最近、報道で目にしない日はないというくらいの社会保障の話題。
平均的な(65歳からの)老後生活は22年あり、そのうち自由時間は12万時間を超えるという。
一方現役時代のそれは10.1万時間程度だというから、何とも悩ましい数字である。
そしてまた、生きているということは衣食住が必要だからお金もかかる。
かくして老後は平均3000万円が必要です、云々という話になるけれどこれからの三十年くらいで本当にそんなライフスタイルになるのだろうか。
予想されるシナリオで、年金財政が破たんして一旦ゼロリセットされる、とかいうこともありそうだが、60歳定年でも一人1500万円程度は要る、という試算が多い。
都会に住んで、趣味や娯楽もほどほどに、というとそんな計算も立つのかもしれないが、本当に重要なことは「定年を迎えたら暮らし向きを自分で変えていく術」なのではないかと思う。
住居費などは予め低く抑えるに越したことはないが、なんとなくお金がなければ日々が過ごせないということなら、それまでの準備が足りなかったということじゃないかしらん。
趣味とかボランティアとか研究とか人付き合いとか。
まだ三十代なのに「定年までに3000万」とあれこれ気をめぐらすのもいいが、
年金の中で賄うことを考えて、あれこれとライフスタイルを準備をしている方が先決ではないだろうか。
"貯金"と"生活のソフトウェア"とでは後者の方がよほど重要だろう。
定年の時にポンと3000万円だけがあっても楽しく過ごせるとは限らないと思うのだ。
長生きの自由時間は膨大 楽しむにはお金がいる 若いうちに考えておきたい「老い」の現実(2)
2015/9/8 6:30
今月は「老い」を考えています。特に若いうちから「老い」の現実を考えてみようというのがテーマです。
今週は、仕事もしなくていい20年という「ありあまる自由な時間」は、お金の問題として最後はのしかかってくる、という話をしてみたいと思います。
セカンドライフの自由時間を有意義に過ごすためにはお金が必要
■長生きすると現役時代よりもずっと多い自由な時間がある
20歳代から30歳代の会社員は、学生であったころと比べて、自由な時間が減ってしまい、嘆いている人が多いと思います。
まず、一般的な会社であれば月曜日から金曜日までは勤務日です。週5日はほとんど自由時間がありません。会社に9時出社する前に自由時間はほとんどないでしょうし、夕方6〜7時に会社を出ても、寝るまでのあいだに使える自由時間は数時間程度です。
せめて通勤の往復時間に音楽を聴いたり、ゲームをしたり、スマホでコミックを読んだりしても、プラス数時間とれるかどうか、というところでしょう。
週末もちょっと疲れて寝てしまえば半日消えてしまいますし、一人暮らしなら家事をこなしているうちにまた半日なくなってしまいます。
仮に22歳から60歳までの自由時間を概算してみましょう。現役時代として働く38年間について、平日は毎日自由時間を3時間、週末と祝日など年間120日は毎日15時間の自由時間があるとすると、現役時代の自由時間は合計9万6330時間ということになります。同じペースで65歳までを現役時代と考えた場合は、10万9005時間の自由時間です。
実際には家事があったり子育てに回す時間があったりするので、自由時間はもっと減ってしまいますが、いずれにせよ、9万6000〜10万9000時間くらいの自由時間をやりくりしながらプライベートをデザインしていくわけです。
■老後の自由時間は実に12万時間以上
一方で、セカンドライフの自由時間を概算してみるとどうでしょうか。定年退職後は、「毎日が日曜日」ですから、年間365日、自由時間は毎日15時間と考えて試算してみます。現役時代の週末の自由時間が一年間毎日あるという前提です。
セカンドライフの長さは65歳からの平均余命をみれば男性19年、女性24年が標準的な長さですから、間をとって22年で試算してみます。そうすると、セカンドライフの自由時間は12万450時間ということになりました。
