日経「東京集中への警鐘」より。
まず地方自治体が消滅の危機にあるという。
これは少子・高齢化の文脈である。
東京では「超高齢化・独居化」の問題。
二十年後には100万人の「独居老人」が存在するという。
高齢化の背景には高度化した医療の恩恵も少なからずあるわけで、独居老人の増加は化必ずしも「悪い現象」ではないはずである。
自分だってそうだが「一人暮らしでの心配」を克服するにはITの活用によ寄ってリストバンドやチップを埋めておいての「生存確認」だって将来は十分ありえる生活手段だろう。
長生きして、家族とも独立し、自分なりの終末の迎え方、などをこれからの日本人は考えてゆくのだろうと思う。
すでに起こっている「待機老人」の問題を含め、これからの高齢者問題は東京だけですまなさそうである。
杉並区の「高齢者の南伊豆移住案」は、姥捨て山などという批判ではなく、これからの福祉の在り方なのではないだろうか。
老人が高額な地代を払いつつなお、都心の特養にいるだけの選択肢ではないだろう。
都内全体での待機高齢者は4.3万人という。
こちらの方が深刻である。
一方「便利な東京だけがますます便利になる」という批判があるが、一方地方都市へ行けば都心とは比較にならないくらいの値段とサービスがある地域も多い。
都心は便利で多機能だが、決して万能ではないしまたリーズナブルでもない。
東京近郊から離れてみるとそうした違いに気づくものである。
結局は東京の都心過重の問題というよりは、やはり日本の高齢化への取り組みということなのだろう。
福利厚生と税金の問題に集約されるけれど、高齢化の社会モデルへの挑戦はこれからである。
一極集中の弊害ピークに 目前に迫る「東京の限界」
2014/8/5 7:00
ニュースソース
日本経済新聞 電子版
日経ビジネス
人口減少で2040年までに半数の自治体が消滅する可能性がある──。増田寛也・元総務相らが警鐘を鳴らした「増田ショック」の余震が続いている。慢性疾患のように進行してきた人口減と疲弊する地域。政府や自治体はやっとこの「不都合な真実」に向き合おうとしている。だが、この問題を語る際、抜け落ちがちな重要な視点がある。地方から人、モノ、企業をかき集め、高度成長を果たし、人口減の影響とは無縁の存在と受け止められていた首都・東京。これこそが、この問題の本質だということだ。行き過ぎた一極集中が地方の活力を奪い、首都の肥大化を招いた。崩れた成長モデルの跡地には、いびつな人口構成に伴う弊害だけが残る。
東京五輪も決まり、東京圏には今後も若者の流入が続くだろう。だが東京圏の結婚・子育ての環境は地方に比べはるかに劣る。生まれる子供がさらに減り、全国的な人口減に拍車がかかる。しかも東京圏では今後高齢者数の激増が確実だ。介護や行政サービスに支障を来す懸念が強まり、これ以上の一極集中は災害リスクを拡大する。
高齢者が過半を占める限界集落の危機が喧伝(けんでん)されている。しかし東京が直面する危機はこう呼ぶのにふさわしい。
限界都市・東京──。
■危機1:2035年には6〜7世帯に1つ…100万の独居高齢世帯
日本有数の繁華街・池袋を有する東京都豊島区。ここでは65歳以上の高齢者の71%を独居世帯が占めている。民間の日本創成会議(座長・増田寛也元総務相)が、23区の中で唯一「消滅する可能性がある自治体」の一つに挙げたことでも話題を呼んだ。
同区では1990年から独居高齢者向けに、安否確認を兼ねた昼食の宅配サービスを展開している。利用者は約1100人。民間業者に宅配を委託し、1食あたり350円分を税金から補助しているが、ここ数年は毎年100人単位で利用者が増加。「今の仕組みのままでは制度が崩壊する」(同区高齢者福祉課)と、危機的な状況に陥っている。
東京都によると、都内の独居高齢者の世帯数は2035年に10年比1.6倍の100万に達する見通し。実に6〜7世帯に1つに相当する。死後数日〜数カ月たって発見される「孤独死」は2013年に東京23区で約7400件あったが、今後、飛躍的に増えるのは間違いない。
