藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

未踏の領域。

yomiuri onlineより。
「ほぼ日」の上場は、これまでのベンチャーとかとどう違うのか、とか。
数あるカリスマ経営者の中でも突出している糸井さん、という人がIPOという「パブリックな手続き」に迎合してしまうのか、それとも制度そのものを「飲んで」しまうのか。
とか幾つかの点で興味津々だった。

林氏のこの記事は、そんな自分の幾つかの疑問を鋭く切って解説してくれている。

このデータを見れば、ほぼ日のユーザーがリピーター中心であることが分かります。グーグルやヤフーといった検索エンジンからの新規訪問がメインになっている昨今の他サイトと比べると、ほぼ日が読者からどれだけ愛されているかがうかがえます。

みんなが「情報のザッピングとして」ではなく糸井重里のコンテンツに触れたくてやってきている。
そういう意味では「カリスマの剛力」という感じもある。

ほぼ日のサイトは広告掲載がありません。コラムやインタビュー記事なども無料で見られます。彼らが収益の柱としているのは「物販」です。

これも「広告モデルこそ」のweb世界での真っ向からの挑戦だ。
スポンサーに頼らないサイト運営、というのも糸井さんの矜持なのかもしれない。

そして記事は最大のタブーとも言える「糸井重里の後継者は現れるか」についても触れている。

同社は、上場によって調達した資金の用途の一つとして、「人材への投資」を挙げています。
糸井重里という傑物に代わる人材、あるいは彼を超えるような人材が今後現れるのか、とても気になるところです。

ほぼ日、の会社化とIPOは、糸井さんが自身の才能に対して感じた「最善のメモリアル」の方法だったのではないだろうか。

芸術家、演奏家、作家、恐ろしいほどの才能の持ち主にも寿命はある。
その一代限りの努力と生き様こそが輝くわけだが、もし「そんなエッセンスが承継できたら」とも思う。

一代限りだからこそ輝く才能のエッセンスが、何かの形で次世代に渡せたら。

自分は糸井さんのIPOはそんな意味を含んでいる、と感じられて仕方ない。
「ほぼ日」はそんな、過去誰も成し得なかったことへの挑戦なのではないだろうか。

ほぼ整った!?株式上場「ほぼ日」次なる戦略

ウィルゲート執行役員 林圭介

 人気ウェブサイト「ほぼ日刊イトイ新聞」の運営会社「ほぼ日」(東京都港区)が16日、東京証券取引所ジャスダック市場に上場する。社長は、著名コピーライターの糸井重里氏。情報サイトを運営する企業の多くが広告収入を主な収益源にしているのに対し、「ほぼ日」は、グッズ販売を収益の柱とする異色企業だ。同社のビジネス戦略や上場後の課題について、ウェブサイトのマーティング支援などを手掛ける株式会社ウィルゲートの執行役員・林圭介氏が解説する。

「おもしろくて、食えてる」会社

  • 「『おもしろい』ということと、『食えてる』ということが両立してることが、さらに希望のある『おもしろい』につながるんだ」

 これは、ほぼ日刊イトイ新聞に掲載されたコラムの中にある、糸井重里氏の言葉です。ほぼ日は、コピーライターとして一世を風靡(ふうび)した糸井氏率いるクリエイティブ集団がユニークなコンテンツを次々と生み出し、売上高が30億円を超える優良企業。まさに「おもしろくて、食えてる」会社と言えるでしょう。

 はたして何が彼らの「ユニークさ」と「強さ」を支えているのでしょうか。

新しいビジネスモデル模索するメディア

 2016年11月、医療系キュレーションサイト(情報まとめサイト)「WELQ(ウェルク)」が、誤情報や他サイトからの無断転用などで問題視され、同サイトの運営会社であるDeNAが、自社で運営するすべてのキュレーションサイトを閉鎖する事態となったのは、まだ記憶に新しいところです。

 低コストでコンテンツを量産して、グーグルなどの検索エンジンからのアクセス数を稼ぎ、それに乗じてかさ上げされる広告収入によって利益を得る。ウェルクに限らず、そんなビジネスモデルのウェブメディアが乱立している昨今です。ウェルクの騒動を受けて、多くのメディアが新たなビジネスモデルを必死に模索していますが、そのほとんどがまだ、これといった妙策を見いだせずにいます。そんな中にあって、ほぼ日は新たに次のステージへと進むべく、株式上場の日を迎えようとしているのです。

