藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

税金の百年問題。

一律給付廃止、資産課税、敬老原則。
これから高齢化が進む日本はひたすら『不安心理』に包まれている。
実はそれほどでもないのに。
株式相場がそう言われるように「心理効果」というのは恐ろしい。

現実がどうあれ「イメージが事実を支配」することがある。

バーチャルではない怖い話だ。

権利を有する自分たち年寄りが「もらうもんはもらう」と言ってしまえば、先はない。
若者は黙って俯(うつむ)いてしまうだろう。

自分は最近気がついたのだが、月に十万円程度の生活費があれば「さほど惨めにならずに」一月を過ごせる。
住み家はできれば確保しておきたいところだけれど。
そんなに「老後の三千万」とか「介護や入院費でさらに何千万」とかいうのはちょっと囃しすぎではないだろうか。

税金を富裕層から取る、というから富裕層は逃げる。
法人も海外に行く。
けれどある資産家は私財のほとんどを寄付したりもする。

全ては安心感の問題だろうか。
だとすれば「安心させてくれるもの」を与えれば良い。

誰もが「あの世」に財産を持っていけるとは思っていない。

「不安」が際限なく膨れ上がることでの悪循環を"政治"が断ち切らねばならないのではないだろうか。

政治家は訴求するポイントがズレていると思えて仕方ないのだ。

(2016参院選)孫のクレジットカード 出口治明さん、島澤諭さん、水無田気流さん

2016年7月9日05時00分

 増税は延期になって良かったけれど、年金や手当はちゃんと貰(もら)いたいというのが私たちの実感だろう。その内実は「孫のクレジットカード」頼みであることを我々は忘れていないだろうか。

 ■お年寄り優先見直すべき 出口治明さん(ライフネット生命保険会長)

 戦後71年がたち、この状態の日本を次世代に渡していくのが、ものすごく不安です。

 僕自身、孫が2人います。孫の顔を見るたびに、少なくともある程度まで税金を上げないと、この子たちにあわす顔がないな、と思います。

 このままでは僕の孫世代が成人する頃には、本来、彼らが使うはずの自分たちの税金の3〜4割が、祖父母世代に勝手に使いこまれていたことになりかねないからです。

 ただ、人間はいい加減で、あほな動物です。増税と聞けば、みな「いやだ」という。

 4年前、自民・公明と当時の民主(現・民進)の3党が「社会保障と税の一体改革」で合意したのは税を政争の具にしない知恵でした。結局、今回の参院選を前に3党合意は再び棚上げされ、消費増税先送りに流れてしまった。

 でもこれは、歴史の審判に耐え得るんだろうか。そう思わざるをえません。そのことはドイツと比較するとよく分かります。

 ドイツと日本は戦後、ともに敗戦国として出発しました。ドイツでは、「いまの国民が負担している以上の給付はできない」という当たり前の原則を市民が理解し、いまや財政黒字を出している。

 かたや日本は、税と社会保障という「負担と給付」のバランスが明らかに崩れ、国の借金総額が国内総生産(GDP)の2倍を超えています。将来世代にしわ寄せがいくことが明らかなのに、孫名義のクレジットカードで不足を払っているようなものです。

 どうすべきか。社会保障の給付では、お年寄り最優先の「敬老原則」を見直すべきでしょう。現在の年金・医療保険制度の原型ができた1960年代初頭、お年寄り1人をサッカーチーム(11人)で支えていました。いまは3人でかつぐ騎馬戦も組めない、2・3人での支援です。

 もう年齢で区分けした一律給付は時代にそぐわない。むしろ、本当に困っている人、例えばひとり親世帯への支援などに切り替えたほうが、よほど社会のためになります。

 負担の面でも、お年寄りも加わった互いの支えあいが必要です。それには消費税しかないと私は思います。所得税増税は働く現役世代に負担が集中します。高齢化が一足早く始まった欧州は、それがよくわかっているから高い付加価値税をとっているのです。

 まずは選挙にいき、いい政府を選ぶことです。欧州ではこう教えるそうです。「メディアの事前予想をみて、予想が自分の考えと違うなら、投票所に行き、別の候補に入れなさい」と。棄権や白票は政治不信の意思表示ではない。有力候補に票を入れるのと同じだという教えです。日本でもこの常識をもっと広げないといけません。政府は僕たち市民が作るものですから。

 (聞き手・田中郁也)

 でぐちはるあき 48年生まれ。日本生命を退職後、08年にライフネット生命保険開業。著書に「日本の未来を考えよう」など。

 ■若者は投票しないと損 島澤諭さん(中部圏社会経済研究所 経済分析・応用チームリーダー)

 先日、消費税率の10%への引き上げが再延期され、多くの人はほっとしました。引き上げ予定幅だった2%分、年5・6兆円の税金を払う必要がなくなりましたが、年金などの給付は変わりません。

 財源不足を埋めるのは実質的に借金です。借金を支払うのは、まだ生まれてきていない子や孫たち将来世代です。

 引き上げ再延期で、生まれていない子や孫の負担が1人当たり56万円増えました。

 いまの日本政府は、年間ざっと96兆円のお金を使っています。私たちが税金として払っているのは55兆円。37兆円は、借金(国債)で賄っています。国債の多くは60年かけて分割払いをしていくので、30年、40年後に生まれる孫やひ孫に払ってもらう形です。

