の選択肢が他教科でもしばしば使われるイラストだったからだ(図参照)。

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 問題はバースデーケーキに関するもの。「クリームとクリームの間にブルーベリーをひとつずつ置いてちょうだい」という母親の注文に従って作ったケーキを選ばせる。答えは(2)。東ロボくんは、リスニングは完璧のはずなのに、選択肢の段階で間違う可能性が大なのだ。
 この結果を新井たちは当然だろうと受け止めている。そもそもブルーベリーがのったバースデーケーキなど人間でも見る機会はそう多くないし、イラストに描かれているブルーベリーはプチトマトのような大きさだからだ。
 コンピュータはこういうイラスト理解になると、お手上げになる。だから、代ゼミの「大学センター模試」の英語もリスニングは2回とも受けていない。その理由について、新井はデフォルメされ、擬態語も多用される漫画を例えに説明する。
 「人工知能にとって、漫画の筋は理解のしようがないんです。この間も『ONE PIECE』の最新刊をどのくらい判読可能かと思って一応、研究上の理由から(笑)少し調べてみましたが、結果はやはり無理だなあと(笑)」
〇動画:新井が語る「イラスト理解の難しさ」〇
 ちなみに、動画の中で新井が言及している漫画「ONE PIECE」最新刊(第78巻)で、主人公ルフィ―が初めて見せた必殺技を報道上の理由から調べたところ、「ギア4」という名前だった。それはさておき、他の科目はどうだったのか。
 「世界史や日本史が良いのは、もともと歴史的事実を解くのは比較的得意だから。(米国のクイズ番組で人間のチャンピォンを破ったIBMの人工知能)ワトソンと同じ手法です。あと数学は……テクニカルな話なのですが、新課程に変わりまして(出題傾向が変わり)苦戦しました(笑)」
2015年08月12日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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予備校講師も真っ青の解答テクニック
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 その東ロボくんは実際には、どのように問題を解いているのだろう。東ロボくんの解答の仕方を具体的に聞いていくと、人間とはまったく違う解答テクニックを使っていることにまず驚かされる。同時に、そこにおかしみさえ感じ、人間が無意識にやっている自然言語処理がいかに精緻で深遠な行為であることを痛感する。
 新井の著書「ロボットは東大に入れるか」(イースト・プレス)で、国語を担当する共同研究者の佐藤理史(名古屋大学)は、次のように語っている。
 「言葉というものをコンピュータがどれだけわかるかというと、『わからない』というのが答えになります」
 「コンピュータにとっての日本語は、単なる記号の羅列、暗号と同じ」「『東大』は漢字2文字で、名詞。おしまい。『東大』と『東西』と『東北』。コンピュータは、それらが記号として違うことは認識していますが、何がどう違うのかはまったくわかっていません」とも。
 では、どうやって問題を解くのか。
 佐藤らは例えば現代文の「傍線部問題」で、「本文の先頭から傍線部を含む段落」までを東ロボくんに取り出させ、正解がひとつ含まれる「選択肢」の各文章と比較させる。そのうえで本文と一致する文字数が最も多い選択肢を東ロボくんに正解として選ばせる解答方法を取ったという。
 「あ」という文字が何個、「い」という文字が何個……といった具合に数え上げる手法だ。受験テクニックに長(た)けている予備校教師も真っ青の解答法である。
 佐藤は同書の中で、「こんなやり方、あり得ないと思われるかもしれませんが、じつは、これでセンター試験過去問の評論の傍線部問題の半分ができてしまう。びっくりしましたか? 私もびっくりしました」と話している。
 古文については、すでに存在している古文の語句解析辞書に加え、主要な古文をほぼ網羅した全集を使う。この全集には古文の現代訳も収録されており、これらをコンピュータに参照させ、問題文と比較しながら解いている。
