経済インサイドより。
知り合いの洋食店で昨年軒並みバターが不足していた訳がわかった。
輸入の問題と補助金の関係だった。
それにしてもバターが手に入らない洋食店は悲壮感が漂っていた。
あんな光景は戦後の物資不足の話を聞いて以来だったけれど、世界的に不足していた訳ではないのだ。
流通がIT化され、在庫とか生産計画がどんどん効率化されると、一旦「どこか」で滞りが生じると途端に消費に影響が出る時代になった。
震災の時の水不足や紙不足はまだ記憶に新しくて恐怖感があるけれど、だからといって潤沢に在庫を抱えるのも大変なことである。
それはともかく。
バター行政というか"補助金行政"の話には嘆息する。
生産する品目を政治が誘導してそこに「キロ当たり」の補助を出す。
勢いそっちに生産者も群がってしまうのだが、いつしか「補助金ありき」の体質になるのは麻薬と同じ理屈である。
既得権益というのは恐ろしい。
生活の一部に入り込んで、いつしか体全体の体質を変えてしまうのだ。
年金とか○○手当とか、△△補助とかもそうだ。
いつしか「あるのが当然ではないか」という論調に代わり、自分自身でもそれを疑わなくなる。
補助金を出したりして誘導するのは(きっかけ作りとしては)いいけど、「補助があって当然」というのはよほどの事情がない限り続けるべきではないだろう。
すべての食材をグローバル化して、健康不安や品切れのリスクを誘起するのも困るが、国産に何を残すのか、ということを今一度明確にしないと、途端に「補助金配分と天下り」のための箱ものが居座ってしまい幅を利かせることになる。
一度できてしまった既得権益を元に戻すのは非常に難しいことは今の日本の共通の体質である。
国産の米やバターを確保するのなら高くともよいのか、それともより安心できる外国産を作っていくのか、といった農業行政は今再び話題のTPPなどの価格や関税の話よりも重要なことに違いない。
守るものは国を挙げて守れば良いし、また余分な「補助金ごかし」は無駄に延命させるだけで結局解決には向わない。
これからの日本の農業と食料について改めて方針を決めるべき時期が訪れているのではないだろうか。
それにしても現在の農協を始め、「旧体制に紐づいていた勢力の抵抗」はすごい力だし、"これ"を振り払えるかどうかはこれからの日本の産業にとっても非常に重要なテーマだと思う。
行政主導ではなく、日本人の意思をはっきりさせていくべきだと思うのである。
2015.1.30 11:00
【経済インサイド】「失政」「天下り利権」バター不足で指摘される“きな臭い背景”バターが品薄になり1人当たりの購入量を制限した大手スーパー=平成26年11月28日、東京都内 昨年末に巻き起こった「家庭用バターの不足問題」。農林水産省の要請を受けた乳業大手4社が増産したものの、需要最盛期のクリスマス前まで品薄は続いた。同省の説明では、品不足は昨夏の猛暑の影響で原料である生乳の生産量が落ち込んだことが原因とされる。だが、同じ乳製品の牛乳やチーズが普通に売られる中、バターだけが品不足となるのは何とも不思議だ。どうやらその背景には“きな臭い”問題もあるようだ。
緊急輸入、増産要請も間に合わず
農林水産省は昨年12月4日、家庭用バターの品薄に対応するため、乳業大手4社に要請し、12月の小売店などへの供給量を11月に比べて約33%増やすと発表した。最も需要が高まるクリスマス前に供給を間に合わせるためだ。
増産率は平成25年12月(前月比22%増)よりも高かった。ただ、供給量は1846トンで昨年12月(1811トン)とほぼ同程度。増産と言い切れるかは疑問で、年末に差し迫った衆議院選挙前だったということもあり、「自民党政権のアピールの一環だったのでは?」との憶測も広がった。
だが、各乳業大手も生産計画を大きく変えるには時間がかかったため、結果的にクリスマス前後も品薄状態は続いた。西川公也農水相は先月末の会見で、「(クリスマスの)需要期に間に合わなかったことは、反省しなければならない」と陳謝。政府は対応の一環として11月末までにバター7000トンを緊急輸入したが、西川氏は「もう少し前でも対応できたと反省している」と非を認めた。
