*[ウェブ進化論]自分みたいなもの。
日経MJより。
美空ひばりよろしく、ジェムス・ディーンの合成映画が新作として作られるという。
倫理面や芸術性、権利関係で早くもビジネスに動いている人もいるというから、その素早さには驚くばかり。
AIのディープラーニング技術が、こうした「リアルに見える合成」を実現しているらしいが、そのうち世の中のニュースなどを見て、独自にAIがストーリーやキャラクターを作成し、受けそうな作品(あるいは逆にオタクな)をどんどん発表する、と思うのは自分だけだろうか。
ここまではセレブを巡るユニークなビジネスの話題だが、いずれは私たちも望めば遺言代わりに、生きているような分身を家族らに残せるようになる。SFがSFでなくなる日は近づいている。
そうなったらいつまでも親や祖父とコミュニケーションができる。
あるいはジェームスディーンでなくとも、過去の一般人も復活されるかもしれない。
この先、いつまでも増え続ける家族。
楽しそうだが妙な感じだ。
嫌な親戚も残り続けるかもしれない。
もちろん、自分自身はもう疾(と)うにそこにはいないわけですが。
故ジェームス・ディーンの「新作」 AIで蘇生、実用に
「エデンの東」「理由なき反抗」、そして「ジャイアンツ」と、3作の主演作品を残しただけで自動車事故により早世したジェームス・ディーン。主演する映画が米国で11月の「退役軍人の日」に合わせ公開される計画だ。前作から65年ほどを経ての「新作」。小説「ファインディング・ジャック」の映画化で、ベトナム戦争当時の兵士とイヌの交流を題材にするという。
「新作」と呼ぶのは、残された数々の映像を部分的に流用するのではないからだ。
過去の映像や写真を用いてジーパンやTシャツを宣伝する映像が没後に作られてきたが、今回は異なる。ジェームス・ディーンの映像は人工知能(AI)を駆使して新たに合成したもの。つまり、現代のシナリオ作家や監督、エンジニアらが協力して、故人の映像を人工的につくり出すわけだ。あるメディアはジェームス・ディーンの「4番目の主演作」と紹介する。
こう紹介すると、昨年大みそかのNHK「紅白歌合戦」で、やはりAIによって生み出されたといえる故・美空ひばりが新曲「あれから」を歌ったことを連想するかもしれない。映像と音声を技術者が時間をかけて制作し、作詞に秋元康氏、衣装デザインに森英恵氏も加わった。長年のファンが喜ぶ一方、著名なミュージシャンが「冒涜(ぼうとく)」と批判したりと、反響は複雑だった。
筆者はNHKスペシャル「AIでよみがえる美空ひばり」を見て、曲中の語りなどに秋元氏の意図を強く感じ、違和感を持った。故・美空ひばりが強い存在感を放っていただけに、演出意図が前面に出るのになじめなかった。
故人はもとより現存する知名度の高い人物を自由自在に操ろうという試みは、実用段階に入っている。切り開いたのが「ディープフェイク」と呼ぶアプローチだ。AIの「深層学習」(ディープラーニング)と「フェイク(ニュース)」を合成した言葉だ。
ふじむら・あつお 法政大経卒。アスキー系雑誌の編集長、外資系IT(情報技術)企業のマーケティング責任者を経て2000年にネットベンチャーを創業、その後の合併でアイティメディア会長。13年からスマートニュース執行役員。18年7月からフェロー。東京都出身。
著名人の動画とニセの発話者の唇の動きと音声を、真偽の見分けがつかないレベルで合成する。2018年にはオバマ前大統領がトランプ大統領をこきおろす発言をする動画が話題になった。技術の危険性を示すための作品だったが、今年の大統領選でフェイク映像が飛び出し選挙に影響を及ぼさないか、議会は危機感を募らせている。
ジェームス・ディーンや美空ひばりの「新作」に話を戻せば、ビジネスの可能性の広さから同種の試みが現れるのは間違いない。となると、倫理観に関わる問題が高まることはすぐに想像できる。肖像権が及ぶ範囲をどう拡張するかも問われる。
米ハリウッドには「ワールドワイドXR」という高度なバーチャル映像技術を保有し、故人となった多くのスターの権利を収集する企業が早くも誕生している。権利を持つセレブは400人に及び、映画スターはもちろん、スポーツ選手、歴史的な社会運動家、宇宙飛行士と多岐にわたる。ジェームス・ディーンの新作の制作にも加わる。
ここまではセレブを巡るユニークなビジネスの話題だが、いずれは私たちも望めば遺言代わりに、生きているような分身を家族らに残せるようになる。SFがSFでなくなる日は近づいている。