 「孫の名義のクレジットカード」を次々と作り、使いまくっている状態です。将来にツケを回し、未来を奪うオレオレならぬ「ワシワシ詐欺」です。世代会計という推計を使うと、今後生まれてくる子は1人当たり8800万円を返済しなければなりません。この状態を一部の経済学者は「財政的幼児虐待」と呼び、日本は先進国で最悪です。

 いま生きている世代の中でも大きな格差があります。

 70歳の人は3320万円、20歳の人は4110万円。「一生の間に国や自治体に払うお金(税金や保険料)」から「一生で国や自治体からもらえるお金(社会保障の受給額)」を差し引いた数字、要は国や自治体への「払い損」の額です。差は800万円だけと思うかも知れませんが、元手となる生涯所得は70歳が3億6千万円、20歳は1億9千万円で約半分。「払い損」の負担感は全く違います。

 ただ、まだ生まれていない将来世代からすれば、今の年寄りも若者も負担をツケ回す同じ穴の狢(むじな)。将来世代の負担を減らすにはいま、給付を減らす必要があると思います。

 しかし、生活が苦しいお年寄りもたくさんおり、一律の給付削減は困難です。だからこそ、富裕層への給付を収入に応じて削減する方式を提案します。給付は若い世代からの仕送りなのですから、経済的に余裕がある人への仕送り額が減るのは道理です。

 もう一つの方策は、資産課税の強化です。富裕層に、一部を相続税の課税強化などの形で返還してもらうのです。

 世代ごとの投票率の動きで税負担がどう変わるのかを、国政選挙とその後の国債発行額に基づいて分析しました。20〜30代の若年世代の投票率が1%下がると、この世代の将来の税負担額が1人当たり毎年5万4千円増加。60歳以上の世代の投票率が逆に1%上がると、若年世代の税負担額が1人当たり毎年2万8千円増えていました。若者は、投票しないと損をすることを知っておくべきです。

 (聞き手・畑川剛毅)

 しまさわまなぶ 70年生まれ。経済企画庁、秋田大准教授、総合研究開発機構主任研究員などを経て、昨年から現職。

 ■増税より女性議員に期待 水無田気流さん(社会学者・詩人)

 2014年に消費税を5%から8%に上げた後の結果は惨憺(さんたん)たるものでした。増収分は「すべて社会保障の充実と安定化に充てる」はずだったのに、15年度予算の約8兆円もの税収増のうち、社会保障の充実に回されたのは1・35兆円程度でした。

 対国内総生産(GDP)比でみた家族関係支出は1%程度で、福祉先進国の3〜4%と比べて貧相なまま。政権は家族の互助を強調していますが、単身世帯の増加で「家族という含み資産」の恩恵を得られる人は減少しています。

 この構図のまま消費税が10%に引き上げられても、問題は解決しないことが予想されるため、私はさらなる消費増税には慎重です。そもそも消費税は、教育費などの支出が増える子育て世帯には相対的に負担が重い。今後どれぐらい税金を払ったら、いくらを少子化対策に使うのかということをまずは明確にしてもらうこと、それが先決です。

 将来世代への投資は大きなリターンにつながる可能性があります。子供の貧困を放置すれば、15歳の1学年だけでも経済損失は約2・9兆円となり国の財政負担は約1・1兆円増えるとの試算もあります。将来正規雇用に就きにくくなったり、公的扶助に頼る人が増えたりするためです。

 グローバル化でどの国も新自由主義的な傾向の影響を受けるなかで、一番の弱者は生まれる環境を選べない子どもです。だから、たとえ貧困世帯に生まれた子供でも、政府が支援して少なくともスタート地点を平等にすべきです。

 しかし、いま私たちが目の当たりにしているのは、アベノミクスのもとでの格差拡大です。米経済誌が調べた日本の資産家上位40人の総資産は15年、3年前の1・78倍に当たる13兆6千億円に達しました。年間の法人税収約11兆円を超えたのです。所得再分配が効いていません。租税回避は厳しく取り締まると共に、国際金融取引への課税などを通じた所得移転が必要です。

 将来世代のことを考えた政策を実現するためのアイデアですか? 私は一番直接的で、現実的な効果をもたらすのは、女性議員を増やすことだと思います。改選前の参院の女性議員の割合は15・8%です。女性議員が3割を超えると、政策の重要項目や意思決定のプロセスが変化するといわれています。女性有権者の意見がくみ上げられやすくなる効果も期待できます。

 今、この国で問われているのは社会保障制度から雇用・家庭・地域生活のあり方に至る総合的な「持続可能性」です。男性は自分の退職後のことすら考えていない人が多いですが、女性は孫の世代のことまで長期的な視座から自然に考える傾向が強い。次世代を考えた施策の打ち出しに適していると思います。

 (聞き手・北郷美由紀)

 みなしたきりう 70年生まれ。国学院大教授。著書に「『居場所』のない男、『時間』がない女」など。06年に中原中也賞