まあ戦後70年。
いろんな分野が「透明化の波」にさらされてきたけれど、葬儀とか結婚式とか、ツアー旅行とか学費とか、これまである種の聖域で、「ブレイクダウンのメス」が入らなかったところも、ここ十年もすればずい分進んでいくのではないだろうか。
記事にある「葬儀一式」は自分も経験があるが、「あっ」という間に「説明とオーダーと支払い」が進行してしまい、内容の精査はもちろん、相見積もりなどする暇もない。
普段はビジネスで鍛えられているはずの人たちが、苦もなくまな板の上に載せられ、料理されていく様子は後から思えば滑稽ですらあったと思う。
ここ十年ほどで、葬儀料金の透明化に取り組む業者も随分増え、また大手も取り組みを始めているということだが、こうした冠婚葬祭にもついに「サービスと対価の概念」が浸透する時代になってきたのだろう。
もう勢いだけで「豪華め」の選択をすることもないし、また「戒名」という実体の分かりにくいものに、業者が仲介をしながら「ランク別の価格」を迫ることもなくなっていくのではないだろうか。
納得がいくのは、永大供養を任されたお寺が、その「供養のための労賃+α」を墓主と取り決めて、墓のお世話を委託する、というような部分だけではないだろうか。
何世紀も前の、無縁仏が大量発生する社会の受け皿、としての寺社仏閣と今では事情がずい分変わってきている。
時代に合わせて、サービスも、そして価格も形を変えていく。
透明化とはそういう現象のことなのではないだろうか。
葬儀一式プランのワナ、悪徳業者どう見分ける
2013/9/11 7:00ニュースソース日本経済新聞 電子版
大学時代の友人と数年ぶりに飲んだ時、葬式の話を聞かされた。「この6月におやじが亡くなって喪主やったんだよ。何の準備もしていなかったから大変なドタバタ。費用も予想以上で、葬儀社にだまされた気がする。おまえも俺と同い年なんだから、万が一の時のことを考えておいた方がいいぞ」。記者は42歳、父親は70歳を超えた。友人の話はやはり気にかかる。悪徳業者にだまされた話をよく耳にするし、葬儀社の上手な選び方はあるのだろうか。調べてみよう。
■総額が見積もりの2倍に
友人のケースは以下の通りだ。
・埼玉県在住。父親が心筋梗塞で急死し実家のある九州に急行。ぼうぜんとする母親に代わり、喪主を含めて葬儀一切を取り仕切った。
・叔父が紹介してくれた地元の葬儀社に依頼。自宅は狭いのでセレモニーホールを利用。葬儀社の見積もりは120万円だったが、実際の支払額は180万円になった。
・これとは別に菩提寺へのお布施(戒名の費用を含む)が50万円かかると通夜の時に分かり、びっくりした。
・葬儀社の人に「運転手などには心付けをしたほうがいい」と言われ、その場で現金で払った。はっきりと覚えていないが10万円ぐらいだったと思う。
総額240万円。これは高いのか、安いのか。友人いわく「見積もりの120万円では収まらないとは思っていたが2倍は予想外。ただ葬儀社の人たちは親身になってくれたし手際もよかったから不満はないんだが。俺、だまされているのかな?」
葬儀社の請求書をみせてもらった。枕飾り一式、お棺、ご遺影、祭壇設営、供物、ドライアイス、司会進行……。30近い細目が並ぶが、それぞれの金額は書かれておらず、総額の欄にプラン一式120万7500円と印字されている。その下には、立て替え・追加費用で約60万円が手書きの文字で書き込まれていた。お布施や戒名については葬儀社は関与せず、菩提寺との口頭、現金でのやり取りだったという。
やはり素人では判断がつかないので、東京・練馬区で中堅葬儀社を経営するAさんに聞いてみた。友人の請求書のコピーに目を落として一言。「式場代、火葬料、車代はプランに含まれていますね。見積もりとの差額は飲食代でしょう。もしかしたら返礼品の追加費用が発生してるのかも」。記者の頭の中がこんがらがる。プラン一式というのだから、すべて入っての見積金額なのではないのか。
