藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

オーケストラ。

ヨーロッパの一流オーケストラ。
ベルリン、ウィーン、ロンドン、パリ。
ここの楽団員というのはメジャーリーガーとか世界的なフットボールプレイヤーに似ている。
全員がスターなのだ。
この度のサイモン・ラトルの騒動はともかく、「ライオンたち」を束ねて統治するのは容易ではないだろう。

ラトルはベルリンフィルを「世界で最も恵まれたライオン調教師」と例えたというが、トッププレイヤーを統べることの難しさに違いない。

最近、ITの世界にも「オーケストレーション」という言葉が入ってくるくらい、この「統合的調整」というのはこれからの話題なのだと思う。
また、ある組織に参加する「個々のメンバーの能力」が高いほどこの統率は難しくなるだろう。
「個体の能力差」をベースとしたボス的統治のリーダーシップは発揮しにくくなるのに違いない。
そんな中でロンドン・フィル監督のティモシー・ウォーカー氏は、

相互会社では「全員が常に最高の演奏をすることに将来がかかっている」と言う。

つまり「個体差」こそが勝負のプレイヤーたちの世界であっても、それらを束ね「最大値を引き出す」ことが自分たちの将来を約束するのだ。
個体だけの勝負の時代ではない、ということをこの記事は示唆しているような気がするのである。


[FT]ベルリン・フィル、指揮者交代に民主主義の調べ
2015/7/3 6:30日本経済新聞 電子版
 ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団サイモン・ラトル氏の後を継ぐ次期首席指揮者にキリル・ペトレンコ氏を選んだことは、そもそも決断を下したという事実ほどは目を引かない。世界で最も民主的な音楽事業の一つである総勢124人のこのオーケストラは5月、11時間に及ぶ議論と数回の投票にもかかわらず、決断を下せなかった。

 今回は秩序が回復され、ペトレンコ氏が民意の選択として浮上した。才能に富み、時として手に負えない音楽家の集団を率いる仕事の難しさを同氏はこれから感じるだろう。ラトル氏はかつてこの仕事を「世界で最も恵まれたライオン調教師」になぞらえたことがある。音楽家は演奏しているときはリーダーの指揮棒に従うが、舞台裏では誰もが遠慮なく自由に議論する。

 これは達成するのが難しいバランスだ。ベルリン・フィルは戦後、ヘルベルト・フォン・カラヤンの指揮下で世界的に有名になった。カラヤンは華がある支配的な演奏家で、マエストロという言葉は彼のために発明されたのかもしれないほどだ。指揮者は皆、オーケストラに権威を示さなければならない。さもなければ、すべてが醜い小競り合いに陥る恐れがあるからだ。

営利企業に対するあり方提示
だが、経営の簡素化や財務力、規模の経済性のために相互会社やパートナーシップが営利企業に姿を変えることが多いこの世界で、ベルリン・フィルは一つの指針だ。同楽団は人材のパートナーシップを管理するのがどれほど難しくても、時として並外れた結果を生み出すことを示している。

 ロンドン交響楽団を含む他のオーケストラと同様、ベルリン・フィルも反乱から生まれた。演奏家のグループが指揮者の意思に反抗し、協同組合を立ち上げたのだ。ベルリンでは1882年、ロンドンでは1904年にこうしたことが起きており、オーケストラの世界では自己統治が一般的だ。ロンドンのオーケストラはすべて(BBC交響楽団は数えない)、パートナーシップだ。

 オーケストラに限ったことではない。弁護士、会計士、コンサルタント、その他の専門職はよく、それぞれの才能を合体させるためにパートナーシップを組む。だが、そうしたパートナーシップがどれほど団結していると主張しようとも、世界中をツアーし、一緒に演奏し、同じホテルに泊まることはない。ベルリン・フィルは極限のパートナーシップであり、それがうまく機能するのには3つの理由がある。

