コンピユーターのすごい進歩で人の仕事がなくなる、というのはともかく。
これまでは「相性」とか「適性」とか「偶然」なんてのどかな表現をされていたことが、次々と白日のもとに晒される時代がやってくるらしい。
血液型占いや星占いは、もう迷信でしかなくなって。
いろんな人や出来事のあるたびに「こういうことに気をつけて」なんて個別にアドバイスされて、しかもそれが結構的確だったりするのなら「占い師」は失業の可能性があるだろう。
けれど。
けれどけれど。
人間は強い(と思う)。
「失敗しますよ」と言われれば、注意する。
「問題点はここですよ」と言われれば考える。
問題点がはっきりした段階で、解決したようなものだ。
とは恩師の言葉だ。
自分の融資額の審査をコンピュータがやるのはちょっと癪だけど、自分の傾向を冷静に分析してくれる相棒だと思えば却って頼もしいやつだ。
将来のコンピューターは、統計的に、系統的に賢くて、自分たちの愚痴を聞いて慰めてくれるような存在になるかもしれない。
賢い執事か。
ターゲットは若者:将来稼ぐ力を予測する「AI融資」の狙いとは (1/3)
ソフトバンクとみずほ銀行が、AIを活用した個人向けの融資サービス「AIスコア・レンディング」を展開している。同サービスでは、AIが利用者の「将来稼ぐ力」を分析し、適切な金利を決めているという。その狙いとは……。
[鈴木亮平,ITmedia]
特集「メガバンク × フィンテック」:金融ビジネスの最前線にあるFintech(フィンテック)。モバイル決済やAI(人工知能)を活用した資産運用などのサービス、仮想通貨など、日本でも取り組みが広がりつつある。国内金融業界で圧倒的な規模を誇るメガバンクも動き始めた。なかでも、ベンチャー企業や異業種企業と協業を探る、従来の金融ビジネスと一線を画す取り組みが注目を浴びる。メガバンクの取り組みから、金融サービスの将来像を探る。
AI(人工知能)が利用者の「将来稼ぐ力」を分析し、適切な金利を決める――。
ソフトバンクとみずほ銀行は2017年9月、合弁会社J.Scoreを立ち上げ、AIを活用した個人向けの融資サービス「AIスコア・レンディング」の提供を開始した。申し込み、審査、振り込みまでの全てがスマホ上で完結し、最短30分で審査結果が分かる。
最大の特徴は、低金利を実現している点だ。例えば、「アコム」や「プロミス」といった大手消費者金融が設定している金利は、約3.0%〜18.0%。それに対して同サービスは0.9%〜12.0%である。
従来の貸金業者とは何が違うのか、なぜここまで低い金利で貸し出すことが可能なのか。J.Scoreの経営企画部、小島和敏部長によると「利用者の“将来稼ぐ力”をAIに分析させて、独自の信用基準を構築しているから」だという。どういうことか。
小島氏に話を聞いた。
AIを活用した融資サービス「スコアレンディング」。スコアに応じて金利が下がるという
「将来稼ぐ力」を分析
小島和敏部長
――J.Score設立の経緯について教えていただけますか。
小島: もともと、ソフトバンクが2015年に出資をした米国のフィンテック企業、SoFi(ソフィ)のビジネスモデルを「日本でも展開しよう」という話になったのがきっかけです。
ソフィは融資の審査などにテクノロジーを活用することで、これまで(返済能力の)信用が比較的低くかった若者でも低金利で融資が受けられるサービスを展開しています。サービスを開始したのは約6年前ですが、融資残高は既に6000億円を超えるなど、急成長しています。
ソフトバンクとみずほ銀行は、さまざまな事業で協業している関係だったこともあり、両社の共同出資でJ.Scoreを設立しました。
――従来の貸金業者とは、どのように違うのでしょうか?
