藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ああ積み重ね。

心眼を開け。
後期は常に眼前にあり』
座右の銘にしている藤田田さんの言葉だけれど。
これまで何度も「いやその通り」と思わされたが、またそれだ。

自分たちは「セブンのビンブンがね」とまるでキャラクターのように鈴木元会長のことを話題にしてきた。
やれざるそばの出汁を取りに漁船に乗って鰹節を取りに行ったらしい、とか。

もはや20億杯を得るというセブンイレブンの100円コーヒー。
1980年から20余年、4度の失敗にもめげずの特設チームが組まれたという。
その執念には頭が下がるが、2011年の再挑戦から「3年でスタバに追いつく930億円」を達成したというのも並ではない。

■コーヒーマシン……富士電機
■コーヒー豆……AGFと三井物産
■紙コップ…… 東罐 ( とうかん ) 興業
■氷……小久保製氷冷蔵
ブランディング……佐藤可士和氏(アートディレクター)

妥協のない徹底した姿勢にも恐れ入るが、質の良い機械と食材を追求しても「最後におしゃれなデザイン」がとどめを刺している。

それにしても。
デザインとかブランディングって「最後の掛け算」には大事なものなのだ。

セブンイレブン4回の失敗からコーヒー20億杯
マーケティング戦略アドバイザー 永井孝尚
セブン―イレブンのセブンカフェをはじめとするコンビニコーヒーが人気を集めている。ビジネス街では、出勤前にコーヒー目当てのサラリーマンがレジの前で行列をつくる光景はすっかりおなじみとなった。しゃれたカフェや落ち着いた喫茶店がしのぎを削る中、なぜコンビニコーヒーは消費者の支持を得て売り上げを伸ばしているのか。マーケティング戦略アドバイザーの永井孝尚氏が、セブンのコーヒー戦略を解説する。

「コーヒー問題」を解決

  • すっかりおなじみになったセブンカフェ(東京都千代田区で)

 4年前。当時会社員だった私は満員電車を避けて、毎朝6時半に勤務先のオフィスに到着するのが日課だった。

 この時の悩みが、「コーヒー問題」。私は毎朝コーヒーを飲んで気合を入れるのだが、朝6時半に飲めるコーヒーは、自販機のインスタントコーヒーだけ。この時間帯においしいコーヒーを出してくれるカフェがなかったのである。

 2013年初めになって、友人たちがFacebookやTwitterで「セブンの100円コーヒーがうまい」と書き込み始めていた。飲んでみると、確かに本格派レギュラーコーヒーでおいしい。おかげで私のコーヒー問題は解決できた。

 「素晴らしい!24時間365日、おいしいコーヒーが飲めるなんて!」と思ったものだ。それから3年半。相変わらずセブンカフェは絶好調だ。

セブンカフェは20億杯

 セブン―イレブン・ジャパンの発表によると、セブンカフェ累計販売数は、13年1月の発売開始以来、16年2月時点でついに20億杯。15年度は8.5億杯、売り上げは930億円にものぼる。

 スターバックスコーヒージャパンが株式公開していた12年度の売り上げは、スターバックスコーヒーの店舗全体で1113億円なので、わずか3年でスタバの売り上げに追いついた。

 そもそもセブンカフェは、いかにして100円でおいしい本格派レギュラーコーヒーを提供しているのだろうか?

 実は失敗の連続だった。

30年で4回の失敗

  • 1杯ごとにいれる専用のコーヒーマシン

 初挑戦は1980年代前半だ。当時、セブンは店頭で弁当、ハンバーガー、サンドイッチの品ぞろえを増やしてきた。これらとコーヒーの相性は良かった。そこでコーヒーサイフォンを店頭に置き、注文のたびに小分けして売っていた。しかし鮮度を保つには1時間ごとに作り直す必要がある。忙しい店舗で対応するのは難しかった。

 2回目の挑戦は、1988年。コーヒーマシンで1杯ずつ作るようにしてみた。しかし、ヒーターの上にポットを長時間置いているため、当時の技術では店舗内に焼き芋のような異臭が発生し断念した。

