藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

ビルと農業

*[ウェブ進化論]都会で質素に。
コンクリートジャングルになってしまった都心に農園が続々開店しているという。
経営者はITベンチャー出身で「センサーとアプリ」をフル活用してビルの屋上を緑化しているらしい。
PLANTIOが進めるのは、このような江戸時代に当たり前だった習慣を、テクノロジーを使ってアップデートし、現代に取り戻そうという試みだ。

 近代では江戸時代に都市のスタイルが完成した、というけれど案外ヒントがあるのかもしれない。

住むのは長屋、共用の台所、堆肥の培養、野菜の自足って何かシェアハウスとかシェアリングエコノミーにとても似ている。
衣食住の基本的なことについて見直してみるのはどうだろう。
案外「質素な都会」なんかが未来像のような気がする。
 
都心に新型シェア農園 サブスク化で「農」が身近に
 
2019年9月19日 2:00

 
PLANTIO(プランティオ)が運営する「SUSTINA PARK EBISU PRIME」

日経クロストレンド

東京・恵比寿のオフィスビルに、スタートアップ企業PLANTIO(プランティオ、東京・渋谷)が運営する斬新なシェア農園「SUSTINA PARK EBISU PRIME」がオープンした。個人ごとに区画が分けられた従来のレンタル菜園とは異なり、会員が共同で管理する。センサーや人工知能(AI)を駆使したハイテク農園だ。

 
恵比寿プライムスクエア プラザ棟」(渋谷区広尾)にオープンした。新型シェア農園のプロトタイプという位置付け

センサーと栽培用AIでモニタリング

訪れてみると、さまざまなテクノロジーが盛り込まれている点に驚いた。まず入り口にはスマートロックが設けられ、会員なら誰でもスマホを使って自由に出入りできる。作業に必要なものは共用ボックスに収められ、手ぶらで行ける。7月末に訪れた時点では、ズッキーニやナス、トマトといった夏野菜に加え、パクチーコリアンダー)などのハーブ類が青々と茂っていた。

 
会員はテスト用アプリをダウンロード。アプリで解錠して農園に入る
さらに、農園の各所にはセンサーやカメラが設置され、土壌の温度や水分量、照度、外気温などをモニタリングしている。データはクラウド上で動作する独自開発の植物栽培特化型AI「Crowd Farming System」で分析され、水やり、間引き、誘引などの手入れすべきタイミングや収穫時期の目安を予測する。このAIは、農業のプロの知見を教師として学習したもので、農業初心者や初見の作物でも簡単に栽培ができるのが強みだ。人の手による作業が必要になった場合、専用のスマホアプリを通じて会員に通知が届く。
 

世話をするとポイントがたまり、優先的に収穫できるエンタメ性も

作業を行った会員にはポイントが付与され、このポイントに応じて育てた作物を収穫できる。こまめに世話をした人は、収穫物をより多く手にできる。「『植えたら育てて、収穫したらまた種をまく。そして育てる』。こんな自然で当たり前の生活スタイルを、楽しみながら体験してもらうためにエンタメ性を高めている」とPLANTIO最高経営責任者(CEO)の芹沢孝悦氏は語る。同社では、こうしたサービスの概念を、アグリカルチャーとエンターテインメントを組み合わせて「アグリテインメント」と呼んでいる。
 
同ファームでは、会員同士が「ファームフレンド」となり、AIによる収穫期予想を活用した収穫祭イベントなどを開催している。近隣の飲食店などとも連携し、都市部での農と食の体験を通じた新たなコミュニケーションの場として活用が進む。

 
会員同士のコミュニケーションを促進するイベントも開催。8月に開催されたイベントでは、著名シェフがナビゲーターとして参加した
現状は恵比寿の1カ所で検証を続けているが、19年内には新規に5ファーム、さらに年明けには2~3ファームを都内にオープンする予定だ。計8ファーム程度の規模で、2020年4月に本格サービスをスタートする計画である。月額数千円の会員費で、すべてのファームが利用できるようになる予定で、好きな作物が育っているファームに行って収穫したり、イベントに参加したりできる。どこの施設でも定額で行けるフィットネスジムのような、シェア農園のサブスクリプションモデルを目指す。
 