東京の独居高齢者問題に対し、動き出す企業もある。ヤマト運輸はまず地方で独居高齢者の安否を確認するサービスを開始。今後、東京圏で展開することを視野に入れている。
青森県黒石市で2013年4月から始めた「見守りサービス」。受託したヤマトのドライバーが市内に住む約1000人の独居高齢者宅を訪ね、配布物を渡すとともに、様子や体調を確認する。万が一、異常があれば市や民生委員に報告するシステムだ。地方では過疎化とともに、これまで高齢者の安否確認を任されていた民生委員自身の高齢化が進み、黒石市のように、民間企業に安全確認サービスを委託せざるを得ない自治体が増えている。
2014年2月にはヤマトの女性ドライバーが60代の女性の異変に気付いたというケースもあった。このドライバーはドア越しに聞いた女性の声がいつもと違う点に違和感を覚え、近所の親戚に連絡。軽い脳梗塞に襲われた女性はすぐに救急搬送され、事なきを得た。
「地域を熟知しているドライバーだからこそ対応できた」。ヤマトの越田充・青森南支店長はこう胸を張る。
荷物を自宅まで届ける輸送網は、今や電気や水道と並ぶ社会インフラに育っている。全国に4000近い集配所を持つ強みが、東京の課題解決の一助になる日が来るかもしれない。
だが、民間企業であるヤマトに過大な期待はできない。営業戦略部地域・生活支援推進課の引地芳博課長は「東京ではドライバーの負荷が大きく、今は事業展開できる段階ではない」と話す。
ヤマトは見守りサービスを手掛ける営業所に、単独で採算を取るよう指示を出しているが、年間数百万円の予算投入がある黒石市のケースで、ようやく「トントンから少し黒字の状況」(越田支店長)。大きくもうけられるビジネスとは言い難い。
100万にも達する東京の独居高齢者世帯に対応するサービス整備には相当な準備期間が必要になる。東京の高齢者はマンションなど集合住宅に住む比率が高く、玄関先にまで行って安否を確認するのが困難なケースもある。こうした都心ならではの問題が事業化の壁になりかねない。
ヤマト運輸は地方で始めた高齢者の見守りサービスを東京で展開することを視野に入れる
ヤマト運輸は地方で始めた高齢者の見守りサービスを東京で展開することを視野に入れる独居世帯の増加は住宅メーカーにビジネスモデルの変革を迫る。30年前に「二世帯住宅」を初めて提唱した旭化成ホームズ。当時は人口が増加していたため、狭小な土地に2〜3階建ての住宅を建てるアイデアがヒットした。だが同居の子供らが家を離れ、残された独居の高齢者には階段の昇降は難しい。「都市部で親子2代で住むモデルは役割を終えたのかもしれない」(シニアライフ研究所の岡田義弘・主席研究員)。
同社は2014年4月にシニア事業推進部を立ち上げ、自立生活を送れる60〜70代の高齢者を対象にした、見回りサービス付き住宅の建築構想を進めている。
■危機2:未整備の法律、インフラ…医療・介護崩壊
高齢者が急増するとともに医療や介護の需要も増える。しかし、それを支える東京の基盤は心もとない。国内法が障壁になっている事例もある。
商社では珍しく医療関連ビジネスを進める三井物産。3年前にマレーシアの政府系投資会社が保有していたアジア最大の病院グループの株式を取得し経営に参画した。
シンガポール、インド、中国など10カ国で40近い病院(約6000床)を運営するほか、米国では医師など医療人材の派遣業も手掛ける。「チャンスがあれば日本の医療向上に貢献したい」(鷲北健一郎メディカル・ヘルスケア事業第一部長)。アジアなどでノウハウを蓄積する先に、老いる東京を中心とする日本市場を見据えている。しかし、営利企業は病院を開設できないという法律が事業化を阻む。
亀田総合病院(千葉県鴨川市)の亀田信介院長は「東京は世界で最も高齢化が進む都市になるが、法整備を含めたインフラが整っていない。地方ではなく、東京で近い将来、医療崩壊が起きるだろう」と警鐘を鳴らす。
「東京での事業展開は経営的にかなり厳しい。保育園やショートステイ、小規模多機能施設などの併設による補助を使って、何とか回している状態だ」
特別養護老人ホームを中心に、東京都内で6カ所の施設を運営する社会福祉法人、こうほうえん(鳥取県境港市)の廣江研理事長はため息をつく。