 第1に、規模が小さい。オーケストラとしてベルリン・フィルは大きい方で、コンサートマスター(リードバイオリン)が4人いるが、これ以上大きくなる意味はあまりない。音楽は資本集約的ではないし、オーケストラというものは、マーケティング代理店が広告世界最大手の英WPPグループの傘下、出版会社が仏系出版大手アシェット・フィリパッキ・メディアの傘下に収まっているように、一つの持ち株会社の下に効果的にまとめることはできない。

 これはオーケストラがゴールドマン・サックス証券などの金融機関が歩んだ道、つまり、資本市場へのアクセスを得て大きくなる(さらに既存のパートナーを裕福にする)ためにパートナーシップを解散させる道をたどらないことを意味している。同じような(道をたどる)衝動にかられたことで、英国では保険相互会社や住宅金融組合の数が減り、保険加入者や貯蓄家、借り手に心もとない結果をもたらした。

■開かれた野心的な組織
小さいままでいることは、参加民主主義も可能にする。ベルリン・フィルのバイオリニストで、財団役員会(4人)のうち2人の演奏家メンバーのひとりであるスタンリー・ドッズ氏は、ベルリン・フィルの奏者は「存在するすべての委員会、すべての形態の監視機構に入っている」と言う。新しい指揮者を決める投票などの珍しいケースでは、団員全員が一つの部屋に収まる。

 第2に、組織が開かれている。ベルリン・フィルは強烈な「ドイツ的な音」で知られているが、今はとりわけドイツ的ではない。23人の第1バイオリンのうち、ドイツ生まれの奏者は7人しかおらず、音楽家アルバニアやブラジル、ルーマニアなど、その他13カ国から来ている。戦後の指揮者――カラヤンクラウディオ・アバド、ラトル氏、それにペトレンコ氏――は誰もドイツ人ではない。

あらゆる相互会社は、外を向くよりも、仕事と既存メンバーの利益を守るために内向きになる衝動に駆られる。英国のギルドは16世紀に、宝石職人や金属加工職人といった専門技能職の流入について不満をこぼした。この罠(わな)に落ちた人は競争力を失うが、ベルリン・フィルはこれにあらがっている。

 これと関係した第3の点は、ベルリン・フィルが野心的だということだ。まず仮入団の枠を獲得し、終身地位を得るために2年後に他の楽団員の3分の2の支持を得ることは非常に難しい。そこから競争が本当に始まる。上位の席を巡るオーケストラ内の競争だけでなく、トップ10のランキング入りを果たすための世界中の都市にあるオーケストラとの競争だ。

 最も声高に主張する奏者は大抵、現在の栄光に満足せずに、結果をさらに良くしようとしている。オーケストラに契約で参加するフリーランスの音楽家は長期的な利害を持たない。ロンドン・フィルハーモニー管弦楽団の代表兼芸術監督のティモシー・ウォーカー氏は、相互会社では「全員が常に最高の演奏をすることに将来がかかっている」と言う。

 これはプライドだけでなく、お金の問題でもある。オーケストラは本拠地で演奏するために政府から助成金を得ている(ベルリン・フィルベルリン州政府から一部出資を受けている)が、収入の大半はレコーディング契約と外国ツアーから得る。楽団員たちはオーケストラのため、そして自分のキャリアを高めるために、世界の舞台にとどまりたいと考えるわけだ。

 音楽家が自分たちを管理することには落とし穴がある。アーツカウンシルが15年前に、レコーディング契約での損失を補償するためにロンドンの複数のオーケストラを救済したとき、各楽団の役員会にビジネスと資金調達の専門知識を持った人を登用させた。

 自己統治は容易ではないが、意見が対立し、マエストロからマエストロへと指揮棒が渡っても、ベルリン・フィルはいつもと変わらず美しく演奏し続ける。これこそがハーモニーだ。
By John Gapper
(2015年7月2日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
(翻訳協力 JBpress)
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