一線を画す「今っぽくない」サイト

  • 数々のコンテンツを持つ「ほぼ日」だが、サイトのトップページではまず、糸井氏自ら執筆したデイリーエッセーが出迎える

 ほぼ日刊イトイ新聞は1998年に糸井氏が始めた情報サイトです。当初はビジネスモデルなどはあまり意識せずに運営していたようですが、熱心なファンを中心にページビュー(PV)数を増やし、現在では1日当たり150万以上のPVを稼ぐ人気サイトに成長しています。

 メディア乱立時代にあって、ほぼ日は異色なサイトです。サイトを訪れてみると分かりますが、一言で言うと、良い意味で「今っぽくない」のです。多くのメディアが同じような手法でコンテンツを作り、同じような経路でアクセス数を獲得しているため、サイトの見た目もおのずと似通ったものになっています。しかし、ほぼ日は、こうしたメディアとは一線を画しています。

 トップページでまずユーザーを出迎えるのは、糸井氏自らが書き上げるデイリーエッセーです。それに続くページ群は、ページ単位で記事のレイアウトがガラッと変わっていて、そして何より、一つ一つのコンテンツを丁寧に作り込んでいることが伝わってきます。まるで雑誌の特集を読んでいるような、見応えのあるコンテンツの数々が、多くのリピーターを獲得しているのです。

 最近は、NHK「きょうの料理」などで知られる料理研究家土井善晴さんと糸井氏の対談「家庭料理のおおきな世界。」や、アメリカのファッションモデル兼写真家マーク・レイ氏のインタビュー記事「マーク・レイさんとの、とくに結論のない対話」などの人気が高いといいます。今月下旬には、ほぼ日がセレクトした洋服店や雑貨店など約20店舗を東京・六本木ヒルズに集め、期間限定の「商店街」を開設して商品を販売するイベント「生活のたのしみ展」を実施。イベント終了後、ほぼ日サイト上でのネット販売も予定されており、今から注目を集めています。

 また、サイト名を「日刊」ではなく「ほぼ日刊」とした「ユルさ」も、慌ただしい毎日を送る現代人の機微に触れたのではないでしょうか。実際には、「ほぼ日刊」とうたいながら、サイトは開設以来、一日も休まず更新されています。

 ユーザーがどんな経路でほぼ日を訪れたかを分析してみると、ほぼ日のURLをブックマーク登録していたユーザーからのアクセスや、ほぼ日のURLを直接入力したユーザーからのアクセスが半数近くに達しています。このデータを見れば、ほぼ日のユーザーがリピーター中心であることが分かります。グーグルやヤフーといった検索エンジンからの新規訪問がメインになっている昨今の他サイトと比べると、ほぼ日が読者からどれだけ愛されているかがうかがえます。

広告には頼らず、売上高37億円

 多くのウェブサイトが良いコンテンツ、面白いコンテンツを作ることに注力する一方、収益事業化に苦しんでいる中で、ほぼ日の業績は極めて順調です。16年8月通期の売上高は37億7000万円、営業利益5億円、営業利益率13%となっています。ほぼ日の社員数は66人(1月末現在)で、ビジネスモデルや企業規模の違いこそありますが、ネット通販のガリバー、米アマゾン・ドット・コムの営業利益率が2、3%程度であるだけに、その収益性の高さが目を引きます。

 多くのメディアが広告収入を事業収益の“本丸”としていますが、ほぼ日のサイトは広告掲載がありません。コラムやインタビュー記事なども無料で見られます。彼らが収益の柱としているのは「物販」です。

 ほぼ日は、食料品や衣料品、日用雑貨品をはじめ、サイトの読者の要望や社員のアイデアを生かした様々なオリジナル商品をネットや小売店などで販売しています。中でも現在の稼ぎ頭になっているのは「ほぼ日手帳」です。

 ほぼ日手帳は、スケジュールを管理するだけでなく、日々の出来事や雑感などを書き込める「1日1ページ型」手帳の走り。ページが180度開くので、手で押さえなくても文字を書いたり付箋を貼ったりしやすい。手帳カバーも黒や赤といった単色だけでなく、カラフルなチェック柄や絵柄が入った商品も取りそろえ、流行に敏感な若い女性層などの購買意欲をそそっています。そんな機能や品質、デザインにこだわったオリジナル手帳は、02年版の発売開始以来、毎年売り上げを伸ばし続け、16年版の手帳の販売数は過去最多の61万冊に上ります。同社の売り上げの約7割を手帳の販売で獲得している格好なのです。

