藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

相手は誰か。

数年前、フィリピンの若手政治家のホープの秘書を務める友人に「あなたのボスの魅力は何か?」と聞いたら"doesn't corrupt"との即答。
政治の腐敗臭に嫌気がさして立ち上がり、民衆の支持を得る人は政治が途上から進化してゆくタイミングで出てくるものである。

腐敗で名高い中国もいよいよそんな時期だろうか。
数十年前の日本も元閣僚が摘発されたりということがあったが、今はかなり少ない。
今の日本は腐敗防止よりも財政問題の方が深刻なのだろう。

それにしても閣僚級だけで50人、総勢20万人という摘発の規模には驚かされるけれど、それだけ急ピッチで体質改善が進んでいるともとれる。
翻って日本を見れば、日常の生活では汚職やわいろなどはあまり目につかないけれど中国よろし「既得権益の攻防」は目にしない日はない。
○○保護とか△△手当、とか□□控除とか年金だって広い意味での既得権益だし、しかもこれは違法ではないから始末が悪い。
あるものをなくせば必ず反対の声が上がるし、一度「もらえると思ったもの」は取り上げられることに我われは条件反射的に抵抗するものである。

どうもこの感じで行けば、結局雁字搦めになって政治が立ち行かなくなるのは日本の方なのではないかと思う。
予算は成立間近だけれど、到底国の借金はなくなりそうにないし、国債がいよいよ発行できなくなって借金の踏み倒ししかない、と皆が心の底では感じているような気がする。
税金とか年金とか健康保険とかは、そんな大波乱のリセットを経てでないと制度の再設計には至らないのではないだろうか。
だとしたら少しは自分で何かできることを準備しておかねばならないに違いない。
これからのキーワードは"脱・現金"ではないだろうか。

3年目に入った中国の「反腐敗」、次の一手は  編集委員 飯野克彦
2015/1/12 7:00日本経済新聞 電子版
 20分ほどの「顔見世興行」だったらしい。2014年11月14日の午後3時ごろ、中国共産党の規律問題を担当する最高責任者、王岐山・中央規律検査委員会書記(66)が、安徽省桐城市の六尺巷という街に姿をあらわした。
■反腐敗キャンペーン指揮官の演出

習主席は反腐敗運動を加速させている(2014年12月、北京の人民大会堂)=ロイター
 黒いジャケットを着た王書記がマイクロバスから降り立つと、歓声と拍手があがる。こたえて王書記は右手をあげ、笑みをみせる。上海を拠点とする新興のニュースサイト「澎湃新聞」は、居合わせた市民が携帯電話のカメラで撮ったという短い動画をアップし、そんな様子を伝えた。ただ、新華社や中央テレビ、人民日報といった「主流メディア」はほとんど報じていない。澎湃の記事はこの訪問を「低調」(目立たないように)と形容した。
 中国で習近平国家主席をトップとする今の指導部が発足し、王書記が規律検査委のトップに就いたのは、12年11月15日。つまり就任からまる2年に当たる日に、六尺巷を「低調」に訪れたわけだ。どんな思惑があったのか――。
 手掛かりは、王書記の訪問の4日後に規律検査委のサイトにアップされた文章が提供した。「六尺巷」という地名が、清朝の清廉な高官にまつわる故事に由来することを説明し、この高官を学ぶべきモデルとしてたたえている。この文章が王書記の動静に触れているわけではないが、澎湃などの報道と組み合わせれば、王書記の思いも見えてくる気がする。
 王書記はこの2年間、反腐敗キャンペーンの陣頭指揮をとってきた。地名そのものにうるわしい故事を刻んでいる六尺巷を訪問することで、腐敗撲滅への決意を演出してみせたのではないか。官製の報道ばかりしている主流メディアでなく、小回りのきく新興メディアを通じて市民の歓迎ぶりを見せつけることで、既存メディアにつながる既得権益勢力をけん制したようでもある。
■摘発者は20万人超
 反腐敗キャンペーンの実績はだれもが認めるところだろう。この2年で摘発したのは、閣僚・次官級以上の大物だけで50人を超え、地方の党官僚など小物も含めると20万人を超えるとされる。わけても、2年前まで最高指導部の一角を占めていた周永康・前共産党政治局常務委員を摘発したのは、画期的だった。共産党には現役かOBかを問わず最高指導部に名を連ねた高官には手をつけないとの不文律があった、とされるからだ。実際、政治局常務委員の経験者を汚職で摘発したのは1949年の建国以来はじめてとみられる。
 その後も、胡錦濤国家主席の側近として知られた令計画・党中央統一戦線部長や張昆生・外務次官補、南京市トップの楊衛沢・南京市共産党員会書記らを、新たな摘発の対象として公表した。キャンペーンは一段と加速したようにもみえる。ただ、今後を展望すると、周氏に匹敵するような大物にさらにメスを入れるかどうかは疑わしい。
 「当面は治標を主体とし、治本のための時間を稼がねばならない」。2013年1月、王書記は規律検査委の会議でこう語っていた。治標とは対症療法の意味で、治本は根本治療のこと。しばらくは腐敗の摘発に力を入れ、時間をかけて腐敗を防ぐための仕組みづくりを進めよう、というシナリオを示したわけだ。14年1月にも同じような発言をしている。

