藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

技術のしみ方

*[ウェブ進化論]人の多いところから。
ムラが多いとされる飲食店で客足を98%当てるAIがあるという。
繁華街のお店らしいので幾分(予測の)やり易さはある気がするが、応用できるお店は多いだろう。
同様に顧客の需要を予測するタクシーやコーヒーサーバーなどもかなり効果を上げているという。
AI市場は人件費率の高いところから狙われていくようだ。
業界団体によるとタクシー事業の原価の73%は人件費だ。
街中が「自動運転のタクシー群」に切り替わる前に、人はAIの命ずるままに「ただ運転する」という時代になりそうだ。
AIタクシーはdocomoと提携しているらしいが、Googleなんかと提携して広告も出すようになれば相当な効果が期待できるだろう。
目的地へ行きたい人を集めて割安で運ぶなんて朝飯前である。
業界組合は「乗り合い反対」なんて言っている前に便利なサービスを考えなければ丸ごと滅んでしまうのではないだろうか。
 

明日の客入り、98%当てる店 勘も経験もいらない

 

未来の読み方(3)

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明日は何人が店に来るのか、何がいくつ売れるのか――。デジタル化の進展により得られるデータが爆発的に増え、人工知能(AI)などの技術と組み合わせることで高精度の需要予測が可能になり始めている。未来の注文にあらかじめ備えることで適切な意思決定ができれば、資源や時間の無駄を減らして生産性を高められる。予測技術のディスラプション(創造的破壊)は経済のあり方を変えるのか。
 

来客数や食材消費量をAIで予測する老舗食堂の「ゑびや」(三重県伊勢市)=寺沢将幸撮影

仕入れ最適化で売り上げ5倍

記録が残る限りで1917年から営業するという伊勢の老舗食堂、ゑびや(三重県伊勢市)。伊勢神宮にほど近い通りに構える店は現在、翌日の来店客数を9割以上の精度で当てる予測技術を持ち、データ経営の先端事例に生まれ変わっている。勘や経験に基づく予測ではなく、まして神頼みではない。頼るのはデータだ。
小田島春樹社長が参画した2012年3月のゑびやは、その日あった注文を1枚の紙に手書きで記録するのみ。表計算ソフトさえ使わない、昔ながらの食堂の一つだった。ソフトバンクでの勤務を経て東京で起業することも考えていた小田島氏は、あえて対極ともいえる、妻の父が経営する老舗に飛び込んだ。「地方で事業を伸ばすのは百パーセント無理だ」という周囲の声を見返すためだ。パソコンに記録をつけるところから始め、16年にAIを使った来客予測システムを完成させた。
 

「ゑびや」と「EBILAB」の小田島春樹社長(三重県伊勢市)=寺沢将幸撮影
過去の売り上げ、近隣でのイベント、周辺ホテルの宿泊数、インターネット上の口コミや天候といった十数項目のデータを集めて来店客数をはじき出す。各項目のうち、どれが来客数に最も影響しそうか。AIが機械学習し、日ごとや週ごとに重視する変数を変えている。19年8月は約1万人の来店があり、前日予測との誤差は1カ月間で203人だった。的中率は98%に達する。
分析は精緻だ。翌日の1時間ごとの客数のほか、今後1週間、1カ月の予想客数もそれぞれ表示する。ゑびやでは予測した来店客数をもとに予想売り上げや、メニューごとの注文数がどれくらいになるかを算出する。こうした予測データは従業員がタブレット端末やモニターで常に確認でき、注文する食材の量や、人員配置を決めている。
 

効果は数字に表れた。集めたデータはマーケティングにも生かし、12年7月期に1億円だった売り上げが19年同期は5倍近くになった。仕入れの量を最適化することで、傷んだ肉や魚を廃棄することはほとんどなくなったという。月に200キログラムを捨てることもあったコメの廃棄量は7割削減した。18年6月には、ゑびやで開発した来客予測システムを外販するEBILAB(同)を設立。すでに飲食店など30社に提供する。
国税庁の調査によると「宿泊業、飲食サービス業」の17年の平均給与は252万円で、14業種のうちで最も低かった。小田島社長は「データに基づかない意思決定がされてきた結果だ。大半の飲食店は10年以内につぶれてしまっている」と話す。それだけに「インターネットでは当たり前のデータ活用や予測を実店舗に持ち込めば、その分改善の余地は大きい」と強調する。「食品ロスの削減や省人化で、利益率はまだまだ高められるはず」
需要を予測できれば、単純作業はロボットに任せて人間はより付加価値の高いサービスへの「進化」に集中できるのではないか。ニューイノベーションズ(東京・文京)の中尾渓人最高経営責任者(CEO)が今夏、そんな思いで取り組んだのが客が来る前にコーヒーをいれておくマシンの実証実験だ。南海電鉄の大型複合ビル「なんばスカイオ」に8月の約1カ月間、幅と高さが約2メートル、奥行き1.3メートルの大型装置「√C(ルートシー)」を設置した。
過去の時系列の販売データと、気温や湿度をもとに需要をAIで予測する仕組みだ。人が来そうな時間にあらかじめコーヒーを作っておき、ロボットが腕で運んで棚に並べておく。実際に注文があるとロボットが商品をつかみ、受け取り口に届ける。実験では多い日で100杯を販売し、注文から10秒弱でコーヒーを提供した。ICカードなどで決済するため、人が必要になるのは材料の補充と機械の保守のみだ。
大阪大学工学部に在籍する中尾CEOは、小学生からロボットコンテストにのめり込んだ「ロボットおたく」だ。18年に起業して最初に目を付けたのがコーヒーマシンだった。「毎朝同じカフェで同じコーヒーを頼むなら、行列に並ぶ時間は必要ないはず。コーヒーは人の移動の起点にもなるため、移動データも得られる」と話す。今後の実証で予測の精度を高め、無人コーヒーマシンを22年には都市部で普及させる計画だ。