試算の前提にもよりますが、セカンドライフの自由時間の大きいことが分かります。現役時代の43年(22歳から65歳まで)より、65歳からの22年のほうが年数では半分であっても、自由時間は多いというわけです。
セカンドライフを長生きするほど、自由時間もどんどん増えていきます。1年ごと約5500時間も自由時間が増えていきますので、もしかすると15万時間以上の自由時間があるセカンドライフになるかもしれません。
でも、時間がどんなにたくさんあっても、その自由な時間をエンジョイするお金がなければ、何もせずにじっとするしかありません。それではバラ色の老後とはいえません。自由時間がたくさん、ということは趣味に使うお金もたくさんいるのです。
総務省家計調査年報(2015年平均)によると、年金生活をしている夫婦(高齢夫婦無職世帯)における、消費支出のうち「交際費」「教養・娯楽費」はそれぞれ月3万1612円、2万6055円だそうです。
これはつまり、月5〜6万円くらいが老後の自由な時間をエンジョイするために必要な平均的予算ということです(実際には移動費としての交通費も考えればプラス1万円くらい欲しいくらいです)。
仮に月5〜6万円必要ということは年間60〜72万円欲しいということになり、セカンドライフを22年と仮定すれば1320〜1584万円が自由な時間を有効活用するために欲しい予算、ということになるわけです。
一般的な会社では退職金の全額がこれに消えてしまうようなイメージです。退職金は自宅のリフォームや医療費、介護費用にも残しておく必要がありますから、退職金のみでは老後のゆとりに不足すると考える必要があります。
ちなみにこの金額水準は、公的年金収入だけではやりくりできない老後のお金の金額にも近い水準です。つまり、自助努力で備えたい必要な金額は、自由時間を楽しく過ごすためにも必要なお金であるわけです。
■現役時代も趣味を楽しみ、セカンドライフも楽しむために「早く備え始める」
「老い」といっても、現在の年金生活者は元気です。筆者の周囲には70歳を過ぎても元気に暮らしている人ばかりで、何らかの持病はありつつも医者のアドバイスを受け、楽しくセカンドライフを過ごしている人ばかりです。
私たちも、高確率でそうなる未来が待っているわけですが、いざセカンドライフに入っても、カネがないので何も楽しいことをチャレンジできない、というのはさみしい話です。
私は「趣味人(オタク)は、今の趣味のためだけに収入を使ってはいけない。死ぬまで趣味人として生きていたいなら、老後の趣味のためにお金をためておくべきだ。」とよくアドバイスしますが、普通にセカンドライフの趣味を楽しみたい人はもちろん、お金がかかる趣味をもつ人はもっとたくさん、「老後の趣味のための貯金」を考えていく必要があるわけです。
一生趣味を続けていくために、目の前の趣味に1万円使ったら、自分の将来の趣味のために1万円ためるくらいの取り組みができれば、セカンドライフはお金の心配をせずに、趣味を堪能できることでしょう(しかし、実行はなかなか難しいでしょうが)。
山崎俊輔(やまさき・しゅんすけ) 1972年生まれ。中央大学法学部法律学科卒。AFP、1級DCプランナー、消費生活アドバイザー。企業年金研究所、FP総研を経て独立。商工会議所年金教育センター主任研究員、企業年金連合会調査役DC担当など歴任。退職金・企業年金制度と投資教育が専門。論文「個人の老後資産形成を実現可能とするための、退職給付制度の視点からの検討と提言」にて、第5回FP学会賞優秀論文賞を受賞。近著に『20代から読んでおきたい お金のトリセツ!』(日本経済新聞出版社)。twitterでも2年以上にわたり毎日「FPお金の知恵」を配信するなど、若い世代のためのマネープランに関する啓発にも取り組んでいる(@yam_syun)。ホームページはhttp://financialwisdom.jp
著者:山崎俊輔
出版:日本経済新聞出版社
価格:1,000円(税込み)