自分は少子化って一概に悪いことばかりなのか、と思う。
よく似たフレーズに「経済成長をし続けなければ…」というのもある。
ただ人口は減ってもあまりに「いびつ」だといろんな層に負担がかかるだろうことは想像できる。
今これからがそういうことが起きる、いよいよ本番だということだ。
労働人口の減少とか、介護負担の増大とか、どれも深刻な問題だが、一番は「広がりすぎたインフラ」ではなかろうか。
地方に行くと、本当に人が少ない。
駅から目的地まで人影がない、なんてこともある。
まるでアメリカのよう。
すでに路線バスや医療などには「手の届かないところ」が増えてきているが、人が一旦済んでしまったら撤退するのは容易ではないだろう。
河合さんの著書にもコンパクトシティを進めるための「居住区エリア指定」などの案が示されているが、日本に住む人たちが「区画整理だ、住み替えよう」という文化になるまでには、相当な紆余曲折があるに違いない。
今の若い人には「そういう時代が来る」ということと「だからどうしていこうか」という話こそが必要だ。
老後の蓄えが何千万だ、年金はもらえない、などという大人は無責任だと思う。
「逃げ切り世代」ってなんて無責任な言葉だろうか。
さて、対策はあるのだろうか…
わずか7年後には、国民の3人に1人が65歳以上、23年後には自治体の半数が消滅――急激に少子高齢化する日本には、次々と悲惨な事態が待ちうけている。では私たちはどうすればよいのだろうか? 近著で人口減少日本の現実を暴いた河合氏(『未来の年表』)と石破氏(『日本列島創生論』)が、日本を救う「カギ」について語り合った。
就職氷河期のツケ
河合 今年4月、新しい「将来推計人口」が発表されました。高齢化や少子化のペースは従来の予想よりも少々緩やかになりましたが、50年後には総人口が9000万人を割るなど、そこで示された「未来予想図」は相変わらず厳しいものです。
石破 少子化・高齢化の大きな傾向は変わっていませんね。
同じ4月には「生涯未婚率」も発表されていますが、こちらもなかなかショッキングな数字でした。50歳までに一度も結婚したことのない人が男性の4人に1人、女性では7人に1人もいるという。これでは出生率が高くなるはずもない。
未婚の人が増えている背景には、「見合い結婚」が消滅したこともあります。というのも、未婚の女性に話を聞いてみると、断られるのを怖がってか、「声をかけてくれる男性がいない」「男性が本気で交際を申し込まない」というのです。
河合 ひと昔前ならお見合いという手段が、多少強引にでも男女の出会いを演出してくれていた。戦前など、見合い写真だけで決めちゃう、なんていうこともありましたよね。
『未来の年表』著者の河合雅司氏
石破 そう。そんなやり方がいいとはあまり思いませんが、お見合いという仕組みが結婚を促進していたのは事実です。
出生率を上げるためにも、独身の人がどうやって結婚相手を見つけるかが社会的な課題です。国の政策としては難しい面もありますが、誰かが仲人さん的な役割を果たすとか、出会いの場を増やしてあげないといけないのでしょうね。
河合 2020年には女性の過半数が50歳以上になります。つまり、出産可能な女性が大きく減り始めるということですから、少子化は今後も歯止めがかかりそうにありません。
石破 少子化の背景には社宅や官舎の減少もあると私は考えています。家賃が安い社宅や官舎は、まだ収入が多くない若い夫婦にとっては可処分所得を増やす機能があった。だからかつては若いうちに子供をもうける余裕がありました。
ところが今は、企業や役所が社宅や官舎を削減しています。であるならば、ほかの手段で若い世代の可処分所得を増やしてあげないと、出生率は上がらないと思います。
河合 出会いの場としては職場も大きなファクターですが、「職場には結婚対象になる異性がいない」という人が、全体の4割になっているという調査結果も出ていますね。
石破 4割も……なぜそんなに高くなるんですか?
