藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

これからの経営方式。

平成17年の夏に会社法が改正された当時は「会社は誰のものか」という一見エスタブリッシュな話題が相当盛り上がり、経済界を賑やかしていた。
あれから7年経って日本も少し市場の運営に動きが出てきて多様な経営スタイルの企業が現れているように思う。

上場大企業のローソンから、未上場大企業のサントリーへ移るというのは、言われてみれば「市場の雑音」から解放されるという意味では非常に経営に集中しやすいというのも道理である。

物言う株主よろしく、アナリストにせよ証券会社にせよ、機関投資家にせよ、いちいち騒ぐ存在がなく、「超大株主」とだけで経営の意思決定ができるのはスピードやダイナミックさでは画期的である。
MBOを行っていったん市場とは切り離し、事業体質を強化して再び上場する、というのは経営者の能力次第ではあろうが非常に賢明な戦略だし、また視野も広い。
他の企業にとっても一つのお手本になるのではないだろうか。
そして

そういう意味では「(若いうちに)いろいろな経験をともかく積んで、新しい環境にさらに飛び出してゆく」というのは若い人にできる最高のアドバイスではないだろうか。

経営の世界でも、現場をくぐらずして真の実力はなかなか養われないものである。
進路に悩み、逡巡しているのなら「まず一歩踏み出してみてから」というのが意外に近道なのではないだろうか、などと思った。
正解を探していても、多くはずーっと見つからなかったりしますもん。

市場の圧力を失う新浪氏  編集委員 梶原誠
今年10月、ローソンの会長からサントリーホールディングスの社長に移る新浪剛史氏は、経営者として貴重な武器を失う。収益を求める株式市場からの圧力だ。

サントリーHDの次期社長に内定し記者会見する新浪剛史氏(1日、東京都港区)
画像の拡大
サントリーHDの次期社長に内定し記者会見する新浪剛史氏(1日、東京都港区)

ローソンは株式を証券取引所に上場している。これに対し、傘下に上場企業はあるものの、サントリーホールディングスは非上場企業。業績を説明するための投資家訪問も、多くの株主を集めた株主総会を開く必要もなくなる。

目先の株高を求める市場の騒々しい声を気にしていたら、長期的な経営計画など立てられないという経営者もいるだろう。しかし少なくとも新浪氏は、市場の圧力を活用してきた経営者だ。
関連記事
・2006年8月7日 日経朝刊3面「『本業』集中で成長加速」(クラビス氏インタビュー)
・2014年7月2日 日経電子版「『グローバル、スピーディーに』サントリー記者会見」

■「圧力をお願いします」
2007年6月、東京。投資家を集めた講演会が開かれた。テーマは「物言う株主」の是非。講演者はサッポロホールディングスなどに続々と敵対的買収をしかけていたスティール・パートナーズのウォーレン・リヒテンシュタイン代表ら、極端なまでの物言う株主たちだった。そこに混ざって登壇したのが新浪氏だ。

梶原誠(かじわら・まこと) 88年日本経済新聞社入社。証券部編集委員論説委員、ソウル支局、米州総局(ニューヨーク)編集委員を歴任。現在は証券部・アジア総局編集委員。興味分野は「市場に映るものすべて」。
梶原誠(かじわら・まこと) 88年日本経済新聞社入社。証券部編集委員論説委員、ソウル支局、米州総局(ニューヨーク)編集委員を歴任。現在は証券部・アジア総局編集委員。興味分野は「市場に映るものすべて」。

株主に報いることで成長を追うと同氏は強調。株主のお金でどれだけ効率的に収益を上げたかを示す自己資本利益率(ROE)を重視すると訴えた。そして演説の最後には、こう語って深々と頭を下げたのだ。「それでは圧力のほど、よろしくお願い致します」

ローソンのROEは14年2月期で16%。日本の上場企業の2倍近い水準で、経営者としての評価も高まった。産業競争力会議の民間議員として株式市場の力を活用したコーポレート・ガバナンス改革を提唱。さきに安倍晋三政権が打ち出した新成長戦略に盛り込まれたのも偶然ではない。

だからこそ、サントリーは勝手が違う。同社は非上場企業ならではの長期的な視点を活用して成長してきた。1963年に参入したビール事業も、黒字化したのは実に08年だ。上場企業だったら、投資家が業績不振を理由に撤退を要求していただろう。
だが40年以上も同事業の赤字を許したことが示すように、その風土は目先の経営規律が緩む危うさと背中合わせでもある。

■短期的な責任を明確に
「買収ファンドの父」と呼ばれるヘンリー・クラビスKKR共同CEO=AP

非上場企業の経営と言えば、欠かせない人物がいる。「買収ファンドの父」と呼ばれ、米投資会社、コールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)を1976年に創業したヘンリー・クラビス氏だ。

KKRは上場企業を買収、非上場化することで腰を据えて構造改革し、企業価値を高めて売却する投資手法を確立した。そこで本人に「長期的な視点を重視して、投資先企業の規律は失われないか」と聞いたことがある。答えはこうだった。

「我々が株主として経営陣に求める説明は、株式市場の要求より重い。部署、人、製品ごとに細かく決めた目標の途中経過を毎週話し合う」。非上場企業として長期的な視点は持つが、短期的な責任も忘れないようにして規律が緩む芽を摘むというのだ。

新浪氏も、クラビス氏に似た統治体制を取る可能性がある。今月の記者会見ではこんな発言もあった。「佐治社長だから、プレッシャーも感じながら、早く実績を出したい」。会長に専念する創業家の佐治信忠氏を株式市場に代わる「圧力の担い手」として会社を運営する考えがにじむ。

上場か非上場か。短期的視点と長期的視点のどちらを優先するのか――悩める多くの経営者にとって、転身する新浪氏の今後にはヒントがあるだろう。