藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

狙われるweb知の象徴。

事件の報道を通じて「そのサイト」をウオッチしている者を重点的に捜査する手法がある。
一般人なら事件の概要を知ろうとはしても、必要以上に「犯罪現場に興味を持っている」のは何らかの事件関係者だという理屈だ。

wikipediaが狙われているという。
それも国家などの体制側の監視の話。
特定の話題について書いたり、修正したりする人たちを重点的にwebを使って監視する。
広い公知が売り物のwikipediaにとって、無言の圧力になることは想像に難くない。
googleやフリーメールの内容が監視対象になるだろうことは分かるが、オープン知を象徴するwikepediaのような存在に当局の介入が始まるとwebの影の部分が首をもたげてくる。
wikiメディア財団は当局の監視について裁判を始めているというが、こういう動きこそwebの宿命で陰と陽の特徴的な部分なのに違いない。

webと安全保障の問題はこれからも、度々問題になっていくと思うけれど自分たちはどこまでオープン性を保てるかということを注意深く見ていく必要があると思う。

連載:フロンティア2.0
(フロンティア2.0)狙われたウィキペディア、米当局を提訴宮地ゆう
2015年9月8日18時00分

 インターネットを使っている人なら1度は使ったことがあるだろう、ネット上の百科事典「ウィキペディア」。この運営団体のウィキメディア財団が、世界中のネットや電話の情報を監視していると言われる米国家安全保障局(NSA)や司法省を相手取り、裁判を起こした。9月下旬に連邦地裁で初の審理が開かれる予定で、今後、裁判が本格化する。なぜウィキペディアは裁判を始めたのか。そして、日本の利用者にどう関係しているのだろうか。
     ◇
 サンフランシスコに拠点を持つウィキメディア財団を訪ねた。財団の弁護士でこの裁判を担当しているジェフ・ブリガムさんによると、発端は2013年、米中央情報局(CIA)のエドワード・スノーデン元職員がNSAの活動について暴露した文書だった。文書の中に、1枚のスライドが入っていた。