河合 就職氷河期と呼ばれた時代に若者を採用せず、非正規の労働者で対応してきたツケが出てきているからです。
石破 なるほど。就職氷河期の影響が若者の結婚問題、ひいては日本の人口問題に影響しているわけですか。
AIやロボットは人口問題を解決しない
河合 人口問題については、ある時期に起きた出来事が数年後にどういう形で現実に跳ね返るかが予測できる側面があります。そこで私の最新刊『未来の年表―人口減少日本でこれから起きること』では、これから現実に起きうる出来事をカレンダー形式で体系的に示しました。
たとえば、2018年に75歳以上人口が65〜74歳人口を上回る、2024年に全国民の3人に1人が65歳以上になる、2039年には火葬場不足が深刻化する……。
こうした近未来の現実を踏まえないまま、政治家も官僚も議論していることが多いのです。何がこれから日本に起こるのかをまず明確に理解してから議論していかないと、一筋縄ではいかない人口問題は決して克服できません。
石破 世代間の温度差もあるのでしょうね。私たちの年代は、嫌な言葉ですが、「逃げ切れる」世代。年金でも社会保障でも、そのメリットを大いに享受できる。しかし、20代になる2人の娘世代を考えると、「彼女たちが生きてゆく時代は一体どうなっちゃうんだろう?」と、ゾッとします。
『日本列島創生論』を上梓した石破茂氏
だから、私は最近「投票義務制」に関心を持っているんです。日本では18歳から投票権を付与されましたが、若年世代はともすると自らは投票権を行使しないのに、「高齢者がみんな勝手に決めて」と“シルバー民主主義”批判をしがちです。だけど、そんな彼らこそが人口減少時代の主役なんですから、きちんと投票して、彼ら自身に未来を決めてほしい。
そして政府は、彼らが正しい判断を下せるよう、人口問題についての情報を提供すべきです。いまは静かな有事。有事における情報発信こそがものすごく大切です。
河合 近未来についての正確な情報がないと、危機感の共有ができませんからね。誰もが人口が減っていく事実も知っている。だけど、それが実際どう進行してゆくのか、自分の子孫がどんな社会に生きていくのか、ということを知らなさすぎます。
たとえば『未来の年表』で書いたように、2025年をピークに、ついに東京都ですら人口が減少していくのですが、知る人はほとんどいないのではないでしょうか。
AIもロボットもアテにならない
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さて、対策はあるのだろうか…石破 私は週に3〜4ヵ所ほど地方に出かけて、話をする機会があるのですが、そのときには「この町はね……」となるべく個別具体的な話をするように心がけています。
どこに行っても最初は、「この町の人口は、2100年には○○人まで減るんだよ」と話します。するとちょっと驚いてくれるんだけど、すぐに「でもいいか……総人口の2割くらい減っても」なんていう反応になるんですね。
そこで、「総人口は2割しか減らないかもしれない。でも20代、30代の若い女性は8割減るからね」と言うと、さすがにギョッとするんです。子供を産んでくれる女性が8割も減ったら、町が成り立ちませんからね。ここまで説明していかないと、なかなか危機感を共有してもらえないんです。
河合 私が最近危惧しているのは、「AI(人工知能)やロボット技術が人口減少に伴う労働力不足を解決する」という論調です。この分野の技術革新をどんどん進め、大いに活用しなければならないのはもちろんですが、「AIやロボットで人口問題が解決する」というのは、楽観的すぎる。
石破 そう。AIやロボットが、労働力の面で人間を代替してくれることはあり得ないことじゃない。ただ注意しなければならないのは、ロボットやAIは税金を払ってくれないということ。ロボット1台に“ロボット税”をかける時代でも来ない限り、税収面でちっともプラスにはならない。
※写真はイメージです(Photo by iStock)
また、AIやロボットはモノを食べないし買わない。つまり、いくら仕事をしても消費しない。人間がしてきた労働をAIやロボットが代替していくと、国の財政や消費経済がどう影響を受けるかは未知数なのです。