全国屈指の過疎地である鳥取での成長に限界を感じ、東京進出を果たしたのが8年前。だが手始めに東京都北区の浮間に建設した特養(115床)は昨年度、1800万円の赤字を計上した。
急速に高齢化が進んだ地方では、早くも高齢者の人数が減少に転じている自治体が相次いでいる。地元の介護需要の先細りに危機感を抱いた地方の社会福祉法人などの東京進出ラッシュが起きている。東京都内では地方発の特養が2012年に9件、2013年には7件建設された。しかし、もくろみ通りに成功している事例は多くないという。
その理由の一つが特養を巡る細かな規制。例えば、個室の面積基準は13.2平方メートルと決まっているため、間取りを自由に設計でき、立地や部屋の面積に応じて柔軟に賃料が決められるサービス付き高齢者向け住宅と比べ、収益を上げにくい仕組みになっている。
だが最大の難題は都心の地代の高さだ。「坪単価95万円を超えると採算が合わない」(廣江理事長)という現実に阻まれ、実質的に東京23区の多くの場所で、特養を黒字運営できないことになる。
東京で増え続ける高齢者と、それを受け入れる介護施設の不足。大都市の高齢化問題に警鐘を鳴らす小峰隆夫・法政大学教授は「介護を受けられない高齢者が東京から出ていくことも想定される」と語る。高齢者の受け皿を巡って、3年前に杉並区の田中良区長が掲げた計画が波紋を呼んだ。
計画は杉並区が静岡県南伊豆町に持つ児童向け施設を特養に転用するという内容。杉並区から電車などを乗り継いでも4時間かかる遠隔地に高齢者を移住させることになる。家族が面会に行きにくいことから、「現代のうば捨て山ではないか」との批判が噴出した。
杉並区で特養に入所できていない希望者、いわゆる「待機高齢者」は2014年6月時点で約1900人に上る。特にこのうちの1000人はすぐにでも入所が必要な高齢者だという。この問題を解消するため、2021年までに1000床分の特養新設を計画しているが、区内の土地だけではとても対応できない。田中区長は「南伊豆の地代は杉並の20分の1以下。浮いたお金を建物やサービスの拡充に回せば、高齢者に素晴らしい環境を提供できる。現実と理想を斟酌(しんしゃく)した上で、最善の方法だと思う」と利点を強調する。
特養の一部を地元に開放することから、南伊豆町は待機高齢者の解消と雇用創出効果を見込み、建設に前向きの姿勢を見せている。当初は反対していた静岡県もここにきて賛成に回ったことから、混迷の末に2014年秋にも3者間で特養建設の基本合意書が交わされる運びになった。
政府は“杉並モデル”を広げようと、移住元の自治体が介護保険料を負担する「住所地特例」の適用拡大へ動き出している。一方、東京都やほかの区などは静観の姿勢を見せる。現時点ですら都内全域の待機高齢者は4万3000人に達しており、早急な対策が必要だが、先行きは不透明な状況だ。
■危機3:中小企業が育たない…消失する企業
高齢者がひしめく東京は、若者にとっては息苦しさが増すばかりだ。岩手県の郡部出身の矢上真鈴さん(仮名、21歳)は介護関係の専門学校を卒業後、上京した。東京で就職する志を持っていたが、説明を聞くうちに気が変わった。
「介護士で正社員になっても手取り月収は15万円。東京だとマンションに住んで食事するだけで消えてしまう。好きな洋服すら自由に買えないのは嫌だ」。現在は東京都新宿区の飲食店で週5日働いている。
介護施設などでの働く場を求めて地方の若い女性が東京に引き寄せられる。だが、満足のいく職を得られず、非正規雇用に甘んじるケースも増えている。10〜20代の独身女性の3分の1が年収114万円未満の貧困層だというデータもある。カツカツの生活を送る環境が婚期を遅らせ、少子化に拍車がかかる──。この負のスパイラルが東京の人口構成をひずませている。
正規雇用の受け皿となるべき中堅、中小企業が東京で育たない状況がこれに追い打ちをかける。上のグラフが示すように、東京都の企業数は2012年までの3年間で8.7%減少した。リーマン・ショックによる倒産や、過当競争で淘汰された影響もあるが、全国平均の7.9%減と比べても高い数字だ。市場縮小を受け、東京の地銀ですら統合の道を歩み始めた。
