団塊の世代が「後期高齢者」という括りに入るボリューム現象のことを2025年問題という。
介護する人とか、医療費とか施設とかが全く足りない、と言われている。
そう言いながらもあと7年くらいしかない。
いろんなことに期限が迫っているけれど本当はオリンピックとか言ってていいのかと思ってる。
ところでアルツハイマー病の治療薬が暗礁に乗り上げたままだという話。
2025年には日本で700万人、高齢者の「五人に一人は認知症」だという。
昔からの統計もないし、そもそも寿命がぐんぐん伸びている「初めての事態」だから未知の世界というしかないが、
それにしても道端で高齢者を見たら「必ず声をかける」とか「キレる老人は病気かもしれない」とかいうことが常識になりそうだ。
長生きが過ぎるのか、それとも日常生活の中に「何か原因となるもの」があるのだろうか。
何にしても特効薬のない今のところは「頭を使うこと」を心掛けておいたほうがよさそうだ。
アルツハイマー原因物質に疑念? 認知症治療の最前線 編集委員 滝順一
アルツハイマー病治療薬を開発するうえで有力な戦略とされてきた「アミロイド仮説」に対する疑念が表面化している。脳での有害なアミロイド(アミロイド・ベータ)沈着を妨げる働きがあるとされた治療薬候補が治験で十分な結果を残せなかったためだ。アミロイド仮説は死んだのだろうか。
■米イーライリリー、アルツハイマー新薬の承認申請を断念
米製薬大手のイーライリリーは昨年、アルツハイマー病治療薬の有力候補とされてきた「ソラネズマブ」の承認申請を見送ることを決めた。2千人以上の患者を対象にした臨床第3相試験で期待されたほど大きな認知機能の改善効果がみられなかったためだ。
アルツハイマー病患者の海馬の病理組織像。緑の矢印はアミロイドが沈着した老人斑、ピンクの矢印は神経原繊維変化と呼ばれる病変(東京大学大学院の岩坪威教授提供)
イーライリリーは2012年にも第3相試験での失敗を表明している。この時は軽度から中程度のアルツハイマー病患者を対象にソラネズマブの効果を調べた。治験総体としては十分な効果が認められなかったが、軽度の患者については認知機能の低下を抑える効果が確認されたことから、軽度の患者に限定して新たな治験に取り組んできた。
その結果が昨年の申請断念となった。認知機能の低下を抑制する効果は確かにあるものの、治療薬として投与したとき患者が効果を自覚するほどには大きくないと、同社の経営陣は判断し承認申請を断念したとみられる。
この経緯はアルツハイマー病治療薬開発に暗い影を落とした。12年には米製薬大手のファイザーとジョンソン・エンド・ジョンソンも治療薬として開発を進めていた「バピネオズマブ」の第3相試験に失敗し開発継続を断念している。この薬も「ソラネズマブ」と効き方の仕組みは違うものの、基本的にアミロイド沈着を妨げることを狙っていた。こうしたことから脳神経分野の有力な研究者が「アミロイド仮説は死んだ」(米テキサス大学のジョージ・ペリー博士)と学会誌で宣言する状況にまで発展している。
アミロイドは体内で生まれるたんぱく質で、細胞活動の結果生じる一種の老廃物と考えられる。体内にはアミロイドのもとになる物質(前駆体)を切断し分解する酵素があり、切断されたアミロイドの断片(ペプチド)の多くは体液に溶けこみ排除される。しかし前駆体を切断する位置にばらつきがあり、ある割合で水に溶けない断片ができてしまう。これが固まって脳の表面に沈着したものが「老人斑」となる。
アルツハイマー病でない人でもアミロイドの沈着がみられることがあるが、発症する人の場合、不溶性のアミロイドが通常よりたくさんできて脳機能に障害をもたらすと考えられる。疾患を引き起こすと考えられるアミロイドをつくらせないようにしたり、できてしまったアミロイドを取り除いたりできれば、アルツハイマー病の根本的な治療になると考えられてきた。これが「アミロイド仮説」による開発戦略の基本的な考え方で、この戦略がいま問われている。
