藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ミネルバの梟はどこに。

日経トランプ氏の記事より。

ヘーゲルは『偉人』をその人物よりもずっと偉大な何かを実現する道具にすぎないとみていた……

そうか。
歴史という立場から見ると、人は道具なのか。
確かに100年くらいしか生きない人の宿命とも思える。

「賢者は歴史に学ぶ」という。
それにしても「未来の歴史家が現代をみたら」という視点は面白い。
それまでの経済プレイヤーの常識だった「グローバル化」に引導を渡した。というのはすごい決断だろう。

トランプ氏は本能的に、世の中のすべてはパイの大きさが決まっているのだから、何事も勝つか負けるかだという発想だ。

全然、この発想は洗練的ではないと思う。
けれど結局は「国」という単位で活動している以上は(結局は)鉄則なのかもしれない。
とことん勝ちに行くのかどうか、はともかくだ。

ヘーゲルは「ミネルバのフクロウは夕暮れに飛び立つ」と言った。
本当のところは最後にならなければ分からない、ということの詩的な表現だ。

歴史の視点で、今を考えたいものです。
(つづく)

歴史に名残す? トランプ氏
2018年10月25日 10:16

トランプ米大統領が9月に国連総会で演説した際、その内容に対し聴衆から失笑が漏れた。過去に米大統領が、こんな侮辱的な扱いを受けたことはない。
しかし、筆者は不本意ながら、最後に笑うのはトランプ氏かもしれないと思っている。今のトランプ氏の評価はともかく、第45代米大統領は時代の精神を体現し、歴史を動かした指導者として名を残す可能性がある。

歴史的人物は、善人とは限らないし、特に頭脳明晰(めいせき)というわけでさえない。トランプ氏は常習的な嘘つきだし、トランプ政権は移民の子供たちを親から引き離して収容する施設を設けるような政権だ。ティラーソン前国務長官はトランプ氏を「ばか者(moron)」と呼んだという。だが、こうしたことはいずれもトランプ氏が、ドイツの哲学者ヘーゲルがいうところの「世界的な歴史的人物」に該当しない理由にはならない。
ヘーゲルが生きていた時代の典型的な世界史的人物はナポレオンだ。ヘーゲルはナポレオンのことを「馬に乗った世界精神」と表現した。ヘーゲルの世界精神について筆者がこれまで読んだ定義の中で最もよかったのは、奇妙なことにフランスのマクロン大統領による説明だ。マクロン氏は独シュピーゲル誌によるインタビューでこう語っている。「ヘーゲルは『偉人』をその人物よりもずっと偉大な何かを実現する道具にすぎないとみていた……彼は、ある人物がしばらくの間、時代精神(世界精神)を体現することはできるものの、当人がその時必ずしもそれを明確に自覚しているわけではない、と考えていた」と。
トランプ氏がヘーゲルについて一家言あるとは思えない。だが、同氏は本能的に、ヘーゲルがまさに指摘したような自分でさえよく理解していないその時代の流れや力を体現し、それらを自分に有利に使える直観的な政治家なのかもしれない。対照的にマクロン氏は今のところ、教養はあるが、滅びつつある今の秩序を体現する存在のように見える。
40年にわたる米国の対中政策を大転換

