藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

観光に必要なこと。

現代ビジネス、京都に詳しい外国人による記事。
自分は両親が京都出身だが、記事にあるような店は全部知らない。
つまり「その土地に興味を持って観察する人」が一番その土地に通じていく、ということだろう。

例えば国内の主要都市に出張しても、案外「本当に知りたい観光どころ」とか「行ってみたい居酒屋」なんかは知りにくい。
非常に皮相的で「ありがちな名所・名店案内」はあるけれど、渋い名店にはなかなか行き当たれないものだ。

東京とか大都市でもそうか。
情報は溢れているようでも「実はね」というような話は、ネットで徘徊していてもなかなかに掴みにくいものだと思う。

そこでだ。

要都市も地方都市も、せっかくのネットを逆手に取って。
迎える側は「どんな良いところがあって、どんな人に来て欲しいか」
あるいは逆に
観光する側は「どんな価格で、どんなものに触れたいか」

そんなことを交流しておけば、結構効率が上がると思う。

(客としてはちょっと感じ悪いけど)

「一見さんお断り」というのは、他人を排除するためのものではなく、相互の誤解をなくすための知恵に他ならない。
自分たちはITの恩恵などまるでない日常でもそうした「客と店の価値観の交流」を日々している。

住み慣れた近隣ではなく、見ず知らずの土地でも同様の交流ができれば地方への旅も随分楽しいものになるのではないだろうか。

京都人が「よそさんに教えない」とっておきの見所、食べ所、遊び場所(週刊現代) | 現代ビジネス | 講談社(1/2)
ジェフ氏は言う。「住みつく人には冷たいけど、京都人は学生と外国人には何でも教えてくれる」。二人合わせて在京歴70年。いけずな街の魅力を知る二人の観光大使が、京都の街と人を大いに語る。

まずは歩いて回りたい

ジェフ 京都は「歩く町」です。八坂神社から松尾大社まで、京都市街を東西に貫く四条通は約8キロ、南北に走る地下鉄烏丸線が約14キロ。広すぎず、歩きたい人にはちょうどいいですよね。

ランディー そうそう、西へ東へと自由気ままに歩いても迷うことがありません。

ジェフ 町が碁盤の目になっているので、まっすぐ歩けば必ず大通りに出られますからね。そしてちょっと細い道に入ると風情ある建物や店があったりして、何かしら発見がある。「えっ! こんなところに爪楊枝専門店?」って。

ランディー だから、雑誌やガイドブックによくある「おすすめコース」をそのまま辿る人はすごくもったいないと思うんですよね。

ジェフ 例えば、京都に住んでいるほとんどの人は、京都タワーに上ったことないと思う。

ランディー 私は京都で一番有名な清水寺にも一度も行ったことないよ。京都で清水寺に行く人って近くに住んでる人、店がある人くらいじゃないの?

ジェフ 京都には17の世界文化遺産があります。そのうち、歩いて巡りやすいのが仁和寺龍安寺、そして金閣寺。メインの通りはいつも観光客でいっぱいですが、少し裏に入るとがらりと変わる。

特に仁和寺の裏山はいいですよ。御室八十八ヶ所霊場と呼ばれる、四国八十八ヶ所霊場のお砂を持ち帰って地中に埋め、お堂を立てた巡拝コースがある。

ランディー 実際に四国を巡礼したのと同じご利益があるというスポットですね。四国を歩くと何十日もかかるけれど、ここなら2時間くらいで回れてしまう。

ジェフ 運動にもなるし、京都市街を一望できる場所もある穴場です。山で世界遺産といえば、鳥獣戯画で有名な郄山寺も素敵です。

紅葉の時期は人が押し寄せますが、新緑の季節は恐らく世界遺産の中でももっとも人が少ない。青いもみじに陽が注ぐ様もまた美しいものです。

市街の外れにあるので電車とバスを使って行くことになりますが、こういう場所こそひとつ前で降りて歩いたりしますね。

ランディー 私も同じです。住宅街にも明治期に建てられたような古い家屋があって、一本の桜の木が咲いているような風景に出会える。桜の名所もたくさんありますが、それとは違う感動があるんです。

