藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ルールのインフラ。

法律は大事だ。

道路交通に関するジュネーブ条約は運転者の関与を前提とし、批准国の法律では車任せの運転が認められない。
自動運転車両の安全基準も整っていない。
レーダーや半導体人工知能(AI)など技術は進むのに法制度だけが置き去りになっている。

その法律に従って「いろんないろんないろんな権利関係」が整理されたり、時には争われたりする。
法律を作る側も大変だ。
うっかりしていると作った側が責任を問われることもある。
だから細かく細かく作る。
こういう仕事は、相当頭脳が明晰でなければできない。

条約改正ができなければ条文解釈で自動運転を認めるしかない。
日本は約10カ国と非公式専門家グループを立ち上げ、馬車さえ走った時代からの古証文を読み直している。
「適正に操縦する」とは何を意味するのか。
一文ごとに各国の担当官が突き詰めて考える。
条文が自動運転を追認すると解釈できればいいが、議論には時間がかかりそうだ。

こういう作業を地道にしてくれる人がいるから、新しい技術とかサービスなどが「将来にわたって」伸びていくことができる。
ビジネスをする側の人は、こういうことに感謝をしなければならないと思う。
法律は窮屈なものだけど、縁の下の力持ちでもあるのだ。

自動運転、国際ルールづくり難航 新産業に冷水
 自動運転を巡る国際的なルールづくりが難航している。道路交通に関するジュネーブ条約は運転者の関与を前提とし、批准国の法律では車任せの運転が認められない。自動運転車両の安全基準も整っていない。レーダーや半導体人工知能(AI)など技術は進むのに法制度だけが置き去りになっている。各国が協調しなければ、新産業としての自動運転がしぼみかねない。

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 独アウディは2018年半ば、世界初の技術となる「レベル3」の自動運転が可能な高級セダン「A8」を日本で発売する。自動車専用道路の同一車線を時速60キロメートル以下で走る場合にシステムが操作を担う機能を備えた。

 国際基準のレベル3に相当し運転者はスマートフォンを見ていても技術面では問題ない。だがアウディジャパン(東京・品川)は「ソフトの設定を変えハンドルを握った状態での自動運転に機能を絞る」(斎藤徹社長)という。自慢の最先端技術を封印するのは法制度が立ちはだかるためだ。

 日本の道路交通法ではドライバーが運転中の注意・監視の義務を負う。ハンドルから手を離し車に運転を委ねた時点で法律違反だ。道交法の根拠はジュネーブ道路交通条約。「車両には運転者がいなければならない」。1949年に制定した条文は明示している。

 条文には「運転者は常に車両を適正に操縦し、速度を制御しなければならない」とのくだりもある。これに基づき60年にできた日本の道交法も「運転者はハンドル、ブレーキそのほかの装置を確実に操作する」と決めている。

 「議論を進めましょう」。警察庁で自動運転の国際ルールづくりを担当する佐野裕子参事官は国際会議で各国の担当者に語りかけてきた。ジュネーブ条約を改正できれば道交法も改めることができ、自動運転の実用化は進む。しかし批准国は約100カ国あり、3分の2以上の賛成が必要。そもそも自動運転の普及に関心のある国はわずかで、会議にすら出ない国も多い。

 条約改正ができなければ条文解釈で自動運転を認めるしかない。日本は約10カ国と非公式専門家グループを立ち上げ、馬車さえ走った時代からの古証文を読み直している。「適正に操縦する」とは何を意味するのか。一文ごとに各国の担当官が突き詰めて考える。条文が自動運転を追認すると解釈できればいいが、議論には時間がかかりそうだ。

 法律の見直しではドイツが昨年、レベル3を認めるよう道交法を改正して各国に先んじた。ドイツはジュネーブ条約と並び道路交通の原則を定めたウィーン条約を批准済み。ウィーン条約は16年3月に「(システムから)即座に運転を引き受けられる場合」の自動運転を認めた。自動車産業が浸透する欧州を中心に加盟は約80カ国で、改正の手続きはハードルが低い。これを受けドイツは国内の法改正に踏み切った。

 ウィーン条約の制定は68年。モータリゼーションの進展に伴いジュネーブ条約を補強する目的だった。既に道交法をスタートさせていた日本は大幅な法改正が必要になるため批准していない。国際免許でも問題になる国際交通ルールのダブルスタンダードが自動運転で日本を不利にしている。

 ただ法律面をクリアしたはずのドイツでも17年秋に発売したA8はレベル3の機能を発揮できない。型式認証制度の基準が未整備でA8は自動運転車と認められないためだ。

 型式認証はブレーキやハンドルなど各国当局が求める安全のスペック。自動運転車両でも新たに設ける必要があるが、その前提となる国際的な基準をつくろうと国連欧州経済委員会(ECE)で議論している段階だ。「自国企業を有利にしたい各国のせめぎ合い」(デロイトトーマツコンサルティングの岡田雅司シニアコンサルタント)が続き、レベル3以上の基準づくりはメドすらたっていない。

 「出張経費も十分に出ないんだ」。国際会議に来る米政府の担当者は漏らす。トランプ政権は自動運転ルールでの国際協調に関心がないようだ。ミシガン州が完全自動運転の公道実験を認めるなど州政府がジュネーブ条約を独自に解釈して道交法を変えている。

 米国内のルールに世界の企業が合わせれば済むとトランプ政権は考えているようにみえる。ECEの議論にも参加していない。我が道を行く米国の存在はルールづくりが滞る一因となる。

 こうした国際環境は、自国の技術が孤立するガラパゴス化を避けたい日本を苦しい立場に追い込む。ジュネーブ条約の見直しに動き、ECEの基準づくり会議で議長も務めるなど日本は積極的だ。それでも米国が動かず、多国間の枠組みでは欧州が多数票なのに対し、日本は1票しかないという問題もある。

 思うに任せない国際関係と対照的に国内の準備は進む。自動運転での損害保険では国土交通省の研究会が1月、現在の自動車損害賠償責任保険自賠責保険)の仕組みで車の所有者が責任を負う案を打ち出した。各地で実証実験を促すため今国会に提出する国家戦略特区法改正案には規制凍結で次世代技術の実用化を促すサンドボックス制度の柱に自動運転を盛り込んだ。

 日本は完成車大手を多数抱え、自動運転に必要な半導体やセンサーを手掛ける電機大手も健在だ。DeNAやNTTドコモなど異業種も自動運転の実験を始め国としてのポテンシャルは高い。世界の先頭を走りながら国際標準になる機会を失った「iモード」のような技術の二の舞いを避けるためにも日本の外交力が問われている。(藤野逸郎)