シンガポール金融通貨庁(MAS)と大手7行は7月、携帯電話番号だけで個人の銀行口座間の送金ができるサービスを始めた。
登録者数は1カ月弱で、人口の1割にあたる56万人に達した。
インターネットの世界は「道端」だ。
端末だって落とすこともある。
だから慎重に、慎重に。
というような話は「便利の勢い」に完全に呑まれてしまった。
便利に、便利に、とことん便利に。
それにしても「端末」と「ID」が結びついてもたらす便利は無限に広がる。
かつての産業革命の最中に、自分たちはいなかったけれど多分「これほどの波」ではなかったのではないだろうか。
印刷や内燃機関の発明もすごかったとは思うけれど「速度のもたらす破壊力」で言うなら今回の革命は"光速"で通信している。
変わらないのは「生物そのもの」の生きるスピードだけだろう。
「人じゃなきゃできないこと」を真面目に考えておかなければ、と真剣に思う。
アジア、電子決済の巨人に 生体認証など手軽さ競う 海外フィンテック最前線(3)
インドの道ばたの雑貨店。男性客が差し出した札に対し、店にはおつりがない。カードや携帯電話による支払いにも対応していない。そこで店主が取り出した小型の端末に客が指を置くと、支払いが完了する――。中国銀聯、ビザ、マスターが発表したQRコード決済は三輪タクシーなどでの利用を想定(バンコク)
4月に始まった指紋を使った決済システム「Aadhaar Pay(アーダールペイ)」の動画広告だ。ベースは11億人超が登録するインド政府の生体認証システム。顔画像と指紋、目の虹彩画像を登録して12ケタのID番号をもらうという、いわば“生体情報付きマイナンバー”だ。自らの銀行口座をシステムにひも付ければ、カードやスマートフォン(スマホ)がなくても決済できる。
アジア各国では固定電話やパソコンの普及が先進国に比べ遅れたことが、逆に携帯電話、スマホの爆発的な普及を促した。決済や送金でも同じ構図があり、先端技術の導入を後押ししている。
カードを持っていなくてもスマホは持っている消費者が億人単位でいる。ユーロモニターの推計では、タイやインドネシアなど東南アジア主要6カ国のモバイル決済額は、2016年の95億ドル(約1兆円)から21年には330億ドルに拡大。日本の2割弱にすぎなかった市場規模は、21年に約4割に近づく。“巨人”の覇権争いも熱を帯びる。
10月、タイの首都バンコク。カードすら使えない露店が多いラライサップ市場でQRコードを使ったスマホ決済が始まる。必要なのはコードが印刷されたステッカーだけ。客がコードをスマホで読み込み金額を打ち込めば支払いは終わる。
このサービスを手掛けるのは中国銀聯、米ビザ、マスターカードのカードの世界大手。屋台や三輪タクシーなどの零細事業者を囲い込むためライバル同士が手を握った。
中国電子商取引(EC)の巨人、アリババ集団も傘下のアント・フィナンシャルを通じ、昨年11月にタイ、今年4月にインドネシアで現地企業と相次ぎ提携。7月にはマレーシアの金融大手CIMBグループと決済サービスの展開で合意した。自社の「支付宝(アリペイ)」と同様の仕組みを東南アジアで展開する。
危機感を募らせるのが先進的な金融市場を売り物にしてきたシンガポールだ。リー・シェンロン首相は8日の演説で「他国は電子決済を使ってキャッシュレス社会に移行しビッグデータを使って公共サービスを改善している。彼らから学び、追いつき、追い越さなければいけない」と訴えた。
シンガポール金融通貨庁(MAS)と大手7行は7月、携帯電話番号だけで個人の銀行口座間の送金ができるサービスを始めた。登録者数は1カ月弱で、人口の1割にあたる56万人に達した。
アジア各地で変わる買い物風景はグローバル化の産物でもある。「中国人観光客がスマホで全ての支払いを済ませる。それをまねしたがるフィリピン人が多い」(SMインベストメンツのフレデリック・ディブンシオ社長)。経済成長を背景にした旺盛な消費者の需要が急速なフィンテックの浸透につながっている。
(中野貴司、岸本まりみ、早川麗)