葬儀社と寺院関係の費用は基本的には別と考えた方がよい
「みなさん誤解されるんですよね。葬儀費用イコール葬儀プランの料金ではないのです」。Aさんによる1時間半の説明で分かったのは、葬儀費用は大きく3つのパーツから成り立つということ。第一が祭壇や遺影の用意、ご遺体のふき清めなど通夜と葬式の運営費用。第二がお布施、読経、戒名など寺院関連の費用。第三が飲食接待費。支払先で分けて考えると理解しやすい。単純な計算式にすると、葬儀費用=葬儀社への支払い+寺院への支払い+飲食店への支払い……なのだ。
そして見積額と請求額がかけ離れるといった不透明さの原因は、「プラン一式」のカバー範囲が、葬儀社によってバラバラな点にあった。寺院や飲食店への支払いを葬儀社が立て替えてプラン一式に組み込むケースもあれば、別建てにするケース、式場使用料や火葬代をプランに含めないケースなど、実に様々だ。
■会葬者数の読み違えで追加料金
友人の場合は、通夜から火葬まで一式のプラン。寺院費用は別、料理は一定人数分だけプランに含めておき追加注文分は別途請求するといったものだった。Aさんの分析では、菩提寺へのお布施50万円は「読経の回数や戒名の格にもよるが、ちょっと高いかなという印象」。一方、葬儀社の見積額と請求額の差の60万円は、会葬者の人数の読み違いが主な原因で、金額は妥当だという。実は会葬者を100人程度とみていたのだが、故人の交友関係は予想以上に広く、最終的には300人近くになった。「葬儀社は誘導係の人数を増やさなければならなかったでしょうし、料理の追加注文やお礼状の刷り増しなどのコストも発生したはずです」(Aさん)
これに対し、業界事情に詳しい「葬儀を考えるNPO東京」(東京・千代田)の高橋進代表理事は「見積額と請求額に差が出ないようにするのが葬儀社の務めだ」と異議を唱える。会葬者の予想人数をはじき出すには、年賀状の枚数を調べる、勤務していた会社の人事部から情報を得るなどのノウハウがあるという。「こうした基本的な作業を怠ったか、料金を安くみせるためにわざと読み間違えたのでないか。少なくとも変動しそうな費用については事前に説明すべきだ」と手厳しい。
東京・墨田区で中堅葬儀社を経営するBさんは「もともとのプランの金額が少し高い気がする」との分析。見積もりの段階でプラン一式の総計ではなく細目ごとに金額を明らかにしてもらうことが重要とした上で、優良業者を見分けるポイントをいくつか教えてくれた。
1つ目は火葬の料金。「東京都内なら火葬場は大田区にある臨海斎場か東京博善が運営する6斎場、江戸川区にある都営の瑞江葬儀所などを利用するのが一般的で、いずれもホームページに料金表を掲げている。地方でも利用する火葬場に電話1本かければ料金は分かる」。これとかけ離れたサービス料を求める葬儀社には注意が必要だという。
2つ目は棺。「桐製で6万〜10万円で用意できるが、一般の人は相場を知らないから『40万円が一般的です』と言われたら信じてしまうし、材質を偽る業者も多い」。良心的な業者なら見積もりの際にサンプルを持ってきて触らせてくれるとのことだ。
葬儀社の見積もり ココをチェック!火葬料たいてい料金表がある。利用する斎場に電話して確認棺サンプルを触って材質を確かめるドライアイス日数×単価が良心的。重量×単価の見積もりは要注意式場葬儀社とは別運営の施設を利用する場合、直接電話して利用料を確認遺影ホテルの写真館などの料金表と比較してみる飲食接待費普段利用する料理店や仕出屋に聞いてみる霊きゅう車一般貨物自動車運送事業なので、基本料金+走行距離で算出する
