それにしても、通販世界の覇者になろうというアマゾンが、倉庫やサーバーなど巨大なインフラを整える一方、データーセンタでも爆走していたとは驚きである。
限りなく投資を断行し、「行き倒れになるのではないか」と常々噂されてきた同社だが、道はいよいよ開けてきたようである。
継続の力、とは常に結果から導かれる。
行くか戻るか。
難しいものである。
それはともかく。
アマゾンのサービスのうたい文句が
コスト削減、スケーラビリティ(拡張性)、グローバル対応など、昔の「自前で持つコンピュータ」のメリットそのままがクラウドで実現していることが、いよいよ「クラウドそのもの」のインフラ化が本格化していることを示している。
電話のキャリア事業者もそうだが、いわゆる「ネットワークインフラ」というのは世界レベルでも「数社の提供」で、限りなく薄く広いコスト構造を持つことになっていきそうである。
ということは、今の上下水道とか公共物と同じことである。
ただしリアルの発電所とか水道局と違い、ネットは各国とか、地域ごとに「何かのインフラ」は必要ない。
インターネットという技術の普及を最初から見ていたつもりだが、それが"リアルインフラと同様の形態をとり、さらに「世界的に」集積が進む"ような存在になるとは思わなかった。
前例がどこかにあり、同様のことが「今目の前で新たに」起こっているのに、将来を予測することは難しいものである。
反省も踏まえ、「ではこれからはどうなるか」を考えて行きたいと思う。
アマゾンもう1つの巨人 クラウドが通販を超える日
2013/12/18 7:00ニュースソース日本経済新聞 電子版
米アマゾン・ドット・コムがクラウドコンピューティング事業で快走している。得意とする中小・ベンチャー企業向けに加え、大企業や官公庁からも相次いで受注に成功。同分野で独走状態を築きつつあり、ジェフ・ベゾス最高経営責任者(CEO)も「長期的にインターネット通販を上回る可能性がある」と自信を深める。ネット通販で圧倒的な強みを誇るアマゾンが、もう一つの“巨人”となるための課題を探った。
アマゾン・ドット・コムのジェフ・ベゾスCEO=AP
■気がつけば無視できない存在に…
米セールスフォース・ドットコム、米マイクロソフト(MS)、米IBM、米グーグルの4社の売上高を合わせても、アマゾン1社より15%も少ない――。米調査会社のシナジーリサーチグループは11月下旬、こんなリポートをまとめた。調査対象はクラウドでインフラを提供するIaaS(アイアース)とプラットフォームのPaaS(パース)だ。
同社によるとアマゾンがアマゾンウェブサービス(AWS)の名称で提供するクラウドサービスの売上高は7〜9月期に前年同期比55%増え、7億ドル(約720億円)を突破。アマゾンは情報開示にどちらかといえば消極的なことで知られており、クラウド事業の実績、予想ともに非公開だが、2013年12月期は35億〜40億ドルに達するとの見方が有力だ。
AWSの勢いを示す“現場”が米ラスベガスにあった。
AWSが11月中旬に開いた利用企業・開発者向け会議「re:Invent」には初回の昨年より5割多い9000人が参加。IBMが「クラウド事業では当社の方が上」と訴える広告を大規模に展開するなど、アマゾンのAWSが既存のIT(情報技術)業界にとって無視できない存在になっていることを印象づけた。
■クラウド活用に6つの利点
利用企業・開発者向け会議で基調講演する米アマゾンのアンディ・ジャシー上級副社長(11月、米ラスベガス)
利用者増→利用拡大→機器の需要拡大→購買力の向上→コスト低下→値下げという「勝利の方程式」を説明
会議の初日、AWSを率いるアマゾンのアンディ・ジャシー上級副社長はクラウドを使う「6つの利点」を強調した。(1)IT関連費用の変動費化(2)コスト低減(3)必要なコンピューター能力の事前推定が不要(4)柔軟性やスピードの向上によるイノベーション(技術革新)の促進(5)IT関連社員の戦略部門へのシフト(6)世界展開が容易――というのがその内容だ。
AWSなどのパブリック(共同利用)型クラウドを使うとIT機器の購入や運用が不要になり、コストを下げられるというのはもはや常識になりつつある。ジャシー副社長は「サービスを安く提供すれば利用企業が増え、規模の経済により機器の購入費用が下がる。そすうるとさらに値下げが可能になり、顧客が増える」と自社の“勝利の方程式”も披露した。
AWSの普及を促すため、アマゾンは積極的な値下げを提案している。AWSには必要に応じてサービスを買う「オンデマンド」や一定費用を前払いして予約する代わりに単位時間あたりの料金が安くなる「リザーブ」などのプランがある。オンデマンドを多用している企業には「この使い方ならリザーブの方がお得です」と勧めるといった具合だ。
アマゾンのクラウドサービスはベンチャー企業の「定番」になっている
