藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

政治が持たねばならないもの。

自分は庶民根性が強く、どうも政治家には親近感が湧かないけれど、「たまにはやるじゃない」と思った記事。
空き家対策についてのコラムだが、これには感心した。

ここで大事なのは、持ち主が不明の土地の「利用の円滑化」から制度にした点だ。
特命委の井林辰憲事務局長は「土地を活用したいと思う人がいれば使えるようにすべきだ。
地権者が出てきたら、利用料を払えばいい」と語る。
できる範囲から手をつけ、「土地を所有することに伴う責務」など根本問題は今後議論を深める。
政治の戦略だ。

「制度にしてしまう」
「できる範囲から手をつける」
「対策は試行錯誤しながら」
「根本問題は議論を深める」

まるでGoogleの社内紹介かと思うような文言が並んでいる。
「政治の戦略」。
日本に足りないのはここではないだろうか。

政治を動かす「君の名は」

2018年7月8日 2:0

夏の日差しを浴びて草木が育つこの季節、自治体に毎日のように苦情の電話が入るようになる。「近くの空き家の桜の木が伸びて電線に引っかかっている」。東京都板橋区役所にも最近こんな電話があった。担当者はここから、空き家の持ち主を探して気の遠くなるような作業に入る。

都市部でも現在の所有者が把握できない物件がある(神戸市中央区)

ところ変わって九州。熊本県森林組合連合会の職員は、台風7号の通過を緊張しながら注視していた。「山主」がわからなくなり、間伐などの手入れをしなくなった山林で土砂崩れが起きる恐れがあるからだ。心配は台風が来なくなる秋ごろまで続く。

大きくかけ離れているものの中にさえ類似を見てとるのが、物事を的確につかむ人の本領なのである――。アリストテレスは「弁論術」(戸塚七郎訳)でこう強調した。日本の政治がいま直面しているのはそうした課題だ。

今国会で決まった3つの制度はその典型。地主がわからない土地を、公園や文化施設など公益の目的で利用できるようにする特別措置法が成立した。持ち主の一部がわからない森林の管理を市町村が受託するルールを設け、半分以上の農地の地権者がわからなくても県の管理組織が借りることができる仕組みも作った。

問題の歴史は古い。山林では地主が地元にいないことが早くから指摘されており、1970年の公式文書で「不在村者」という言葉を使っていた。農村でも言い方は「不在村地主」。十数年前から、都市では「空き家問題」が深刻になった。東日本大震災の復興でも「所有者が所在不明」なことが問題になった。

気がつけば、日本はだれのものかわからない土地ばかりの国になっていた。背景は田舎からの人の流出やバブル崩壊による地価下落、人口減少など長期的で重層的。そしてバラバラに見える課題を貫くキーワードが最近浮上した。「所有者不明土地」問題だ。

縦割りでは対応が難しいため、解決は政治の本丸の仕事になる。「これはひでえな」。菅義偉官房長官が2017年春、周辺にこぼしたのが所有権が入り乱れて開発が困難になっている問題だった。内閣官房に検討チームを作るとともに、18年1月には法務、農林水産、国土交通などの各省で「所有者不明土地等対策の推進のための関係閣僚会議」を発足させた。

一方、菅氏がことの重大さを知ったのと同じころ、自民党も「所有者不明土地等に関する特命委員会」を立ち上げ、検討に着手した。今回の3つのルールは党と官邸、省庁の連携の成果だ。特命委の野田毅委員長は「どんな事業をやるにしても用地の確保が第一歩。相続多発時代に入り、地権者を探すだけで大変だということをひしひしと感じていた」と話す。

ここで大事なのは、持ち主が不明の土地の「利用の円滑化」から制度にした点だ。特命委の井林辰憲事務局長は「土地を活用したいと思う人がいれば使えるようにすべきだ。地権者が出てきたら、利用料を払えばいい」と語る。できる範囲から手をつけ、「土地を所有することに伴う責務」など根本問題は今後議論を深める。政治の戦略だ。

東京財団政策研究所の吉原祥子研究員は「病気の場合も病名がつくことで物事の輪郭が見えてくる。この問題も所有者不明土地という名前を与えられたことで政策課題として認識できた」と指摘する。人口減少時代の日本はかつて経験したことのない課題に直面する。それを発見し、名前をつけて解決の必要性を国民に訴えることこそ政治の腕の見せどころだろう。

編集委員 吉田忠則)

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