こういう話を突き詰めると「会社はだれのものか」という議論に行きつく。
またその疑問はいまの市場経済を考える上でとても大事なものだとも思う。
資本はどれほどで、資産はどのくらいあり、「それがどの程度活用されているか」ということを見る。
今の市場は「あまり余分のない資産活用」が効率的、とされているが、そんな常識も時代と共にまた変わるかもしれない。
貯蓄重視、あるいはフロー重視、などの物の見方は、時代時代の価値観を反映するのではないかと思う。
個人でも同様、日本人は実に1300兆円を貯蔵していると言われるが、今はその貯蓄が塩漬けになっていることが問題とされている。
政治の効用は大きいが、「もうそれほど貯めなくても大丈夫」と国民が思えば、その経済効果は物すごく大きいだろう。
つまり、資本や資産の「使い方」というのは、時代によって評価の尺度が違うが、けれど「将来の不安からタンス預金ばかり」というのは国民にとっても得策ではないだろう。
自己の財産を、自国のために「身近な投資」に投じても良い、という"非常に健全で当たり前の感覚"をいかに作り上げてゆくか、がこれからの日本の課題であると思う。
皆がみな、アリさんになって全てを「巣の中」にもっていても活気無く。
まだ唯一絶対の正解はないが、「自分なりの価値観」は十分持てる世界でもある。
自分なりの意見を持って資産を生かすことを考えたいものである。
ROE 投資家と企業の認識にギャップ
このコラムでは「企業が株主にどれだけリターンを提供できているか」「どれだけ株主の期待にこたえているか」を表す指標である「ROE」(株主資本利益率)に触れてきました。
ROEは、企業を評価する指標として、投資家はもちろん企業もその重要性を十分認識していると考えていましたが、ある調査の結果に目を通したところ、実際には「投資家」と「企業」で認識の度合いに差があるようです。生命保険協会という社団法人があります。1898年(明治31年)に設立された生命保険会社談話会がその前身という大変歴史のある団体で、生命保険業の健全な発展と信頼性の維持を図ることを目的として、「生命保険に関する理論および実務の調査・研究」「生命保険に関する広報活動」「生命保険に関する意見の表明」などの事業を行っています。
生命保険会社は、保険の契約者から預かった保険料を、誠実に一定の利回りで運用する責務(受託者責任)を負った代表的な機関投資家であり、銀行とともに多くの上場企業の株主として大きな役割を果たしています。
そこで生命保険協会では、「企業と株主は互いに意思の疎通を図りながら課題を共有化し、長期的な視点で株式の価値が向上することを望んでおり、各企業が株価向上に取り組むことで日本の株式市場は活性化する」と考え、企業側に様々な要望を提示しています。そのうちの一つが「ROEの目標設定と水準向上」という項目です。
つまり機関投資家としては、企業に具体的な指標としてROEの重要性を認識してほしいと言っているわけです。
また、企業と投資家の株式価値向上に対する取り組みや意識についての調査を定期的に実施しています。2011年度の調査結果(今年3月16日発表)を同協会HPで見ることができますが、ROEに関する部分を抜粋してみると、企業と投資家の認識の違いが明らかです。
まず、投資家に「中期経営計画で公表を望む指標」を尋ねたところ、回答は「ROE」が82.3%で断然トップであったのに対し、実際に企業が公表している指標は「利益額・利益の伸び率」が61.9%で1位。「売上高・売上高の伸び率」(59.5%)、「売上高利益率」(48.0%)が続き、「ROE」は32.8%の4位にとどまっています。
また、「ROEの水準が資本コストを上回っているか」との質問に対して、企業側は「上回っている」との回答が21.9%だったのに対し、「上回っていない」が26.9%、「わからない、どちらともいえない」が41.3%となっています。
投資家側は「上回っている」が8.9%だったのに対し、「上回っていない」が70.9%に上り、企業側と比べ、現在のROEの水準をかなり厳しく見ていることがわかります。
加えて企業側の「わからない、どちらともいえない」という回答が多いのも気になります。もしかしたら、ROEの意味そのものを理解していないか、資本コストとの比較という視点が欠落しているのではないかとさえ疑ってしまいます。
そこまでレベルが低いことはないにしても、調査の対象は時価総額の上位1200社で、そのうち613社が回答したということですから、日本を代表する有名企業でROEに対する意識がこれほど低いのはちょっと心配です。
投資家の意見が絶対的だとは言うつもりはありませんが、企業の意識改革は日本の株式市場活性化のためには絶対に必要なのではないでしょうか。
この調査、他にも興味深い結果が出ていますので、次回も引き続き取り上げたいと思います。
(2012年8月30日 読売新聞)