 今年も1月中に規律検査委の重要会議が開かれる公算は大きいが、今回、王書記は重点を入れ替えるとの見方が出ている。対症療法である摘発よりも、根本治療である制度づくりに精力を傾ける方向へと転じるとみられるのだ。新年早々の1月5日、規律検査委のサイトにアップされた文章は「組織と制度の刷新」を強調し、そんな見方を裏書きしている。
■党近代化の狙いも

反腐敗キャンペーンの陣頭指揮をとる王書記=右(写真は2008年12月、副首相当時)=共同
 この文章で特に注目されるのは「腐敗に対する取り組みは上級の規律検査委の指導を主とする」と主張しているところだろう。公式の枠組みとしては、各クラスの規律検査部門は同じクラスの共産党委員会と上級の規律検査部門の双方から指導を受けることになっている。いささか乱暴なたとえをするなら、東京地検が都庁幹部の汚職を摘発するのに最高検都知事の双方の判断をあおぐ必要がある、という仕組みだ。
 この「双重指導体制」の大枠は踏まえながらも、上級の規律検査委の指導を「主」と主張することで、文章は党内における規律検査部門の足場を強固にしようとする方向を打ち出している。いわば共産党のあり方そのものを制度的に改めようとしているわけだ。共産党の内側に権力均衡の仕組みを整えることで党を近代化しようとする試み、ともいえる。
 「われわれの任期は有限だ」。文章にはこんな一節も出てくる。共産党人事の基本は5年サイクルで、王書記も就任から5年になる17年に引退する公算が大きい。折り紙つきの指導力を持つ王書記が退いたあともしっかり機能する規律検査の体制を整えることが、残る任期およそ3年の最重要の課題といえよう。
 それはまた、逆恨みも含めて多くの党員の恨みを買い、これからも買うことになるであろう規律検査部門の職員とその家族たちが、将来にわたって報復を受けたりしないよう制度的に保障しよう、とする取り組みでもあろう。六尺巷で見せつけたような国民の支持があるとしても、共産党内で相当の政治的な支持を得られなければできる仕事ではない。
江沢民氏の長男の名も
 海外の中国語メディアの報道の中には、周氏の次に摘発される可能性のある大物として李鵬・元全国人民代表大会全人代、国会に相当)常務委員長の一族や、江沢民国家主席の長男の名前などが登場している。だが、李氏や江氏の親族にメスを入れようとすれば政治的な反発も強烈になるのは間違いない。そこまで大きなリスクを王書記がおかすかどうか。まして、王書記の後ろに控える習主席は、慎重な政治的な目配りを欠かさないはずだ。
 最後に蛇足だが、王書記が目指しているのはあくまで共産党の近代化であり、中国全体の近代化には決して前向きといえないことに注意を促しておきたい。六尺巷への訪問に見られるように、王書記の言動からは近代以前の中国の経験を積極的に評価する傾向がうかがえる。昨年11月に日経本紙でも触れたことがあるが、自由や民主にはむしろ後ろ向きにみえる。王書記が今年から本格的に進めるとみられる規律検査体制の改革は、一党独裁体制を一層強固なものとする可能性を秘めている。

飯野克彦(めしの・かつひこ)
1983年日本経済新聞社入社。北京支局、バンコク支局長、中国総局長、ベンチャー市場部長などを経て2008年編集委員。専門は中国、東南アジアを中心としたアジア情勢。