「世界企業となったソニーも当行の取引先から巣立った会社。今は当時のように中小企業を育てられているかというと、そうではない」と東京都民銀行の柿粼昭裕頭取は語る。同行は昨年、同じ東京に地盤を置く八千代銀行との統合を発表した。2行は過疎化が進む地方に比べて取引先企業も多く、地銀の中では恵まれているようにも見える。だが、両行は東京という市場の行方に強烈な危機感を持っていた。
東京を地盤とする八千代銀行と東京都民銀行が統合を決意。東京の企業育成に向けて、攻めの姿勢を貫く
東京を地盤とする八千代銀行と東京都民銀行が統合を決意。東京の企業育成に向けて、攻めの姿勢を貫く預金量は都民が2.4兆円、八千代が2.1兆円。中堅企業に強い都民と中小・零細企業に強い八千代と得意分野が異なり、支店の重複も少ない。柿粼頭取は「攻める時期だからこその統合だ」と語るが、余力があるうちに統合し、成長が鈍化するまでに体力をつけておきたいという本音が透けて見える。
八千代銀の酒井勲頭取が「最近、東京で活躍する大企業は地方でビジネスモデルを作り上げて進出してくるものばかり」と語るように、企業を育む東京の力は衰えている。ライバルがひしめき合って過当競争に陥るだけでなく、企業の系列に組み込まれて斬新なビジネスモデルが生まれにくい。
東京の隣にある神奈川県でも企業数は7.1%減少している。黒岩祐治知事は特区を申請し、医療や介護、ロボットなど成長産業の研究開発拠点の新設を狙う。「最先端の英知が世界から集まる拠点にしなければ、神奈川県の未来はない」。黒岩知事は強い懸念を示す。
成長のエンジン役が期待される東京圏の産業基盤が弱くなることは、日本の将来に暗い影を落とす。人口動態の変化は市場としての東京の魅力も失わせかねない。
下に示した日本政策投資銀行の試算を見てほしい。多くの過疎地を抱え、高齢化と人口減少の渦に一足早く巻き込まれた東北や中国地方では、2035年にかけて食料品や洋服、外食といった身の回りの消費が軒並み急減する。都市圏を抱える関西や東海地方も食料品以外は大きな減少が避けられない。
注目すべきは首都圏だ。高齢者ほど支出が多い食料品こそ伸びを続けるものの、若年層が市場の担い手である洋服や外食、教育などは2035 年には1割前後小さくなる。需要が縮めば、企業間の競争は激化し、やがて力のない企業は淘汰され、消えていく。「勝ち組」である東京に橋頭堡(きょうとうほ)を築けば、企業としての成長の足がかりをつかめる──。こんなモデルが通用しなくなる時代はもうそこまで来ている。
■針路:人材、企業、資源を呼び込め…東京圏は世界と競争
戦後、一貫して国内の人材と資源を吸収し、膨張してきた東京圏。2020年の東京五輪開催は地方の若者をさらに引き寄せる強い磁力になりそうだが、少子化や首都直下型地震が起きた場合のリスク、介護や医療の持続可能性の観点からも、これ以上の一極集中に真剣に歯止めを掛ける段階を迎えている。
東京圏で子育て支援拡充や介護・医療サービスの基盤整備を急ぐのは大前提だ。それと同時に、何十年もかけて形成されてきた東京圏への人の流れを逆流させるための支援策もポイントになる。既に見たような東京圏での介護や医療サービスの脆弱性を踏まえ、高齢者や「元気なシニア」世代などが地方への住み替えを検討するケースの増加が見込まれる。受け入れ自治体とのマッチング機能や情報提供の強化など、個人の意思決定を側面支援する制度整備が検討課題に挙がっている。
その一方で、東京圏はグローバル経済に対峙する日本の成長エンジンとしての責務を負う。今後は世界の主要都市と同様に海外の高度人材や企業、資源を一層呼び込み、イノベーションや知の拠点としての魅力や競争力を高めることが欠かせない。法人実効税率の引き下げや国家戦略特区を利用した規制緩和など世界の都市間競争に向けた条件整備も必要になる。
世界の都市と競争する東京圏と主に域内経済で食べていく地方との補完関係を構築することが日本全体の強さにつながる。
[日経ビジネス 2014年8月4日号の記事を基に再構成]