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無名の庭がいい

ジェフ 住宅街なら鍾馗さん探しもおもしろいですよね。鍾馗さんは中国の魔除け・火除けの神様なんですが、家を守るということで京都の民家の屋根によく置かれているんです。時代や作り手によって違うので、いろいろな鍾馗さんがいる。それらを見比べるのもひとつの楽しみです。

ランディー 鍾馗さん探しのようにテーマを決めて歩くのはいいですね。私が初めて京都にきたのは30年以上前のゴールデンウィーク。毎年、京都市武道センター内の旧武徳殿で催される「全日本剣道演武大会」に出るためでした。来日して最初の3年は長野で武道に励んでいて、日本最古の演武場である旧武徳殿は憧れの場所でした。

ジェフ 旧武徳殿は平安神宮に隣接しています。平安神宮に参拝する人は多いけれど、庭園をゆっくり眺める人は少ない。吉田山を借景にした素晴らしい景観が広がっているのに……。

ランディー 日本の庭園は欧州のような華やかさはなく、草木と石、水だけなのに壮大な世界観を生み出している。特に緑は自然を代表する色。お茶を飲むと落ち着くように、日本の庭も心を鎮めてくれます。京都には有名でなくても良い庭がたくさんあります。

ジェフ 禅宗寺院に多い塔頭の庭は穴場かもしれません。寺は本堂や塔といった中心伽藍ばかりに目が行きがちですが周辺にも見所が多い。僕は建仁寺塔頭の両足院が好きです。枯山水に池泉回遊式と複数の庭園があって、初夏は半夏生の葉が美しい。

ランディー 以前、私も両足院でお茶会をやりました。私は茶道に縁が深い大徳寺によく行きますが、塔頭大慈院で営業する「泉仙」は庭で精進料理を食べることができていいですよ。

ジェフ そうそう、食べ歩きも大事な旅のテーマですよね。城南宮のそばにある京料理「清和荘」も庭園を眺めながら、伏見の名水を使った滋味豊かな料理を堪能できます。

ランディー 京料理や精進料理はもちろんのこと、いろいろなジャンルの名店が揃っているのも京都の魅力。私は今出川にあるタイ料理「イーサン」に一番通っています。イーサンとはタイ北東部のことで、本場の郷土料理が食べられる。特に炒めた肉をハーブと混ぜたラープともち米の組み合わせは最高です。

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木屋町の通好みな名店

ジェフ 京都は日本の古都ですが、実はすごく前衛的だと感じます。新しいものを積極的に取り入れて発信している。

外国人も増えました。僕がよく行くアイリッシュパブ「ガストロパブ タイグ」で出している京都の地ビールはカナダ、アメリカ、ウェールズ出身の外国人が設立した京都醸造で造られています。最近はイギリス人が手掛ける日本初のクラフトジン専門の京都蒸溜所も話題です。

ランディー 私やジェフさんも店を経営していますしね。ジェフさんの店がある木屋町通はそろそろ川床の季節では?

ジェフ そうですね、5月1日から始まります。床を出す店は全部で92軒あって、5月と9月は昼も利用できるんです。一番北にある「がんこ高瀬川二条苑」は、鴨川のすぐ横を流れる運河・高瀬川を開削した角倉了以の別邸跡。江戸初期に作庭家・小堀遠州が造った日本庭園を眺めながら和食が楽しめるのでよく利用していますよ。

ランディー 私は肉料理が好きなので、木屋町通だと「モリタ屋」ですき焼きを食べますね。本店は明治2年創業の老舗で、京都の直営牧場で育てた牛肉にオイルをかけて焼くと風味が増して実に味わい深い。

ジェフ 餅料理「きた村」も餅にウニやタラコをからめて食べる餅の創作料理が珍しくて美味しい。木屋町にはいろいろな店があるので雰囲気や予算に合わせて選ぶといい。

ランディー 食事は予約が必要な有名店も多いけれど、これも本当は散策中の発見を楽しんでほしいところです。

ジェフ 私は48年京都に住んでいますが、来日したばかりの頃にオープンしたての居酒屋「SIBA」を偶然見つけて、ずっと通い続けています。昭和の雰囲気そのままの15席ほどの一杯飲み屋ですが、馬刺しにおでん、キャビア、だし巻き卵となんでもある。