3つ目はご遺体を冷やしておくためのドライアイス。体の一部が凍り付くといった温度ムラは火葬場でのトラブルにつながるため、適切な量を棺の適切な場所に置くことが求められる。1日1万円前後が相場だが、処置費用と考えた方がよく「通常の倍の量を提供します」「1日3回はお取り換えします」といったドライアイスそのもののお得感を強調する業者は避けたほうがよいという。
■右肩上がりのトラブル相談
葬儀費用の基礎をようやくつかめてきたが、親族を失って気が動転している時にこんな複雑な仕組みを説明されても理解できないという思いを強くした。高齢化に伴う死者増加を考えるとトラブル件数は増加しているのではないか。
国民生活センターに聞くと「確かに増加傾向にありますね」(相談情報部の伊藤汐里さん)。消費者から同センターに寄せられる葬儀サービス関連の相談件数は2012年度は702件で、この10年間で4.5倍になったという。「我々に電話をかけてくるのは全体の1割といわれていますから、実際のトラブル数は1桁は多いのではないでしょうか」
約1380の葬儀社で組織する全日本葬祭業協同組合連合会(全葬連、東京・港)の松本勇輝専務理事は「我々もこのままでいいとは思っていません」と話す。同会は2011年に事前相談員という資格制度を作った。葬儀を知り尽くし接客スキルも高い人材しか合格できない資格で、消費者と真っ正面から向き合うプロ中のプロを業界として育成しようという試みだ。その数は現在600人で、できるだけ早く1000人台に増やしたいという。「名前の通り葬儀に関するどんなことでも『事前』にご相談ください。プロが無料で答えます、という体制を整えたい」(松本専務理事)
従業員が10人前後の中小葬儀社が多い中で、大企業が市場参入し不透明な料金体系に風穴を明ける動きも出てきている。流通大手のイオングループは09年に葬儀サービスを開始。コールセンターへの問い合わせ相談件数は12年は約3万件で、今年は1.6倍になるペースで増えているという。「明瞭で納得いく料金、親身な対応が重要と考えている。イオンの看板を前面に出す以上、トラブルからは絶対に逃げない」(広原章隆イオンライフ事業部長)。東証2部上場のティアも分かりやすい料金体系を売り物に業績を伸ばしている。
■ネットだけで実体のない業者も
こうした透明化の動きがある一方で、気になる話も聞いた。10万〜50万円の格安料金を売りにインターネット上だけで営業する葬儀ブローカーが急増しているというのだ。先ほど登場したAさんの話。「ホームページには全国どこでも安心価格で葬儀一切を執り行いますと書いてある。電話をすると『コールバックしますのでお待ち下さい』と言われる。それからこの業者は長野県の利用者なら長野県の葬儀社に『客をそっちに回すぞ』と電話して、紹介手数料を取るんだ。利用者にコールバックするのは紹介を受けた葬儀社。ホームページで掲げる格安プランが適用されるかどうかも紹介先の葬儀社次第だ」
日本消費者協会の佐伯美智子専務理事も「ネットで『十数万円ポッキリ』といった格安料金をうたう業者には注意が必要」と話す。現実的に考えて10万円台の費用でできるのは、遺体の移送と火葬だけ。その他はすべて追加料金として請求される可能性が高いという。「葬儀で一番大切なのは『気持ち』です。担当者の方とは見積もりの段階から直接会って話をして、そこで誠実な対応する葬儀社を選ぶべきです」
ネットで格安をうたっている数社に電話をかけてみた。取材意図を伝えると「対応ができるものがいません」「利用者でもない方とはお話しできません」との反応。話の途中で、いきなりガチャリと切られたケースもあった。引き続き調査を継続する予定だ。
(石塚史人)