いずれ、多くの仕事はAIやロボットに代替されるかもしれませんが、そのぶん新たなサービスを生まねばならない。私たちが子供の頃に熱中した『鉄腕アトム』では、「ロボットを追い出せ! 仕事を奪ったロボットを破壊しろ!」なんて、人間がロボットに敵意をむき出しにするシーンがありましたが、もうそれがマンガの世界じゃなくなりつつある。
東京への人口移動を食い止めよ
河合 石破さんは地方創生担当大臣の頃から、「地方にこそ希望がある」と主張してこられた。近著『日本列島創生論―地方は国家の希望なり』(新潮新書)でもその主張を展開されていますが、拙著でも、「2040年までには全国の自治体の半数近くが消滅を避けられない状況になる」と書きました。改めて、なぜ地方に人口問題や少子高齢問題を解くカギがあると考えるのでしょうか。
石破 これについても出生率から考えてみましょう。都道府県で見れば(合計特殊)出生率が一番高いのは沖縄で、島根、宮崎、鳥取、熊本と続きます。一方、出生率最低は東京で、京都、北海道、宮城と続く。出生率は西日本、南日本が高いのです。
また、基本的に地方のほうが出生率は高いのですが、所得が高いわけではない。一番所得の多い東京の出生率が最も低く、一番所得が少ない沖縄が最も高いんですね。
では、出生率の高さは何と相関関係があるのか。この謎を探っていくと、どうやら一番相関係数が高いのは、平均帰宅時間と通勤時間なんです。東京や神奈川みたいに、往復1時間半も電車やバスに乗っていると自由に使える時間が減るので、子供をつくる機会も少なくなってしまうわけです。
河合 なるほど。まず、何が出生率に影響しているのかをもっと精緻に分析するべきだということですね。
石破 そうすると、まず何よりも、出生率の高い地方から出生率の低い東京に人が移る現象を食い止めることが、人口減少を緩和させる一つの決め手じゃないかと思います。
先日、真庭市(岡山県)の太田市長から「わが市の出生率が2.0を超えました!」とのお話を聞きました。真庭市は中山間地の町で、もともと林業が盛ん。その特長を生かし、CLT(クロス・ラミネイティド・ティンバー)という高層建築も可能な木材の生産で、日本を代表する会社があります。
こういう将来性のある事業所を抱える地域では、若者が定着して出生率も上昇する。都会から離れていても、地方の努力によって出生率は間違いなく上がるんです。
河合 地方では最近、小学生や中学生に、「大学進学で東京に出ていくのは仕方がないが、卒業したら帰って来いよ」と、若者の帰還を促して地域を再生しようと取り組んでいる町が増えていると石破さんはおっしゃっていますね。
石破 そう、たとえば宮城県気仙沼市。ここは漁業の町ですが、いま気仙沼の小学生・中学生のうち54%もの子は、「大人になったら気仙沼に帰ってきたい」と言うそうです。
そこで「これは脈がある!」と踏んだ市は、子供たちに漁業を徹底的に学ばせようとしています。気仙沼には遠洋漁業もあれば沿岸漁業、沖合漁業、養殖漁業もある。
さらに造船業や製氷業もあるというように、裾野が非常に広い。地元で働くことの生きがいや誇りを与えることが大事なんですね。
あるいは高知県の佐川町。ここでは町長が、中学生たちに町の総合計画の一部を書かせている。彼らがつくりたい町のプランを聞き、「そうか、じゃあ都会で勉強した後に、その町をつくりに帰って来いよ」と促し始めています。
河合 地方の若者が都会に出てくる一つのきっかけは、もちろん大学進学でしょう。そこでいま地方創生本部が、「東京に新しい大学をつくるな」と叫び始めていて、これが法規制される方向にあるのですが、私はどうも違和感を抱いてしまうんです。
坂本龍馬の例でもわかるように、若者というのは昔から都で勉強するもの。都会でたくさんの刺激を受け、いい仲間と出会う。それも大切な勉強の一つです。
大事なのは、勉強した後に地元に帰る場所があるかどうかじゃないでしょうか。やりがいのあるものが地元になければ、単に東京から大学を締め出しても、若者は地元に定着しません。地元の国立大学を卒業しても就職先は東京や大阪となるんだったら、意味のない対策になってしまいます。
石破 そう、大学は東京にあってもいい。そして地元に戻ってくれればいいんです。
集落に残された、たったひとつの道
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さて、対策はあるのだろうか…自治体よりも集落が残ることが大事