アマゾンによるとこうした提案は年間100万回。このうち70万回に反応があり、顧客は1億4000万ドルを節約したという。「顧客に節約を勧めて回る企業はそう多くはないはずだ」とジャシー上級副社長。アマゾン主催の会議のためどうしても宣伝の色彩が濃くなりがちだが、この発言にはうなづかずにはいられなかった。
■大企業をターゲットに攻勢
アマゾンが攻めの姿勢を強めているのが「エンタープライズ」の分野だ。直訳すれば「企業」になるが、同社はベンチャーを「スタートアップ」と称することが多いため、これに対して「大企業」を意味する言葉だと理解した方が分かりやすい。官公庁や教育機関を含め、クラウドの導入に慎重だった顧客を開拓しようとしている。
ITインフラの75%をアマゾンのクラウドサービスへ移行する計画を表明する米ダウ・ジョーンズのスティーブン・オルベン氏
AWSの顧客規模については「世界190カ国に数十万社」と昨年の説明を踏襲したが、政府機関は600(昨年は300)、教育機関は2400(同1500)と1年間の成果を披露。昨年の会議で発表したペタ(1000兆)バイト級の大規模データの分析に対応したデータウエアハウスサービスも大企業から評価が高く、「最速で成長している」と説明した。
顧客企業の代表格として紹介したのは、ウォール・ストリート・ジャーナルなどを傘下に持つ米ダウ・ジョーンズ。同社でグローバル最高技術責任者(CTO)を務めるスティーブン・オルベン氏は、今後3年で同社のITインフラの75%をAWSに移行し、自社のデータセンター(DC)を40カ所から6カ所に減らす計画を明らかにした。1億ドルのコスト低減を見込んでいるという。
オルベン氏は「当社のコンテンツは世界最高だが、情報基盤はそうではなかった」と発言。「多くのDCを抱えており、インフラの管理に時間や費用がかかっていたことが原因のひとつ」と説明した。AWSの活用で浮いた費用や人材をアプリ(応用ソフト)開発などに充て、サービスの競争力を高める方針だ。
AWSは「DCなどの運用を当社に任せれば、企業はIT関連の経営資源を他社との違いを出すために活用でき、ベンチャーのように機敏になる」と繰り返しており、ダウ・ジョーンズのオルベン氏はそれを側面支援した格好になる。
情報の管理に敏感なメディア企業がクラウドを活用することで、中小・ベンチャーに加えて、クラウド利用に慎重だった層も同技術を取り込みつつある現状が垣間見られた。
■「慎重派」も顧客に
勢いを増すアマゾンだが、もちろん課題もある。競合サービスの増加だ。IBMは今夏、AWSと同様のサービスを提供する米ソフトレイヤーを買収。グーグルも12月初め、AWSの対抗サービスとなる「グーグルコンピュートエンジン」を一般公開し、値下げにも踏み切った。MSも「ウィンドウズ・アジュール」の値下げ攻勢を強めている。
ジャシー上級副社長はIBMの広告を示し、「守旧派がパニックを起こしている」とからかった
会議でジャシー上級副社長はグーグルやIBMなど競合企業を度々「守旧派」と呼んだ。「競合のプレッシャーがなくても(AWSは)06年のサービス開始から現在まで38回も値下げした」と胸を張るが、このうち15回は競争の激しくなったこの1年に実施。「ライバルではなく顧客のことを考える」はアマゾンの社訓のようなものだが、ある程度は競争環境を意識せざるを得ないのも事実だ。
この点をジャシー氏に直接聞くと、「競合の増加は想定内」との答えが返ってきた。「クラウドが顧客に提供する価値は大きく、ライバルが参入することは分かっていた」。それでも「当社には7年半の経験があり、さらに利幅の小さいビジネスを大規模に展開することにたけている」というのが自信の源だ。
■通販を逆転するのは2045年?
アマゾンのクラウド事業がネット通販を超える日は来るのか(米カリフォルニア州の発送センター=AP
ベゾスCEOはクラウド事業の売上高が通販を上回る可能性があると話すが、「長期」とはどの程度の期間かを尋ねると「数十年単位」という。過去5年間の通販事業とクラウドを含む「その他事業」の平均増収率から単純計算すると、逆転の“Xデー”は2045年。ベゾス氏は宇宙開発や1万年時計などにも投資しており、その感覚からすると、これくらいの時間軸でも不思議ではない。
コンピューターの世界でひとつの技術や企業が数十年単位の長期にわたって覇権を握ってきた歴史はない。メーンフレームコンピューターからパソコンへ。そしてモバイル機器やクラウドの時代に――。変化のスピードは増しており、技術や企業の旬がどんどん短くなっているのはだれもが認めざるを得ない。
日々登場する先進技術に取り残された企業はいずれも、顧客が発する変化の兆候を見落とし、支持を失っていった。ジェシー上級副社長にクラウド事業のリスクを尋ねると、「顧客ニーズに応え続けること。そうしないと見捨てられる」と打ち明けた。IT大手に伍(ご)してAWSがシナリオ通りの成長を遂げられるかどうかは、その点にかかっている。
(シリコンバレー=奥平和行)