 実社会で正解を出すのが人工知能の使命だから良いのだが、古文を必死に頭に詰め込んできた本物の受験生が聞くと、「カンニングだ」と騒ぎだしそうな解答法である。
 数学や物理、世界史など他教科も、日本語理解が正解にいたる大前提だ。「関数」とか「重力」、「民主主義」といった言葉ひとつとっても、それぞれに複雑な文化的背景や思考過程、常識が複数の概念としてこめられており、単なる記号ではない。それだけ自然言語処理は、コンピュータにとって難敵だということが分かる。
2015年08月12日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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第五世代コンピュータの苦い教訓 では、コンピュータが東大に合格する可能性はあるのだろうか。
 新井はよく質問されるのだが、東ロボくんプロジェクトを始めたのはなにも、コンピュータを東大に合格させるだけが目的ではないという。人工知能の研究者なら誰でも、自らが開発した人工知能の実力を試すことができる「ベンチマーク(指標)」に東ロボくんをすることだと強調した。そのために、プロジェクトを通じて過去の大学入試問題をデータベース化し、公開している。
 その背景には、日本の人工知能研究が過去に犯した大失敗への批判と、研究手法の代替案提示という目的がある。
 大失敗とは、「第五世代コンピュータ」という国家プロジェクトのことを指す。日本がバブル経済に酔いしれていた1982〜92年、当時の通産省(現・経済産業省)が主導し、国の予算だけで570億円、民間資金も合わせると1000億円が投じられたとされる。プロジェクトは自然言語処理のほか、法律や医療といった専門知識を支援するエキスパートシステムなどの構築を目指したのだが、ことごとく失敗した。
 この国家プロジェクトについて話すとき、新井の舌鋒(ぜっぽう)はインタビュー中で最も鋭くなった。
 「第五には『たら』『れば』という話が多いんですけど、なぜできなかったかということについての論文がまったく残っていないんですね。だから、後から来た研究者にとって何の参考にもならない。失敗したという事実しかないんです」
〇動画:新井が語る「第五の失敗と東ロボくん」〇
 「これから人工知能研究のプロジェクトは他の機関でも始まると思いますが、『人工知能ができた』というなら、ぜひ東ロボくんと同じ問題を解いてほしい。例えばイラスト理解であるとか論旨要約とかがどれだけできるのか、(客観的なベンチマークのもとで)いつでも測ることができますから。そうしたら、国民は『何かができたらしい』と騒ぐのではなく、どこまでできるようになったかを聞ける。国民の側が税金を払っている主人なわけですから、東ロボくんは研究者の「できた」「できた」という話を数量的に評価するための重要なプロジェクトだと思っています」
 ところで、東ロボくんがめざす東大はもちろん、国内最高峰の大学だ。それでも、国際ランキングで見ると、トップ10にも入っていない。日本の大学の何がそうさせているのか。その点、新井には一家言あるという。一言でいえば、「サービス業としての自覚が欠落している」のだという。
〇動画:新井が語る「日本の大学の弱点」〇
 次回は、人ごとではないホワイトカラーの大失業時代予測について、新井に掘り下げて聞く。
 (敬称略、文:メディア局編集部 小川祐二朗、写真:高梨義之)
新井紀子プロフィル
 東京生まれ。一橋大学法学部卒。イリノイ大学数学科博士課程修了。理学博士。2005年より学校向け情報共有基盤システムNetCommonsをオープンソースとして公開。全国の学校のホームページやグループウェアとして活用されている。11年から人工知能分野のグランドチャレンジ「ロボットは東大に入れるか」のプロジェクトディレクターを務める。ナイスステップな研究者、科学技術分野の文部科学大臣表彰などを受賞。著書に「数学にときめく」(講談社ブルーバックス)、「コンピュータが仕事を奪う」(日本経済新聞出版社)、「ロボットは東大に入れるか」(イースト・プレス)など多数。
2015年08月12日 05時20分 Copyright © The Yomiuri Shimbun