■発症前の対策が有効か 国際臨床試験がスタート
9月下旬に岡山市で開いた日本認知症予防学会の学術集会で「アルツハイマー病再考」と題したシンポジウムが開催された。アルツハイマー病の予防から治療、患者支援までこれまでのあり方を点検し改善を意図したシンポジウムで、その中で「アミロイド仮説の再考」もテーマにあがった。
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アミロイド仮説の見直しも議論になった日本認知症予防学会のシンポジウム(岡山市)
ここで登壇した東京大学医学部付属病院の岩田淳講師は「アミロイド仮説は死んではいない」と強調した。「アミロイド仮説とは、20年近くの長い時間をかけて脳にアミロイドが沈着し、それが神経細胞に障害を与え最終的に細胞死に至らしめるという考え方だ。アミロイドはアルツハイマー病の発症に必須であり発症の下地となる。この考え方を疑うべき状況ではない」と話す。
ここでアミロイド仮説をあきらめるのではなく、むしろ時間軸をさかのぼって発症前の段階から手を講じることの有効性が示されてきたと考えるべきだとみる。
症状が出る前の「超早期」と呼ばれる段階での国際臨床試験が始まっている。米ハーバード大学のリサ・スパーリング博士が中心となった取り組みで「A4試験」と呼ばれる。65〜85歳の認知機能が正常な高齢者を対象にしている。最初にアミロイドPET(陽電子放射断層撮影)と呼ぶ検査装置で脳のアミロイド沈着を調べ、沈着があった人に4年半の長期にわたってソラネズマブを月1回投与し続け、効果をみる。
東大大学院医学系研究科の岩坪威教授によると「国際臨床試験ではすでに検査で陽性(沈着あり)とされた1100人以上の被験者に投薬が始まっている」という。東大病院もこの計画に参加している。イーライリリーのほか、ノバルティスやヤンセンファーマ(ジョンソン・エンド・ジョンソンの医薬部門)もそれぞれ開発した候補薬で超早期の臨床試験に取り組んでいるという。
岩坪教授も「(遺伝によって若くして発症する)家族性アルツハイマー病では、原因となる遺伝子変異が例外なくアミロイドを介してアルツハイマー病を発症させている。これがアルツハイマー病全般の発症にアミロイドが原因として関わっていると考える論拠だ」とみる。
アミロイド仮説への批判はあるが、新薬開発はより適切な投与時期と量を模索して今後も続いていくとみられる。
心筋梗塞や脳梗塞などの病気になる前から、血圧や血中コレステロールの検査値を手がかりに降圧剤などを服用し重い病気の発症を予防することは日常的に行われている。アルツハイマー病も症状が自覚される前から薬を投与し、発症を予防し遅らせることができれば、社会にとっては大きな福音だろう。
■日米欧の目標「2025年までに治療法確立」の実現性は…
国際アルツハイマー病協会によると、認知症の患者数は世界でおよそ4680万人以上とされ2050年には1億3150万人に達するとみられる。日本の厚生労働省の推計では国内の認知症患者は25年に700万人を超え、65歳以上の5人に1人が認知症を患うという。本人や家族のみならず、社会にとって重い負担になる。
仮に超早期での投薬が効果的だとわかったとしても、だれを対象にいつから薬を使うかの判断は難しいだろう。「予備軍」が多ければ投薬コストも巨大になる。予防的な治療が必要かどうかを見極めるため精度が高く安価な診断技術も求められる。
2013年に日米欧の主要国は、認知症の治療法を25年までに確立するとし各国で研究開発投資を増やしていくことで同意した。これまでの経緯からみて、25年までに根本的な治療薬の実用化は難しいのかもしれない。
認知症を患う人が増えていくのは避けがたい。薬の研究開発と並行して、日常の運動などを通じた予防策の普及や患者を支援する社会的な体制整備を進めることも重要だ。