藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

amazonの逆

北海道の江別市に新型の蔦屋書店がオープンして賑わっているという。
結論としては「何もないところ」に「ここにしかないもの」を配置したということらしい。
それまでの大規模店舗は全国チェーンを中心に配していたと言うが、言われてみればそんなもの飽きるに決まっている。
 
こういう試みを結論から「コンセプトが大事だね」と言うは易しだが、事業をする側にしてみれば重大な決心だったのだろう。

地元の人のための地元の産物やサービスを揃える。

「地元」という概念の希薄な大都市圏ではつい「全国の名産物を集めよう」などと総花的に考えてしまうが、そもそもの当たり前な思考をするのは案外難しいものだと思った。
蔦屋書店の梅谷知宏社長は「amazonとは逆のベクトルの空間を創造したい」とおっしゃるが、かの巨人が"amazonにしかないもの"とか"amazon世界の地方展"なんかをやり始めたらと思うと恐ろしい。
"体験型の消費"にしてもそのうちネットで実現してしまうのではないだろうか。
 
 
蔦屋、令和の「イオン」になる
2019年8月1日 11:30
北海道江別市に蔦屋書店の新型店が2018年11月に開業し、今も平日からにぎわう。3年間札幌に勤務していたが、隣の江別市に対する印象は薄い。実際に運営するCCC(カルチュア・コンビニエンス・クラブ)の事前調査では住民も「何もないところ」と控えめ。なぜ江別なのか。

 
レストラン、物販、書籍が一体となった蔦屋書店(北海道江別市)
約4万4500平方メートルという広大な敷地があったことも大きいが、CCC側は潜在価値を見つけた。近年の札幌は地価が上昇し、マンション価格も80平方メートルで4000万円台と首都圏並みに上昇。このため江別はそのベッドタウンとしての価値が上がっている。
そして市の中心部にも緑が生い茂った自然が残る。「江別なら田園都市でのスローライフの提案ができる」と判断し、新たな店づくりに乗りだした。昭和は駅前中心の再開発、平成は郊外型ショッピングセンターの建設ラッシュが目立った。
令和はどうか。少子高齢化・人口減が進み、モノは余る。買い物は米アマゾンを中心としたネットやコンビニエンスストア、ドラッグストアが中心になる。リアル店舗の役割は食、地域コミュニティー、知的な刺激など体験型が生命線だ。
江別の蔦屋書店は東京・代官山、銀座以上に一段と脱・本屋が進んでいる。いうならばコトを重視したミニSCで、令和型「イオン」か。江別の蔦屋は3棟建てで食、知、暮らしのゾーンに区分けされる。コアは書籍が中心の約1500平方メートルの知だが、食のゾーンでは同じ規模でフードコートを展開している。
フードコートは地元や北海道で知る人ぞ知る名店だけを集めた。カレー、イタリアン、おはぎなどなど。函館で人気の回転ずしが運営する「おにぎり」店、薫製専門店など全国チェーンのSCでは味わえない店舗を誘致した。
暮らしのゾーンではカフェ併設のグリーンショップ、家具のセレクトショップやアウトドア用品などで構成。子供の遊びフロアも備え、ガラス張りの壁からは実物の電車が見える。
地域密着型を掲げる江別・蔦屋の売り場以外の特徴はイベントだ。これも著名なタレントなどを呼ぶのではなく、料理や手芸など地元の住民が主催する内容が多く、月に100回以上開催しているという。
これまでSCと言えば、全国ブランドの専門チェーンを柱で構成していた。それでは飽きられるし、他地域から人を呼ぶこともできない。地域性の強いテナント構成にすることで"外貨"も集められる。外食企業のバルニバービの佐藤裕久社長も「そこにしかないものをつくらないと町の再生はできない」と指摘している。
CCCは今後、こうした地域型蔦屋書店を積極的に出店していく方針。北海道プロジェクトを推進してきた蔦屋書店の梅谷知宏社長は「アマゾンとは逆のベクトルの空間を創造したい」と話す。何もない制約条件こそ他にないものをつくるチャンスかもしれない。

中村直文(なかむら・なおふみ) 1989年日本経済新聞社入社。産業部、流通経済部で百貨店・スーパー・食品メーカーなどを担当。日経MJ編集長などを経て2018年4月から経済解説部編集委員。専門分野は流通・個人消費など。