小島: 従来の貸金業者は主に、「現時点での収入」から信用度を審査して融資額や金利を決めていますが、当社では「将来の収入はこう変わる」という予測を判断材料に加えています。ここが一番大きな違いですね。
当社は「こういうの属性(職種、趣味、性格、行動パターン)の人はこんな傾向がある」という相関データを基に、利用者が数年後、どのくらいの収入を得ているのか予測するシステムを構築しております。どういう属性の人だと、将来的に年収がどうなるのか、貸し倒れのリスクはどのくらいあるのか。個人に関するさまざまな情報を、任意で入力してもらうことで、利用者の信頼度をAIが点数化(スコアリング)し、金利や融資額に反映させているのです。
現時点での収入が重視される既存の融資サービスでは、他の世代と比べてまだ収入が低い20〜30代がお金を借りようとすると、どうしても金利が高く設定されてしまう課題がありました。
しかし当社では、多様な情報から将来稼ぐ力を分析し、スコアリングに加えることで、低い金利で融資することができるようになっています。また、AIスコア・レンディングでは、申し込みから振り込み(融資)まで、全てスマホ上で完結する仕組みになっており、他社のように店舗を全国に構えているわけではないので、最小限の人員で運営ができています。
例えば、他の大手消費者金融などでは、約1000〜2000人のスタッフを投入していますが、当社は100人以下です。効率的な運営によって人件費を抑えられる分、金利に還元できています。当社がこのサービスで実現したいことは「若者はお金を借りにくい」という現状をフィンテックで解決することなのです。
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あらゆる情報を組み合わせて分析
――どのような情報を分析して属性を判断しているのですか?
小島: 他社と同じように15〜20項目の基本情報(勤務形態、年収、家族構成、住宅ローンの有無など)を収集していますが、当社ではそれに加えて「休日は何をしているのか」「どんな趣味を持っているのか」「お酒はどのくらい飲むのか」「お金についてどう考えているか」「自分はどんな性格なのか」――など、100項目近い多様な質問をすることで属性を細かく分析しています。
基本的に、多くの情報を入力すればするほどスコアが上がり、そのスコアに応じて金利が下がっていきます。これは、単に「信用度が上がったから」というだけではなく、多くのデータを集めるために、インセンティブとして「スコアをプレゼントしている」という側面も強いですね。今後のためにデータを集めて、予測の精度を上げていきたい狙いもありますので。
質問に答えるほど、スコアがアップする
他にも、「情報連携」(みずほ銀行の口座登録情報や、ソフトバンクキャリアの契約情報をJ.Scoreに提供すること)をしたユーザーには、無条件で金利を0.1%下げています。
これは両社の顧客を増やしていくための仕掛けですが、もちろん、みずほ銀行やソフトバンクとの取引データも分析に加えて、「このユーザーは信頼できる」と判断できるようになった場合は、より金利が下がる仕組みにしていく予定です。
例えば既に、当社と情報連携をしたソフトバンクユーザーに関しては「こういう支払い傾向のユーザーは信用度が高い」といった相関データを基に分析をしており、スコアに反映させています。今後は電子マネーがどういうところに使われているのかなど、お金の流れも分析に加えていくことも検討しています。
ライフスタイルや価値観に関する質問をする
――AIで審査することの強みは何でしょうか?
小島: 膨大な量のデータ分析ができることで、これまで分からなかった相関性を見つけ出せることですね。
多くの20代はお金をあまり所有していません。だから従来の審査基準(年収、勤続年数、金融資産など)だけだとリスクが高くなり、当然金利も高くなる。しかし、あらゆるデータを組み合わせることで、これまで気付けなかった「信用(返済能力)」を見える化することができるわけです。
結果として「本来は低い金利で借りても大丈夫な人が借りられない」という事態をなくすことができますし、将来的には、何歳になると、どんな出費のニーズ(ライフイベント)が出てくるのかも予測できるようになるので、適切なタイミングで「借りませんか?」とレコメンドすることも可能になります。
ページ: 3個人融資の「負イメージ」を変えられるか
――若者の中でも、どのような層がターゲットですか?
小島: 主に、自己投資をしてキャリアアップを考える若者を応援したいと考えています。
個人の借り入れと聞くと「消費者金融で“生活資金”を借りて使う」といったイメージが強いですよね。
しかし、若い世代は将来に向けて留学や資格の取得など、自分への投資にお金を使いたい(借りたい)という人も多いわけです。単純な生活支援ではなく、そうした夢にチャレンジする若者に使ってもらえるサービスを目指しています。
また、20〜30代は「結婚」や「引っ越し」といったライフイベント(急な資金ニーズ)が他の世代と比べて多いのですが、資金的余裕がない人は出費を抑えるために我慢せざるを得ません。お金がないということで、貴重な「体験」や「思い出」が得られない。こうした機会損失をなくしていくことにも、貢献していきたいですね。
――最後に、数値目標について教えてください。
小島: 4年以内に黒字化を達成します。そして、10年以内に融資残高5000億円、加入者100万人を目指し、既存の(アコムやプロミスなどの)大手貸金業者と同等の規模に成長していきたいですね。
筆者もAIスコア・レンディングにログインし、約100項目の質問に答えてみた。回答数に応じてスコアアップし、最終的に「646スコア」を獲得(1000点満点)。筆者の場合、金利は10.9%で100万円まで借りれるようだ
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