枕木やりんご箱といった廃材に加え、独自開発の軽量土などを使用し、シェア農園の開業コストを従来の3分の1程度に抑えているのも画期的だ。既に東急不動産と協業しているのに加え、大手デベロッパーなどからも引き合いがあるという。「都市部では屋上緑化をしているビルも多く、農園に転換できる『遊休地』がかなりある」(芹沢氏)。さらに、オフィスビルやマンションなどの新規開発時に、シェア農園をセットで展開する事例も増えそうだ。
 

「本来、食は極めて多様性の高いもの」

芹沢氏が新機軸のシェアファームを開発したのは、食に関する強い危機感からだ。「画一化、合理化が進みすぎた結果、本来の食の多様性が失われている」と、芹沢氏は指摘する。

 
PLANTIO CEOの芹沢氏。大学卒業後、ITベンチャーへ。その後、家業であるセロン工業へ入社。祖父は、日本で初めて「プランター」という言葉を発案し、製品を開発した芹沢次郎氏
例えば、パクチーといえば一般的に思いつくのは「葉」の部分だが、実は茎や根も料理に使える。さらに実を乾燥させたもの(コリアンダーシード)もスパイスとして楽しめる。「一つの作物でも、本来は多様性に満ちており、実際に育てることでその可能性に気づきやすくなる」と芹沢氏は語る。
 
今の生活者、特に都会に住んでいる人にとっては、「農作物を育てて食べる」という行為が非常に遠いものになっているのが現状。芹沢氏は、「今の農業を否定しているわけではない」と前置きをしつつ、「高度経済成長期を経て野菜がいわば『工業製品』となってしまい、『農』と生活が分断されてしまった。その結果が、伝統的な食文化の断絶やフードロスなどの問題につながっているのではないか」と指摘する。
 
海外では、生活に農を溶け込ませる動きが加速している。英ロンドンでは、12年に開催されたロンドンオリンピックを契機に都市内の農園を整備し、都市での食料自給を強化。米国の都市部でも、農園付きのレジデンスが一般化しつつある。
 
「日本でも江戸時代まで遡れば、都市部に畑があり、近隣のコミュニティーで育てた農作物を分け合って食べるというのがありふれた光景だった」(芹沢氏)。PLANTIOが進めるのは、このような江戸時代に当たり前だった習慣を、テクノロジーを使ってアップデートし、現代に取り戻そうという試みだ。
 

農業AIプラットフォームとして、個人宅やBtoBへも

ファームの本格オープンに合わせ、個人の畑やプランターなどをシェアファーム化する、IoT(あらゆるモノがネットにつながる)デバイスも販売する計画。土壌水分計と温度計に加え、日照計や外気温計も内蔵する小型端末で、土に直接挿して使う。シェアファームと同じくAIにつながっており、アプリを通じて育ち具合や水やりなどのタイミングを確認できる。家族や知人とグループを組んで、栽培状況などの情報を共有することも可能だ。当面は、シェアファーム利用者へのオプションサービスとして、端末を提供する。

 
開発中の植物栽培用IoTデバイス。左の2点の写真は、土に挿して使う小型モデル。右の写真は、センサー類が一体化したIoTプランターで、2020年中にリリース予定
普及すれば、作物の物々交換も進むと芹沢氏はもくろむ。コミュニティー内の人が育てている作物の収穫時期がアプリで簡単に分かるため、自分が欲しい野菜を育てている人を簡単に見つけられ、自分の育てた作物との交換などにもつながる。飲食店なら、「あの食材が欲しいから、近くで今収穫できる農園や育てている人を検索しよう」といった使い方もできる。「近隣ですべて賄うのは難しいかもしれないが、『半自給自足』といった生活は実現できる」と芹沢氏は語る。

 
各自が育てている作物の情報を共有することが可能に。収穫時期なども丸わかり
Crowd Farming Systemは、BtoB、つまり農業分野への展開も計画されている。「同一システム上で作物の生育に関わるデータを、これだけ多く集められる仕組みを持っている企業は他にはない」と芹沢氏。個人からプロまでを含めた、農と食をつなぐプラットフォームが生まれそうだ。
 
(写真/竹井俊晴、写真提供/PLANTIO)