 3回目の挑戦は1990年代、こうした異臭問題の解決を目指し、カートリッジ式にしたが、今度は風味が飛んでしまい味が損なわれてしまった。

 4回目の挑戦は2000年代になってからだ。スタバのエスプレッソやカフェラテがブームになったことから、「バリスターズカフェ」を始め、若い世代を中心に人気を得た。しかしエスプレッソはコアなファン層がいるものの、「万人向け」が求められるコンビニでは売り上げを伸ばすことができず、これも見直すことになった。

5回目の挑戦に「特命チーム」

 セブン―イレブンといえば、おにぎりやサンドイッチはおなじみだが、最近は「セブンゴールド」「セブンプレミアム」といったおかずや惣菜、食品などのオリジナル商品も見かけるようになった。

 これらはセブンが単独で作っているわけではない。セブンがプロジェクトリーダーとなり、原料・製造・資材・機材などを提供するメーカーと共同で商品を開発している。セブンはこれを「チームMD(マーチャンダイジング)」と呼んでいる。

 4回の失敗を経て、5回目のコーヒー挑戦は2011年。セブンカフェもこのチームMDから生まれたものだ。セブン単独では難しかったが、チームの一員となった各社がそれぞれの得意分野を最大限に生かすことで成功に導いた。

■コーヒーマシン……富士電機

 当時、1杯ずつ豆を挽(ひ)くことができ、かつ邪魔にならないコンパクトなマシンは存在しなかった。そこでセブンは、自動販売機などで定評のあった電機メーカーの富士電機と新型の小型コーヒーマシンを共同開発。1年間を費やし、豆を挽くグラインダー、挽いた豆に空気を送り込み湯の中でかくはんする仕組み、出がらしを入れるバケツ、セルフサービスの操作のしやすさなども研究した。機械の扱いに慣れていないバイトでも、掃除がしやすいように工夫されているという。

■コーヒー豆……AGFと三井物産

 味の素ゼネラルフーヅ(AGF)に声をかけて200社の味を分析し、飲みやすさと飲みごたえの最適なバランスを探った。調達するコーヒー豆を厳選。豆を水で洗い、焙煎(ばいせん)時に雑味が残らない「ウォッシュド方式」で100%アラビカ種を精製した。4種類の豆をブレンドし、それぞれの特徴を引き出すダブル焙煎を採用。全国1万8000店舗に供給するため、調達は三井物産に要請、常に安定して入手できるルートを確保した。売り上げ拡大に伴い、後に丸紅も参加した。

■紙コップ…… 東罐 ( とうかん ) 興業

 持ちやすさ、保温性などを追求した。

■氷……小久保製氷冷蔵

 アイスコーヒー用に使われる氷を共同開発。溶けにくく、雑味の少ない氷を研究。24時間かけて不純物が少ない透明な氷の製氷を行っている。

ブランディング……佐藤可士和氏(アートディレクター)

 「セブンカフェ」というネーミング、黒と白で統一されたデザイン、カップ、ふた、マドラー、ストローなどを手がけ、ブランドイメージの構築を担当した。

2016年09月02日 07時11分 Copyright © The Yomiuri Shimbun
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マーケティング戦略アドバイザー 永井孝尚

相乗効果を生み出したコーヒー

  • (画像はイメージ)

 セブンカフェは相乗効果も生み出し、コンビニビジネスの底上げにも大きく貢献している。セブンカフェにまつわる数字をいくつか紹介しよう。

■リピート購入率 55%

 これはセブンの食品の中でダントツだ。ちなみに弁当のリピート率は40%だ。顧客の固定化に貢献している。(※1)

■男女比 5:5

 セブン利用客の男女比は6.5:3.5だ。缶コーヒーは7:3。セブンカフェは、比較的少ない女性客の来店促進に貢献している。(※1)

■併せ買い率 2割

 セブンカフェと一緒にサンドイッチ、菓子パン、スイーツを買っており、朝食と一緒に購入する人も多い。店の売り上げアップにつながっている。(※2)

■缶コーヒー販売 横ばい

 セブンカフェが登場した当初は、缶コーヒーの売り上げは落ちると思われていた。これも新たな客層を取り込んでいることを示している。(※1)

 セブンカフェの好調を受けて、ローソンやファミリーマートなどのコンビニ各社も、コンビニコーヒーに力を入れている。

 これだけコンビニコーヒーが普及すると、スターバックスなど既存カフェチェーンへの影響が気になるところだ。カフェチェーンにとっては大打撃となっているのではないだろうか?