農水省によると、家庭用バターの品不足は猛暑だった昨夏の影響で原料である生乳の生産量が落ち込んだことや、乳牛数が減ったことが要因とされる。また、生乳は鮮度が求められる牛乳向けなどに優先的に使われるため、保存できるバター向けは後回しにされることも影響したという。だが、品薄の理由は他にもあるらしい。
チーズ向け補助金が「足かせ」
農水省は近年、需要が伸びつつある国産チーズの供給を増やすため、数年前から「チーズ向け生乳供給安定対策事業」をスタートさせている。昨年からは、チーズ製造に関わる乳業メーカーや酪農家に対し、52万トンを上限にチーズ向け生乳1キロ当たり15.41円の補助金が支給されている。これはバターに対する補助金より高い。
全体で52万トンという上限があるため、乳業メーカーなどはバターより優先して「我先に」とチーズ増産に動き始めた可能性も高い。その結果、「バターの生産量が減らされた」と予測するのは当然だ。
その証拠に25年度の生乳生産量は牛乳など向け(1.1%減)や特定乳製品向け(8.1%減)が減少する中で、チーズ向けは3.4%増加している。26年度(4〜11月)も乳製品向けのうち脱脂粉乳・バターなど向けは7.5%減と大きく落ち込むが、チーズ向けは1・9減と減少幅は小さい。
関係者からは「政策でチーズを増産した結果バター不足を招いたとなると、農水省の失政とも判断されかねない」との指摘もあり、農水省は内心でおびえているとか…。
北海道以外で作ると損する?
さらに生乳生産量の半分以上を加工用に出荷する酪農家に支給される「加工乳補助金」の存在も見逃せない。これは、生乳をバターや脱脂粉乳等などに利用した場合、全体で180万トンを限度に1キロ当たり12.8円が支給される補助金で、正式には「加工原料乳生産者補給金等暫定措置法」と呼ばれている。
ただ、補助金の支給条件である生乳生産量のうち半分以上を加工原料用に出荷できる酪農家は、北海道のようにバターなどの加工工場が集中している地域にしか存在しないのが現状。つまりは北海道の酪農家のための補助金なのだ。
鮮度が求められる生乳はすぐに加工しなければならない特性上、酪農家の近くに加工工場がなければバターは作れない。そんな地域は北海道にしかなく、それ以外他の自治体でバターを作れば価格競争力で圧倒的に不利になる。全国的にバター生産が行われない、こうした構造的問題が品不足を招いたとも指摘されているのだ。
バターの高い関税は天下りの原資?
バター不足を受け農水省は今年度に1万3000トンのバターの追加輸入を決定したが、この輸入制度もきな臭さを醸し出している。
国産が足りなければ民間の事業者が輸入すれば済むが、実はバターの輸入は農水省の天下り団体とされる「農畜産業振興機構」が独占的に行っているという。国内の酪農家を守る目的で、輸入には他製品よりも高い関税がかけられている。同じ乳製品でもチーズの関税率は29.8%だが、バター類は29.8%に従量税として1キロ当たり985円が上乗せされる。
さらに輸入業者などが買い取る際には同機構に1キロ当たり806円の“上納金”(マークアップ)を支払わなければならず、バターは国際価格の3倍近くに跳ね上がっているというのだ。上納金は天下り官僚を養う原資になるとされ、こうした「バター利権」の確保がバター輸入を阻害しているという噂もある。
農水省のチーズ増産政策のあおり、北海道偏重によるバター生産の構造的課題、天下り団体によるバターの高関税…。西川農水相は先月の会見で「(バター供給に関する)今の制度が万全とはいえないとは思うが、決して支障を出さないで行けるだろうと考えている。当面このような形を取らせていただきたい」と強調。“現状維持”を貫く姿勢を鮮明にした。
端から見たら明らかに正常ではない日本のバターの供給体制…。果たしてバター不足の真相はいかに?