藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

Googleの立ち位置。

yomiuri onlineより。
検索エンジンでワードを入力したらでてくる「促し言葉」(オートコンプリート)。
○○株式会社、と入れたところで「○○ 評判」などと出てくるとついそちらをクリックしたりしてしまう。

天下のF1会長のセックススキャンダルは誠に痛ましい事件だが、
Google的には「これは(世の検索の実績に基づく)コンピュータののアルゴリズム」ということでしかないようだが、当事者にとってはそうもいかない。

逆には意図的に「そうした検索実績を世の中に作り出す」ということも出来るわけで、そうすればネット上の風評はかなり恣意的に操ることができてしまう。
検索の促しとてもは便利な機能だが、どこまでの評判を自動で反映させていくのか、は判断が難しいところである。

それにしても、裁判を起こした国(仏、独)や弁護士の腕もよかったのだろう、Googleが特別なフィルタを用意して表示の制限をしたというから、これからのネットにははそうした法的戦略も必要になるのだろう。

近いうちに「忘れられる権利」も同様に保証される日がくるのかもしれない。
でもそれでは「報道の自由・知る権利」と折り合いをつけねばならないだろう。
リアル世界でもなかなか決着しない問題が、早くもネットで広がってきている。
ネットのほうがルールの確立は早いのではないだろうか。

(21)過去を消してもらうためグーグルに挑む
インターネット上で拡散した情報を「消す」ことは困難だ。発信者が情報を削除しても、企業のサーバーには残る。

 さらに、公的空間に放たれた情報は世界中のネット利用者が、あるいはほかのサイトが再掲載、再発信、あるいはダウンロードしているかもしれない。ネット空間のどこかに残っていれば、検索エンジンが「拾って」きて、検索画面に表示することもあるだろう。

 個人が自分についての不正確な、あるいは不当な情報をネット上から削除するのは不可能なのだろうか?

 その答えを自分なりに出そうとしているのが、自動車レースの最高峰フォーミュラ1などを主催する国際自動車連盟(FIA、本部パリ)の前会長マックス・モズレー氏だ。英国人の同氏は、2009年までFIAの会長職を16年間務めた。

 9月上旬、モズレー氏は検索大手グーグルに対し、過去の性的スキャンダルが検索結果に出ないことを求める訴えを起こした。

 スキャンダルの発生は5年前にさかのぼる。2008年3月、英日曜紙「ニューズ・オブ・ザ・ワールド」は、モズレー氏と売春婦数人とが「狂ったナチスと売春婦」を演じながら、SM乱交パーティーを行っていたと報道した。

 ロンドンの高級住宅地チェルシーのアパートで撮影された動画には、モズレー氏が鞭(むち)で打たれたり、売春婦らとドイツ語で会話をする様子が映し出されていた。動画の一部はウェブサイト上で公開された。

 リアルな映像が撮影できたのは、新聞紙側が売春婦の一人にカメラを持たせて撮影させたからだった。モズレー氏は新聞紙が仕掛けをしているとは知らなかった。

 社会的に重要な地位にある人物の性的スキャンダルと、「ナチスを演じた」可能性――この二つの要素によって、報道は特に大きな注目を浴びた。

 英国では、第2次大戦中のホロコーストの記憶が強く残る。いかなる文脈でもナチスを賞賛するような言動は社会的なタブーだ。しかも、モズレー氏の父は英ファシスト連合の創始者オズワルド・モズレー氏であった。

「プライバシー侵害」で勝訴


英日曜大衆紙ニューズ・オブ・ザ・ワールドの最終号(2011年7月10日付)の表紙
 報道後、モズレー氏は日曜紙をプライバシー侵害で訴えた。乱交プレーやドイツ語を使ったことは認めたものの、刑務所ごっこを演じていただけでナチスをテーマにしたわけではない、と主張した。

 報道から4か後の7月末、英裁判所は「ナチス的な要素はなかった」とし、ワールド紙に慰謝料6万ポンドの支払いを命じる判決を下した。「乱交パーティーの詳細を大々的に出版物上で報じることには、何の公益性も正当性も見いだせない」(高等法院の判決)と。

 2011年7月、ワールド紙は廃刊となった。モズレー氏についての報道が引き金を引いたわけではない。多くの著名人の携帯電話の留守電メッセージを「盗聴」していた(本人の了解なしに聞いていた)ことが明るみに出たことがきっかけだった。