コンビニがコーヒー市場を開拓

 実は、ほかのカフェチェーンも好調だ。

 株式公開しているカフェチェーンの15年売り上げを調べると、伊藤園傘下のタリーズは前年比6.6%アップ、ドトール・日レスホールディングス傘下のドトールのコーヒーグループは前年比2.9%アップ、スタバや上島珈琲店など街角のカフェチェーンの多くがにぎわっている。

 カフェチェーンは、コンビニコーヒーの影響を受けて売り上げが下がるどころか、成長を続けているのだ。なぜこんなことが起こるのだろうか?

 それは、コンビニコーヒーが、新しい市場を創造したからだ。そこでコーヒー市場に目を向けて考えてみよう。

日本はコーヒー後進国

 そもそもコーヒーは嗜好品(しこうひん)だ。おいしいコーヒーは、つい何杯も飲みたくなる。

 食品は、なかなかこうならない。消費量は全人口の胃袋の総量が上限だ。日本国内では少子高齢化により、総人口も1人当たりの食べる量も減少しているので、この胃袋の総量も減っている。だから食品を売る立場で考えると、限られたパイの奪い合いになる。

 しかしコーヒーは嗜好品なので、おいしくて飲みやすいコーヒーがあれば、消費量はもっと増える。つまり「おいしさ」という価値を上げて、客層を広げることで、コーヒーの消費量は伸ばせるのだ。

 実際に数字で見ると、1人当たりのコーヒー消費量は、日本が1日0.93杯だ。これは世界全体で見ると29位。まだまだ少ない方だ。

 1位のルクセンブルクは7.79杯で日本の8倍。デンマークは2.59杯、ドイツは1.86杯、イタリアは1.58杯と、多くの国が日本よりもコーヒーを飲んでいる。つまり、日本のコーヒー市場は、まだまだ伸びる余地がある。仮に日本人がドイツ人並みに飲むようになれば、コーヒーの消費量は2倍になるということだ。

コンビニとカフェは共存共栄

 コーヒーの歴史自体、高品質化と大衆化の歴史である。

 元々コーヒーは、11世紀から16世紀にかけてアラビア半島イスラム教寺院で修行僧が飲む秘薬だった。

 1970〜80年頃には、スタバのようにコーヒーのおいしさを追求するスペシャリティーコーヒーが世界に広がり、さらに21世紀になるとブルーボトルコーヒーのように豆の産地・品質を重視し、豆の個性を楽しむサードウェイブコーヒーも生まれた。

 日本におけるコンビニコーヒーの誕生は、長いコーヒーの歴史の中で、本格派レギュラーコーヒーの大衆化を果たした特筆すべき出来事なのだ。

 コンビニコーヒーによって、おいしいコーヒーが広く普及したことで、日本のコーヒー市場が活性化した。「おいしいコーヒーをゆったりと楽しむ」という体験をするためにカフェチェーンにも行くようになった。コンビニコーヒーとカフェチェーンの共存共栄が実現したのである。

 このようにコーヒーの歴史を振り返ってみると、すっかりおなじみになったコンビニコーヒーは、新たな顧客を創造したイノベーションなのである。

 ※1「アエラムック企業研究 セブン―イレブン 勝ち続ける7つの理由 強さの法則」(朝日新聞出版)

 ※2「独り勝ちの秘密を徹底解剖 セブンの磁力」(週刊東洋経済 2013/7/13号)

プロフィル
永井 孝尚(ながい・たかひさ)
 マーケティング戦略アドバイザー。1984年に慶應義塾大学工学部を卒業後、日本IBMに入社。製品開発マネージャー、マーケティングマネージャー、人材育成責任者を担当。2013年に同社を退社して独立。ウォンツアンドバリュー株式会社を設立して代表取締役に就任。製造業・サービス業・流通業・金融業・公共団体などを対象に、マーケティングに関する講演や研修を実施している。主な著書に『100円のコーラを1000円で売る方法』シリーズ(全3巻、コミック版全3巻、図解版、文庫版)、『そうだ、星を売ろう』、『残業3時間を朝30分で片づける仕事術』(以上KADOKAWA)、『「戦略力」が身につく方法』(PHPビジネス新書)がある。オフィシャルサイトは こちら )。
2016年09月02日 07時11分 Copyright © The Yomiuri Shimbun