トランプ人気はなぜ。
それより、これからの世の中はどう動くのか。
一人のリーダーが巻き起こす混乱は予想以上だった。
英国のEU離脱は「グローバリゼーション・ファティーグ(疲労)」ととらえ、率先して多くの移民を受け入れた結果、多くの国民が仕事を奪われたり公共サービスを受けられなくなったりしてしまった英国の地方の様子をつかんでいた。
結局「外部との取り組みをどういう姿勢で取るか」という普遍の問題に行き当たる。
当然「唯一の正解」はない。
そんな中で国民に示せるものは「歴史」でしかないと思う。
今の、そしてこれからの世の中での協調をどうするか。
そんなことをリアルに語る人がこれからの経営者なのではないだろうか。
薄くとも想像してみたいと思う。
トッドの“予言” 人間の「本能」に着目
今やワイドショーでも取り上げられる米国のトランプ人気や英国のEU離脱などの現象は、政治や経済の視点から分析されがちだが、家族制度や人口動態から解説して注目されるのがエマニュエル・トッドだ。独自の視点で語る
エマニュエル・トッド氏トッドは1951年生まれのフランスの歴史人口学者。家族制度や識字率、出生率に基づいて政治や社会を分析し、ソ連の崩壊、米国の金融危機、アラブの春を“予言”してきた。
彼はどんなデータや現象からトランプ人気などを予言してきたのか。
米国大統領選では、白人中産階級がトランプ支持に回っていることを早くから指摘。45歳から54歳の白人男性の死亡率が1999年以降上昇しており、生活レベルの低下や絶え間ない構造改革から来る生活の不安定などが自殺や麻薬、肥満に関連していると説明している。
世界で成長をめざす企業は、賃金を純粋なコストとみなして削減に努め(投資であり消費を支える部分もあるのに)、人件費の安い国に雇用を奪われた。自由貿易によって生活を破壊された人々が「アメリカファースト」を支持したという。
英国のEU離脱は「グローバリゼーション・ファティーグ(疲労)」ととらえ、率先して多くの移民を受け入れた結果、多くの国民が仕事を奪われたり公共サービスを受けられなくなったりしてしまった英国の地方の様子をつかんでいた。
また、日本は韓国、ドイツとともに「直系家族」というタイプに属し、親が子に対して権威的で同居率が高く資産の世代間継承を重んじる。家族や家というシステムを大切にするため結婚のハードルを高くし出生率を低下させていることを指摘している。日本の家族観が変わらないと、教育のある女性が働きながら子どもを持つことはむずかしいとも語る。
我々は経済的な判断から将来を予想するが、データから読み解く彼の説明は経済だけでは理解できない人間の“本能”に気づかせてくれる。
トッドの著書は多いが、取っ付きやすいのは新書。「グローバリズム以後」(朝日新書)、「問題は英国ではない、EUなのだ」(文春新書)はオススメ。ワイドショーが楽しくなるに違いない。
(日経BPヒット総研 上席研究員)