 プライバシー侵害裁判では勝訴したものの、ネットで検索すれば乱交プレーの動画や画像はまだ出てくる。

 そこで、モズレー氏は英、ドイツ、フランスの500近くのウェブサイトに対し、司法手段を通じて、乱交パーティーの情報を削除させた。

 しかし、それでもまだ十分ではない――そう考えたモズレー氏は今月4日、グーグルに対し、乱交パーティーの情報が検索結果に出ないように「特別のフィルター」を設置することを求めて、フランスで提訴した。

 裁判は「英国よりも個人のプライバシーを法律で守ってくれる」と氏が考えるフランスとドイツで起こすことにしたという。ドイツでも近く訴訟を起こす予定で、フランスでの訴訟の結果は、10月末に出る見込みだ。

 グーグル側は過去にモズレー氏の依頼を受け入れて複数の違法サイトを検索対象から外しており、今後も個別の依頼には応じるが、「永久的なフィルターをもうける」ことは「自動検閲」と見なすため、「受け入れられない」としている。

「オートコンプリート」機能が問題に

 ネット上に不快な、あるいは虚偽の情報が出回って困る――そんな経験を持つ人はモズレー氏だけではない。

 検索エンジンには、検索語を入力すると自動的に関連するいくつかの言葉が瞬時に提示される「オートコンプリート」(自動補完)機能があるが、ドイツのベッティーナ・ブルフ元大統領夫人は、グーグルで自分の名前を入力すると、「娼婦」「エスコート」などの言葉が同時に表示されることに悩まされてきた。何度も否定してきたにもかかわらず、「高級娼婦として働いていた」とする噂(うわさ)が消えなかった。

 昨年9月、ブルフ氏はオートコンプリート機能による名誉毀損(きそん)でグーグルを訴えた。

 検索エンジンが検索結果にどれほどの責任を持つべきかについて、欧州の司法当局の判断は一様ではない。

 今年5月、ドイツの最高裁はグーグルに対し、名誉毀損に相当するオートコンプリート機能による表示を削除する命令を下した。ネットで医薬品などを販売する事業を営む原告によると、自分の名前をグーグルで検索すると、米国の新宗教の名前や「ペテン師」といった言葉が自動的に並び、関連サイトが推奨された。最高裁はこれが原告の権利を侵害したと結論付けた。

 グーグル側は判定に「失望した」と述べた。オートコンプリート機能による表示は「過去の検索結果に基づき、コンピューターのアルゴリズム(数理計算)が予測している」ため、「グーグルは責任を問われない」という。

 オートコンプリート機能以外の、通常の検索結果についてはどうか?

 6月、欧州連合(EU)の最高裁にあたる司法裁判所のアドバイザー役、ニロ・ヤスキネン法務官は、個人情報の削除をグーグルに求めているスペイン人男性による訴訟に言及し、「公共空間に存在する」「合法な情報の抑止を検索エンジンに求めるのは、表現の自由の干渉にあたる」と述べた。法務官は、グーグルは第三者が報道した個人情報の「管理者」とは言えず、情報を削除する責任はないとした。この見解は最高裁の判定に影響を与えると言われている。

「忘れられる権利」は導入される?


欧州連合(EU)の個人情報保護についてのページ(ウェブサイトより)
 EUは、個人にネット上の「忘れられる権利」を保障するための体制作りを進めている。この権利を規定したのが、昨年1月に発表された「EU一般データ保護規則案」だ。「人には自分が発した個人データを(第三者が)使うことへの同意を取り消す『権利がある』」(欧州委員会のビビアンヌ・レディング副委員長、改革案の冒頭)。

 この案が導入されれば、個人情報の削除がやりやすくなると言われている。しかし、どこまでが削除の対象となるべきだろうか。行き過ぎて必要な情報が発信・記録されない心配はないのだろうか。また、何が起きたかを「知る権利」を阻害する場合はないだろうか。

 ネット上の個人情報の取り扱いについて、試行錯誤が続いている。

プロフィル

小林恭子 こばやし・ぎんこ
 在英ジャーナリスト&メディア・アナリスト。「デイリー・ヨミウリ」(現「ジャパン・ニューズ」)記者・編集者を経て渡英。英国や欧州のメディア事情や、ネット時代のメディアの未来、電子書籍の可能性などについて、様々な媒体に寄稿している。著書に『英国メディア史』(中央公論新社)、『日本人が知らないウィキリークス(新書)』(共著、洋泉社)など。