藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

想像は常に現実に。

科学技術の話をしていると、時として「いつになったら結果が出るのだろう」と短絡的に思うことも多い。

「科学の進歩というのはかくも遅いものなのか」と一般人としては思う。
だけれど。

1センチの「一千万分の一」の分子を制御する試みがいよいよ現実になりつつあるという。
記事中にもあるが、まさに「ミクロ決死圏」の映画の世界さながらだ。
かの映画の製作は1966年。
ちょうど50年前に「創作の最先端」として(今ならスターウォーズハリーポッターあたりか)作られた映画が、
半世紀を過ぎて"リアル"になろうとしている。

SF作家こそが最高の未来予測ができる。というのはどうやら本当だ。

ということは。

今の映画やドラマを見ても、同様に「いずれ起こること」がふんだんに盛り込まれている可能性は高い。

映画の世界では、思考や空間で操れるコンピューターはすでに当たり前になっている。
作品中の世界ではIoTよろしく「街中はカメラだらけ」だし、自分たちの手足も全部コンピューターにつながっている。

AIブームで「コンピューターが独自に意思を持って動き出すかどうか」についての議論はいよいよ白熱してきているが、技術そのものの進歩は「今の想像を超えて」着々と進んでいるようである。

人って二足歩行をするようになってから、実はずっと「そうした技術のプレッシャーと戦いながら」進化してきたのではないだろうか。
今のAIブームとか脅威論も「新たなる試練の一つ」なのではないかと思う。
人は多分、また乗り越えるに違いない。

夢の「ナノカー」 めざせ体内 電子が動力、薬運搬も視野
毛髪の太さの1万分の1以下という世界最小の「自動車」で競争する国際大会が4月下旬、フランスで開かれた。日米欧の参加チームが持ち込んだのは、微小な有機分子でできた「ナノカー」だ。特殊な顕微鏡を使い、電子を動力源に走る。将来、分子機械を自在に操れるようになれば、体内で狙った場所に薬剤を運ぶことなどが実現するかもしれない。

 仏南西部トゥールーズの国立科学研究センターで開かれたナノカーレースには、日米欧の6チームが直径2ナノ(ナノは10億分の1)メートル前後のナノカーを用意した。肉眼では見ることはできない分子の塊を金の板の表面で走らせ、36時間の制限時間内に誰が一番早くゴールできるかを競った。

 日本からは物質・材料研究機構のチームが参加した。米ライス大学とオーストリアグラーツ大学の合同チームにはナノカーの研究で知られるジェームズ・ツアー教授らが加わった。ただの競争ではなく、分子の振る舞いに対する理解を深め、制御技術を飛躍的に高める科学実験の側面もある。日本チームのリーダーを務めた中西和嘉主任研究員は「宇宙から地球上のボールを動かすくらい難しい」と制御技術の難しさを強調する。

 各チームのナノカーは分子を組み合わせた構造で、四輪車そっくりだったり風車のような形だったりと、デザインや動き方はそれぞれ異なる。

 物材機構はチョウに似た形で酸素、炭素、水素の計88個の原子を組み合わせた。全長はわずか2.1ナノメートルだ。「ビナフチル」という分子2つを「デュレン」という単純な構造をした分子でつないだ。

 有機溶媒に分子を浸して試薬を加えると「ビスビナフチルデュレン」と呼ぶ自然界にはない分子の構造ができる。ビナフチルは、野依良治氏がノーベル化学賞を受賞した「不斉合成反応」の触媒に使われている。エネルギーを加えた際、バタバタと振動する性質があることに着目した。

 通常の自動車はアスファルトの上を走るが、ナノカーは分子と反応しない金の上を走らせた。表面に自然にできたジグザグの溝100ナノメートルをコースに見立てた。探針走査型トンネル顕微鏡(STM)という特殊な顕微鏡を活用。STMは微小な探針を物質表面に近づけ、原子レベルで形状や性質を調べるのに使われる。レースでは4本の探針を備えたSTMを使い、複数チームが同じ金の上を走った。

 電気的な力などで結びつく分子の性質を利用し、ナノカーを動かす。物材機構のナノカーは原子1個分という探針の先端から電気を流すと分子が活性化し、バタバタと羽のように左右の構造が震える。形は左右対称で裏表がなく横転しても問題ない。他に電気的な性質を帯びた空間「電場」を活用したチームもあった。

 ナノカーはコース表面に並ぶ金原子によってできた凹凸を越えなければならない。電子を構造上のどの部分に注入するかが重要。間違えると意図しない方向に曲がる。物材機構のナノカーはちょうど中心部に電子を当てると前進することを実験で突き止めた。

 結果は米・オーストリアの合同チームが最速で完走した。金表面で走ると顕微鏡で観測できないため、銀に変更した。金表面を走ったスイスのチームと並んで優勝した。

 物材機構は1ナノメートル走った後、主催者が用意したコンピューターが故障。ナノカーや探針が壊れた。復帰を試みたが同じ問題が再発し、スタートから19時間30分でリタイアを決めた。復旧作業が他チームに影響することを考慮した。レース開始前も他チームの分子が散らばりコースをふさぐなどの災難もあった。

 不本意な結果だったが中西主任研究員は前向きだ。「今回の経験は、さらに複雑な分子構造を扱う上で役に立つ」と話す。ただ、現状では電子を与えた際の分子の詳細な動き方までは把握できない。バタバタと動くというのも理論計算に基づく推測だ。「実際の動き方が分かれば研究はもっと進む」(同主任研究員)

 分子機械はナノカーのほかにも実用化に向けて研究が活発だ。東北大学はDNAやたんぱく質などでできた分子機械を組み合わせ、光で動きを制御する超微小なロボットを開発した。体内での治療応用が視野に入る。同大では別のチームも炭素分子を使った微小なベアリングを作った。

 1966年公開のSF映画「ミクロの決死圏」では、潜航艇を小さくして人の体内に潜り込み、病気の治療を試みた。以来、研究者は映画を現実のものにしようと取り組んできた。そのためには「速く」「正確」に分子機械を操る技術が欠かせない。研究は日々進化している。(山本優

■分子機械 超小型の電子機器開発に期待
 分子機械はナノ(ナノは10億分の1)メートルサイズの分子を精密に設計し、化学合成する。有機化合物のほか、DNAやたんぱく質で作る例もある。
 電気や光などの刺激を受けて回転したり開閉を繰り返したりする。肉眼で見えないほどの大きさで、少ないエネルギーで動かせる利点がある。
 昨年のノーベル化学賞は「分子機械の設計と合成」をテーマに欧米の研究者3人が受賞した。実用化された成果はまだないが、将来は超小型電子機器などの開発が期待されている。米国のノーベル物理学賞学者、リチャード・ファインマン博士は半世紀以上前に「分子サイズの機械がいずれ実現する」と予言した。