* 特集・フロンティア2.0

 「トップシークレット」の文字があるスライドには、九つのロゴが入っている。名前が挙がったのは、フェイスブック、グーグル、米ヤフーといった、おなじみのIT企業やそのサービスだ。これらの会社は個人情報を大量に扱っており、NSAが行っていた別の監視プログラムでも協力企業として名前が挙がっていたため、意外な感じはしない。しかし、その中で目を引くのが、ウィキペディアとCNNだ。
 世界中にウェブサイトは山のようにある。その中でNSAは、利用者の情報を求めるサイトとして、ウィキペディアとCNNを選んだというわけだ。CNNは言うまでもなく、米テレビのニュースサイトだ。世界のニュースを伝えており、たとえばNSAが狙うテロリストなどあらゆる人がアクセスする可能性があるから、わからなくもない。しかし、なぜ百科事典のウィキペディアなのか。
     ◇
 ウィキペディアは2001年に英語版が作られてから、世界中に一気に広まっった。15年3月現在、日本語を含む288言語で書かれているという。運営は寄付でまかなわれている。
 日々何げなく使っているウィキペディアだが、従来の百科事典とは、理念や成り立ちが根本的に違う。その違いに、NSAが目を付けた理由がある。
 ウィキペディアは、匿名で誰もが新しい項目を作ったり、すでにある項目に手を加えたりすることもできる。
 これまで百科事典は、著名な研究機関や研究者、その分野の専門家が情報をまとめ、査読し、編集して作るのが普通のやり方だった。これに対して、ウィキペディアは「みんなの知識」の力で百科事典を作る。特定の専門家や研究者が、「フランス革命」や「第2次世界大戦」や「アラブの春」を定義をするのではなく、あらゆる人たちの視点・言葉で物事を定義しよう、というわけだ。
 物事にはあらゆる見方がある。どちら側から見るかによって、全く違う評価が生まれる。その判断を、ウィキペディアは、欧米の権威や大家に委ねず、世界中の人たちに開放するという、画期的な理念を打ち出した。
 一方で、こうしたやり方は当然のことながら問題も出てくる。記述に間違いがあることもあるし、信頼性が保証されないということもある。最近では英語のウィキペディアのサイトで、企業や事業家がお金を出してその会社や個人に有利な書き込みをさせていたことも、明るみに出た。ウィキメディア財団はこうした不正行為などについては監視しているが、意図的な編集はせず、間違いも含めてみんなの手で直していく、というのが根本的な考え方だ。
 弁護士のブリガムさんは、こう話す。
 「ウィキペディアの重要性は、欧米の視点で知識が定義されるのではないということにある。ある出来事が起きたとき、米国のレンズだけを通して見るのではなく、日本、アフリカ、南米などあらゆる国の視点をそこに含めることが大切だ。それが世界の知識を皆で作るということになる」
 NSAが目を付けたのも、まさにそんなウィキメディアの開かれた特性だった。
 これまで明るみに出てきたNSAの監視活動では、それぞれの国でウィキペディアに書き込んでいた人たちは、誰が、どこから、どのような書き込みをしていたかまで、情報収集している可能性が指摘されている。
 たとえば、2011年から広がった「アラブの春」は、各国で反政府デモが広がり、政権が次々と倒れた。このとき、ウィキペディアにこの動きを書き込んでいた人たちは、内容やキーワードで反政府勢力と認識され、監視対象になった可能性もある。
 また、そうした運動に直接関係していない人たちの情報もまとめて収集されていると言われる。「NSAは監視するメールアドレスや電話番号があると、そのメールの中に含まれる関係のない人のアドレスやアカウント情報まで収集し、中身を見ることができる」(ブリガムさん)。
 つまり、ウィキペディアの書き込みをしている人の情報がNSAに入り、その人の関係者の情報もまたNSAに入ることになる。
 NSAや各国の政府による直接の監視もさることながら、「深刻な問題は、論争が起きているような問題や少数派の意見について書くのをやめたり、ちゅうちょしたりするような抑圧効果が出てくることだ」とブリガムさんはいう。
 実際、NSAがウィキペディアを狙っていることが明らかになってから、「ウィキペディアの記述をしている人たちからNSAの監視を非常に憂慮する声が多く上がった」(ブリガムさん)という。実際に議論が減った項目もあり、「具体的にウィキペディアにどんなことが起きているかは裁判で明らかにしていく」と話す。
 ウィキメディア財団は今年6月、傘下のサイトをすべて暗号化すると発表。これによってこれまでよりは利用者の情報は守られることになった。ただ、暗号化がどこまでデータを守るのか、確証はない。また、NSAは一度手にしたデータは3年保管していると言われている。
     ◇
 では、日本でウィキペディアを使う人はどのような影響を受けるのか。
 米ネット調査会社アレクサによると、日本では、ウィキペディアはインターネットのサイトの中で12番目のアクセス数を集める人気サイトだ。(1位はヤフー、2位日本語版グーグル、3位アマゾン、4位ユーチューブなどが上位にある)。
 ブリガムさんも「ウィキペディアにとって、日本は非常に重要なコミュニティーだ」と話す。月間ページビューは14億4400万あり、今年2月時点でこれまでに10件以上書き込みをしたことのある人は約8600人。編集をする役割を担っている人が約3800人いる。「記述や編集の頻度など、世界的に見ても飛び抜けて多い国の一つ」(ブリガムさん)だという。
 では、もし日本からウィキペディアに書き込みをすると、どのようなことが起き得るのか。
 ブリガムさんによると、ウィキペディアのサーバーは米国にあるため、日本のウィキペディアに書き込みをすると、米国のサーバーを通ることになる。NSAがウィキペディアを標的にしている限り、書き込んだ人のデータはNSAの網にかかり、書き込みの内容やメールまで集められる可能性があるという。書き込みの内容が政治的なものでなくても、メールアドレスやアカウントがひっかかるため、情報収集の可能性は変わらない。
 また、日本政府が直接収集しなくても、NSAと協力関係にある限り、日本の利用者のあらゆる個人情報が政府の手に渡る可能性がある。たとえば、日本で反政権の書き込みをした人のメールなどネット上の個人情報が、NSAを経由して日本政府に流れる、といったことが起こり得るわけだ。
 NSAが集めているデータは膨大で、NSA自体がこれを使いこなせないため、情報が集められても心配ないという指摘もある。ただ、情報の保管や処理の能力は年々飛躍的に上がっている。
 米国ではNSAの自国民に対する監視をやめさせる法改正の動きが出ているが、外国人については今までと変わらず情報収集が行われている。日本でも何らかの対応を考えるべきときだろう。(宮地ゆう)