仕事帰りに大好きな馬刺しとエスカルゴで一杯飲んで京の町を歩いて帰るのがたまらなく気持ちいい。

ランディー 逆に不思議と行列ができている店もありますけどね。

ジェフ 某豚骨系のラーメン屋とか……。

ランディー ああ、スープが臭いラーメンね(笑)。

ジェフ 私は苦手なんです。日本人は並ぶのが好きなのか、新しいから珍しくて並ぶのかわかりませんが、京都は美味しいラーメン屋もたくさんあるので並ぶ時間がもったいなく感じます。

ランディー 同感です。京都の店は入りにくいと言いますが決してそんなことはない。

ジェフ 昔からよく聞くのが、京都は学生と外国人にやさしい町ということ。住みつかずにいずれ帰るからです。京都の人は「外国人は日本の良さ、京都の良さを知らないだろうから教えてあげよう」と思うようで、私たちはすごく得をしていますね。

ランディー 長野から京都に移るときにみんなから「大変だよ」と言われましたが、全くそんなことはありませんでした。町を歩いて、軒先で骨董を見つけたら、「キレイなものですね、どの時代のものですか?」と尋ねると丁寧に教えてくれます。

京都人も認める手土産

ジェフ それどころか、外国人だとわかると、タクシーに乗るなり運転手が「詩吟って知ってる?」って。

ランディー 何て答えるの?

ジェフ 知らないと言うと詳しく教えてくれて、一曲披露してくれる。これが日本人だと、もしかしたら詩吟をたしなんでいる人かもしれないと、京都の人間は警戒する。住みつかない点では観光客も外国人と同じ。

だから、どんどん尋ねるといいと思います。いろいろ聞いているうちに打ち解けて、一見さんじゃない雰囲気が生まれる。そうするとガイドにはない情報が得られたりもします。

ランディー お土産は京都の人におすすめを聞くといいのでは。

ジェフ そうですね。京都の人がお土産の紙袋を見て「おっ、いいお土産だな」と思うのは、末富、虎屋、いづう。虎屋は全国的に有名ですね。いづうは江戸中期創業の鯖寿司の老舗。僕が個人的によく利用するのは京菓子司「末富」です。この店のご主人とは友達なんですが、「捨てない和菓子作り」がモットーだと聞きました。

ランディー 私も末富や虎屋はよく利用します。干菓子だったら「亀屋伊織」。400年にわたって干菓子だけを作ってきたお店です。干菓子は茶の湯で濃茶の後の薄茶に供されるお菓子。亀屋伊織の干菓子は予約が必要ですが、口に入れるとふわーっととろける上品な甘みで、お茶を引き立ててくれます。

ジェフ 干菓子は色形も繊細で鮮やか、目も楽しませてくれますよね。

Photo by iStock

ランディー 宿で言えば、私も行ったことがありますが、「祇園畑中」では会席料理を食べながら剣舞や舞妓さんの舞踊を観賞することができる。純和風のとても静かな宿で外国人にも人気です。

ジェフ 京都は和の文化が詰まった宝箱のような町。それでいて革新的でもあるから、しばらく歩いてなかった道に入ると新しい店がいくつもできていたりします。だから、京都を知り尽くすなんて絶対にできない。

ランディー そうですね。京都に来た人はみんなそれぞれの印象を持つ。それだけ歴史や文化の深い町だから、私たちも毎日発見があるし、そこに魅せられて何十年も過ごしているんだと思います。

ランディー・チャネル 宗榮(そうえい)
カナダ生まれ。'93年京都へ。裏千家教授、二条城近くの和カフェギャラリー「らん布袋」オーナー。京都観光おもてなし大使を務める
ジェフ・バーグランド
49年アメリカ生まれ。20歳で同志社大学に留学し、以来京都に住む。自宅は築160年の町家。京都外国語大学教授で京都国際観光大使

週刊現代」2017年5月6日・13日合併号より