では、もし将来の歴史家たちがトランプ氏を歴史的人物だと認めるとしたら、どういう意味で評価するだろうか。
まず、米国の外交方針について、エリート層の間で合意されてきた過去のやり方とは完全に決別した点が挙げられるだろう。歴代の米大統領は、米国の力が弱体化しつつあることを否定するか、ひそかに対処しようとするかのどちらかだった。だがトランプ氏は米国の凋落(ちょうらく)を認め、その流れを逆転させようとしている。手遅れにならないうちに世界秩序のルールを米国有利に書き換えようと努力する中で、米国の力を容赦なくあからさまに振るった、と、未来の歴史家は書くだろう、そして以下のように続ける。
特に、歴代大統領がみな信奉してきたグローバル化は実はひどい考え方で、それが米国の力を相対的に低下させ、国民の生活水準を押し下げてきたと同氏は断じた。30年以上にわたる実質賃金の伸び悩みや目減りを経験してきた米国民は、同氏のメッセージを受け入れた。過去の大統領たちのように礼儀に縛られないトランプ氏は、敵に対しても味方に対しても容赦なく高圧的な態度を取った。
トランプ氏は本能的に、世の中のすべてはパイの大きさが決まっているのだから、何事も勝つか負けるかだという発想だ。そのため、中国が豊かになり、力を蓄えることはすなわち、米国にとって良くないことだと判断した。その結果、中国の台頭を止めようとした最初の米大統領となった。これが良いことかどうかはともかく、中国を米主導の国際秩序に組み込む方向で努力するという40年以上続けてきた米国の外交政策をひっくり返したのだから、これは間違いなく歴史的な展開といえる。
エリート層と一般世論の分断を初めて認識

一方、内政面では、未来の歴史家は、トランプ氏が米国のエリート層の見解と一般大衆の意見の間に、大きな隔たりがあることに最初に目を向けた大統領だったと記すかもしれない。移民や貿易、アイデンティティー政治(編集注、民族、宗教、社会階級など構成員のアイデンティティーに基づく社会集団の利益のために政治活動すること)などの幅広い問題を巡る考え方の違いに、だ。
同氏はこの分断を、最初は大統領候補として、その後は大統領として徹底的かつ効果的に活用した。トランプ氏は、従来の常識では政治家としては致命的といえるような言動をとってきたが、彼の本能の方が専門家の分析より優れていた。高齢(72歳)にもかかわらずニューメディアを「理解」し、ほかの政治家には及びもつかないほど見事に使いこなした――。こう記されるかもしれない。
しかし、こんな過激な手法でトランプ氏は将来、成功の栄誉にあずかれるだろうか。ヘーゲルは「ミネルバのフクロウは夕暮れに飛び立つ」と言った。本当のところは最後にならなければ分からない、ということの詩的な表現だ。
とはいえ、トランプ派の見方からすれば、今のところすべてはかなり順調だ。米経済は好調だが、中国経済は失速気味だ。米連邦最高裁では、判事の過半数が保守派になるようにした。カナダとメキシコは米国のすさまじい圧力に屈して、貿易協定の見直しに合意した。ほかの同盟国も同調する様子を見せている。11月の中間選挙の結果がどう出ようと、トランプ氏が2020年に再選される可能性は十分にある。
歴史的偉人の末路は暗いケースが多い

もちろん、すべてがうまく推移し続けるとは限らない。既存のエスタブリッシュメント側にいる人間として筆者は、どこかでうまくはいかなくなるだろうと考えがちだ。米国が貿易戦争の反動に見舞われるかもしれないし、米経済が過熱して、株価が暴落する可能性もある。
もし世界が再び金融危機に陥ったら、トランプ氏率いる米国が国際協調による対応を主導することは難しいだろう。同政権が今後も同盟諸国との関係を軽視すれば、覇権国としての米国の力はこれまで以上のペースで低下していくだろう。最悪の場合、トランプ氏の直感に基づいてあえてリスクをとるというやり方が大きな誤算を招き、中国やロシア、あるいは朝鮮半島において戦争という事態にもなりかねない。
だが、たとえトランプ氏が最終的に失敗し、惨事を招いたとしても、歴史に名の残る大統領になるだろうという見方が消えるわけではない。トランプ氏自身は、偉大さとは「勝利すること」と考えているかもしれないが、ヘーゲルは、世界史的人物はたいてい暗い末路をたどると指摘している。「アレキサンダー大王のように若死にしたり、シーザーのように殺されたり、ナポレオンのようにセントヘレナ島に流されたりする」
トランプ氏の多くの敵は、こうした結末を期待しているかもしれない。
By Gideon Rachman
(2018年10月23日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/