藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

体のリズム。


体の中の時計。
体内時計、という概念はずい分昔からあるが、あまり定かではない。
現代人が、特に夜更かしになってからは、それを「諌める」ような教訓が多いけれど、驚くほど「どの説」もが科学的には信ぴょう性のある理屈を根拠にしていない。


それどころか、詳しくなる一方の「西洋医学薬物療法」そのものが、最近は「本当に体全体に資しているのか」と懐疑的に捉えられて、これまでのような「一方的な薬信奉」ではいられなくなっているように思う。


先日、脳科学の専門医にお話を聴く機会があったが、「医学は、これまで絶えず進歩し、しかしながらまったく発展途上の学問なのだと思います」というその言葉そのものの「未成熟感」を感じざるを得ない。
ここ数カ月でも「ガンの治療」については、一般誌上で諸説が入り乱れるほどの混乱ぶりである。


医術の進歩と、それを広く知らしめる方法の普及、は明らかによいことだと思うけれど、それは逆に「医術の脆弱性」のようなものを、患者やその家族に露呈してしまっているという一面もあると思う。
いまこそが過渡期、と断じてしまえばいいのかもしれないが、個別には解明されてきた医術が、「これからはより統合的に研究され、相互の関係を解明される」と言う時代がきてくれることを願う。

体内時計の乱れを測定 がんの予防・治療に活用
山口大や佐賀大

人間の細胞には約24時間の時を刻む体内時計がある。この時計を制御する遺伝子に狂いが生じると、がんになりやすいとされる。山口大学佐賀大学は体内時計の乱れを簡単に測定する方法を開発、がんの予防や治療に役立てる道を開いた。九州大学はがん細胞の増殖に関わるたんぱく質に着目した治療法の開発を進める。体内時計を利用した時間治療はがんの予防や治療に新境地を拓(ひら)く可能性を秘める。


 「1週間ごとに早番と遅番を繰り返す労働者の体内時計を調べたら、常に時差ぼけの状態になっていることがわかりました」。山口大学の明石真教授らは、ある工場で昼夜交代で働く労働者の体内時計の状態を調べ、こんな結果を得た。

 体内時計の状態を測定するため、頭髪の根元にある細胞を薬剤で溶かし、時計遺伝子の活動状況の指標になるメッセンジャーRNA(リボ核酸)の量を測る方法を開発。早番と夜番を1週間ごとに繰り返す人の体内時計のリズムを調べた。起床時間は約7時間早くなったり遅くなったりしていたのに対し、時計遺伝子の活動が最も活発になるピークは2時間程度しか前後に変化していなかった。

 交代勤務労働者などはがんになるリスクが高いという研究報告があるが、明石教授は「体内時計のリズムの乱れが原因であることが示唆される。体内時計を測定して時差ぼけにならないような交代制を組めば、がんになるリスクを低くできる」という。

 がん細胞が時間によってどう変わるかに注目した研究も進む。九州大学大学院薬学研究院の大戸茂弘教授らは、がん細胞の増殖にかかわるトランスフェリン受容体と呼ぶたんぱく質に約24時間のリズムがあり、c―mycというがん遺伝子が制御していることを突き止めた。

 結腸がんの細胞をネズミに移植してトランスフェリン受容体ががん細胞の表面に現れる量を測定したところ、夜の9時に最も多く現れることがわかった。大戸教授は「時計遺伝子に異常が起きて、がん遺伝子を目覚めさせ、トランスフェリン受容体が多く作られるようになるのではないか」と推測する。


大戸教授らは、トランスフェリン受容体ががん細胞の表面で増えたり減ったりするリズムを指標にしたクロノドラッグデリバリー(時間薬物送達)システムという新しい抗がん剤の治療法を開発した。

 抗がん剤を脂質の膜で球状に包み込み、その表面にトランスフェリンをくっつけた薬剤を、午後9時にネズミに投与したところ、午前9時に投与したネズミより、がんの大きさが3割程度小さくなっていた。薬剤のがん細胞への取り込み量も午後9時に投与したネズミの方が多かった。「今後も動物実験を重ねて、時間薬物送達システムを使ったがん治療につなげたい」と大戸教授は話す。

 がんの時間治療をすでに始めた病院もある。横浜市立大学医学部付属病院では、がん細胞と正常細胞が増殖し始める時間のずれを利用した時間治療に取り組む。対象は進行性の大腸がんでがんが肝臓に転移し、手術できないほど大きくなった患者に限られる。

 太ももの動脈に細い管を入れて、肝臓に直接、抗がん剤を投与する。がん細胞が活発に活動し始める午後10時から5―FUとアイソボリンという2種類の抗がん剤の投与を始め、午前4時に投与量が最も多くなるようにし、午前10時まで肝臓に注入する。午後4時には別の抗がん剤シスプラチンを入れる。

 「正常細胞への影響が少なく副作用がほとんど出ないので抗がん剤の量を5日間で1.5倍に増やせ、切除可能な大きさまでがんを小さくできる」と同大医学部の田中邦哉准教授は説明する。

 横浜市大ではこれまで70人に時間治療を実施。56人が手術で肝臓のがんを切除することに成功した。「これまで救えなかったがん患者が、時間治療で救えるようになった意義は大きい」と同大医学部の遠藤格教授は強調する。

 体内時計の研究が進み、様々な時間薬物送達システムが開発されれば、様々ながんに対して副作用が少なく、より効果的な治療が実現できるようになるかもしれない。

(佐賀支局 西山彰彦)