運転手経験の差埋める「AIタクシー」

カナダ・トロント大学のアジェイ・アグラワル教授らは、AI技術の進化がもたらすのは知能の一つの要素としての予測だと説く。コストが下がった予測技術がビジネスのあらゆる側面に普及していくなかでは、従来必要だった知識の重要性が下がる場面もある。
 

エリアごとのタクシー台数需要を30分おきに予測する(イメージ)
経験の有無が成果を大きく左右するとされてきたタクシー運転手。業界団体によるとタクシー事業の原価の73%は人件費だ。労働時間のうち、客待ちの時間が3割ほどとされ、乗客を見つける時間の早さで生産性に大きな違いが生まれる。ここでも、新人とベテランの差を技術が埋めつつある。NTTドコモは18年、30分後までのタクシー乗車がどこで増えそうかを予測するサービス「AIタクシー」を始めた。過去の走行や気象のデータに、ドコモの携帯電話網から得るリアルタイムな人の移動データを組み合わせ、深層学習で予測する。
乗車需要は500メートル四方で区切ったエリアごとに表示する。運転手はどこで何台分の乗車があるかや、どの方向に走れば乗客がいそうかをAIに教えてもらえる。1300台超に導入した東京無線協同組合(東京・新宿)では「新人でもすぐに経験者並みに稼働率を高められている」(東京無線)。
データを予測に生かすには社外との連携も欠かせない。統計学マーケティングに詳しい慶応大学の星野崇宏教授は「需要予測の精度がさらに高まれば経営の効率化につながる。ただ、過去に基づく予測だけでは競合他社の新たな動きに対応できない。1社で手に入るデータに制約があることを意識しておく必要がある」と指摘している。

需要予測進化、景気の波変える?

需要予測技術が広がるのは、消費者と直接の接点を持つ産業だけではない。あらゆるモノがネットにつながる「IoT」時代の到来により、製造業でも機械などのモノが故障する予兆を捉えて事前に交換部品を用意したり、顧客が持つ在庫の量に合わせてきめ細かく製品を供給したりできる。需要予測に基づいて供給量を調整する動きは電力などエネルギー分野でも加速している。
あらゆる産業が需給の最適化を突き詰めるとどうなるだろうか。米国の経済学者ジョセフ・キチンが在庫の変動による約40カ月周期の景気循環の存在を指摘したのは100年近く前だ。モノが売れると見れば企業は生産を増やし、在庫を積み増す。やがて供給が需要を上回るようになると、商品の価格は下がり景気は減退に向かう。こうしたサイクルが回ってきたとされる。
将来の顧客の注文が、予測技術の発展で見えるものになるとすれば、「キチンの波」は穏やかなものになる。一方で、投資や生産活動が早い段階で抑えられれば、経済成長のペースは鈍るかもしれない。大量生産・大量廃棄を前提とした経済を予測の進化が否定する先に残るのは低成長が常態化する「低温経済」なのか。三菱UFJモルガン・スタンレー証券景気循環研究所の嶋中雄二所長は「気候変動や紛争など外的要因を除けば、在庫循環の振れ幅は小さくなっていくかもしれない。需要予測の進化は景気循環を読み解く変数の一つになるだろう」と話す。
仮に需要の全体量をAIが教えてくれても個々の顧客の買う・買わないの判断は合理的なものだけとは限らない。予測の進化を経営や経済学の発展にどうつなげられるのか。アグラワル教授らは予測の精度が上がるほど目的を理解する人間だけができる判断の重要性は高まると指摘する。予測技術を使いこなす人間の知恵は問われ続ける。
文 山田遼太郎