河合 それから地方創生を考える時、「地方とは何なのか?」という議論が抜け落ちているように感じます。地方創生の「地方」というのは地方自治体のことなのか、あるいは人々の暮らすコミュニティのことなのか。ここがかなり曖昧なまま議論が行われている気がしてなりません。
地方創生とは、単に自治体を生き残らせるための方策であってはならないと私は思います。そうではなく、地域ごとの多様性によって国家の豊かさが織りなされているという事実を、もう一度見直す作業なのではないか。
それを考えるとき、いま地方の統治のあり方が揺らいでいるという問題に突き当たるんです。たとえば人口わずか400人の高知県大川村では、議員のなり手がおらず、村議会が成り立たない状況に直面し、「町村総会」による直接民主制が検討されています。
また衆議院の新区割りを見ると、既存の自治体をいくつかに分割しているところが100ヵ所以上出てきている。2050年には現在の居住地域の約20%が「誰も住まない土地」になるんです。
人口が減り、高齢者が増えて、人の移動がますますしづらい状況で、日本はどういう国を目指すべきなのでしょうか。
石破 おっしゃるように、既存の自治体がこのまま成り立つ必要はありませんが、統治の仕組みは必要です。ただそれは自治体をそのまま残すという意味ではなくて、コミュニティが残るという意味です。自治体を分解するとたくさんの集落になります。この集落が残っていくことが大切なのです。
島根県立大学の藤原眞砂教授の研究によれば、集落が生き残るためには年間1%の人が帰ってくればいいそうです。1%というのは、そんなに難しいことではないでしょう。
その一方で、地方では、東京や大阪に出ていった人がいま何をしているのか、という追跡調査をほとんどしていない。都会で県人会に入っている人もごくわずかです。
出ていった人のその後を把握していれば、「帰ってこないか?」とUターンを促せる。都会に出ていく高校卒業時までに、自分たちの町の実態を知り、誇りを持てるような取り組みをやっていたら、帰郷する人も出てくると思うんですね。
河合 人口が減っていく社会では、従来以上にコミュニティを機能させていかなければならないわけですが、そこで発想の切り替えが必要になってくると思うのです。
日本は否応なしに縮んでいく。拡張路線でやってきた成功モデルを見直すべきです。でも、どうせ縮むんだったら戦略的に縮もうじゃないかという発想が必要。たとえば、「24時間社会」からの脱却や非居住エリアの明確化なども一つの選択肢ですが、石破さんは、どこから手を着けたらいいと思われますか。
石破 私が地方創生担当大臣の時には、「コンパクトシティ」と「小さな拠点」(コンパクトビレッジ)をそれぞれの自治体で考えてくださいとお願いをしましたが、やはりここから始めるべきじゃないでしょうかね。
高度成長期、都市部への人口集中に対応するため、山を切り開き農地を転用してニュータウンをたくさんつくりました。いまそれがゴーストタウンに変わりつつあって、維持するのは極めて難しいと思います。人が減っても道路や下水道は必要。採算の合わない公共インフラに投資を続けるのは困難です。ならば、コンパクトシティを目指さなくてはならない。
ニーズの乏しい住宅地は、いっそのこと「山林原野に戻す」という選択もあると思います。財政が破綻するだけだから、無理して大きな規模を維持しても仕方がない。
もう一つのコンパクトビレッジのほうは、中山間地の集落に対応するため、複数の集落に必要な診療所や保育所、商店やガソリンスタンドを集約しようというものです。憲法で保障された居住・移転の自由を制限することなく、中山間地の集落の維持を効率化しようという発想です。
河合 なるほど。人口減少の議論は現状への対応だけで解決するものではないので、次の世代、さらに次の世代へとつないで議論していかなければならないテーマです。中学生、高校生にこそ、この問題を真剣に考えていってもらいたい。
石破 実際、先ほど紹介した佐川町や、地方創生のモデルの一つとされる海士町(島根県)など活性化している地域では中高生の声を町づくりに反映させる取り組みが行われている。
「東京に行って出世する」というサクセスストーリーはもう古いです。地方に住んで、地元の特長を生かした町づくりに参加していったほうが豊かで幸せな人生を送れる、という事実に気づいてもらう―人口減少時代に地方が生き残るカギは、そこにあると思います。
読書人の雑誌「本」2017年7月号より