 このように、自社メディアを通じたオリジナル商品の物販で収益化を実現しているサイトの例は、業界でもまれです。12年には、そのユニークなビジネスモデルが高く評価され、競争戦略論の大家である米ハーバード大学のマイケル・E・ポーター教授の名を冠した「ポーター賞」を受賞しています。

異才を集める異彩な組織

 ほぼ日の魅力にひかれて集まるのは、サイトユーザーや手帳の顧客だけではありません。会社を支える優秀な人材もしかりです。CFO(最高財務責任者)を務める篠田真貴子氏もその一人。日本長期信用銀行(現・新生銀行)、米コンサルティング会社マッキンゼー・アンド・カンパニーなどで華々しいキャリアを築いてきた篠田氏は08年、ほぼ日(当時の社名は東京糸井重里事務所)に入社し、同社の財務戦略などを担っています。

 糸井氏の個人事務所レベルだった時代から篠田氏のような人材を獲得してきたほぼ日は、集まった人材をまとめるための組織論についても、独特な考え方を持っています。

 糸井氏は、「ほぼ日」サイトで次のように語っています。「組織において一人ひとりが何かしらの役割を持っていて、各自の役割はフラットである。そして、皆が等しく一定のリスクを負っている」。そして、自社を「船」になぞらえて、社員のことを「乗組員(クルー)」と呼んでいるそうです。

 さらに糸井氏は、自社の組織を人間の内臓にも例えています。「けがをしたりどこか不調なところがあると、やがて他の(臓器の)部分が頑張って、そこをカバーしようとする。同じように(会社)組織も、どこかがうまくいってないときも細かい指示なしに他の役割が自発的にがんばって、全体として新しいバランスをとるようになったらいい」

 ほぼ日を愛するメンバーが集まり、社長の糸井氏は「一番上」に立つのではなく、フラットな組織の「一番前」にいる。フラットな関係の社員たちは、必要に応じて有機的に結び付き、助け合いながら、仕事を進めていく。そんな会社の姿がうかがえます。

糸井氏の後継者は現れるか

 メディアを通じた物販モデルで成功した同社ですが、手帳の市場は既に成熟しており、主力商品である「ほぼ日手帳」の販売数の伸びにも、ある程度限りがあると思われます。ほぼ日手帳以外の物品を含めた売上高の伸び率は前年対比16%増で、成長ベンチャー企業に求められる伸び率と比べると、若干物足りない感は否めません。

 同社では、ほぼ日手帳に次ぐ新商品の開発や、新規事業の仕込みが進んでいるようです。現在も、洋服などのブランド「hobonichi+a.」「CACUMA」や、カレー用スパイス「カレーの恩返し」、ホワイトボードカレンダーといった商品が人気を集めているようです。こうした商品の販売を強化するとともに、さらにほぼ日の代名詞となり得る新商品・新サービスの登場が急がれます。

 そしてもう一つ。ほぼ日が抱える最大の課題は、彼らの強みの裏返しでもあります。つまり、“乗組員”の先頭に立ってほぼ日を率いている“船長”糸井氏への依存度の高さです。

 糸井氏本人は「自身への依存度は弱まっている」と分析するものの、そこはやはり、カリスマコピーライターの個人事務所として発足した同社における糸井氏の影響力は、今も決して小さくないはずです。

 同社は、上場によって調達した資金の用途の一つとして、「人材への投資」を挙げています。糸井重里という傑物に代わる人材、あるいは彼を超えるような人材が今後現れるのか、とても気になるところです。

 いずれにせよ、まずは「上場企業社長・糸井重里」の新たな挑戦に注目です。

プロフィル
林 圭介( はやし・けいすけ )
 株式会社ウィルゲート執行役員。1983年、東京生まれ。慶応義塾大学法学部卒。2013年にウィルゲートに参画。主にメディアを中心とした新規事業の立ち上げ、及びコンテンツを主体としたマーケティング手法について研究。
2017年03月09日 10時00分 Copyright © The Yomiuri Shimbun