藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

戦争とクラウド

*[ウェブ進化論]憂鬱の始まり。
FTの良記事より。
国防総省だから戦争とは隣り合わせだ。
JEDIは、将来の戦争を戦うための情報プラットフォームで、作戦の効果を高めるために将軍たちが利用できる情報をすべて集約するのが狙いだ。米空軍のデビッド・クラム准将がはっきり述べている。

 そしてこれが巨大化するクラウド事業者の問題の始まり、と予見している。

そりゃ自分の遺伝子情報と、アマゾンの購買情報が「同じクラウドにある」のは気がかりだ。
そもそもこれから来るセンサー社会では「何もかもが記録され、丸裸になる」と懸念する声は多い。
マイクロソフトのアジュールもその中で軍の「殺人プログラム」が動くことは当然になってしまうだろう。
そして、いずれは自分たちの「すべての情報」がクラウドに上がるかもしれない。
まるで「クラウドの方が自分」みたいになる。
そんな時代に「どこ」に情報を置き、「誰」に管理を任せるか。というのはピリピリする問題だ。
大事なものは、やはり"幾つかに分けておく"必要があるのではないだろうか。
 
 
 

[FT]マイクロソフト、「国防クラウド」受注の代償は

 

テック業界において、法人市場は面白みがない分野であるはずだ。大企業と政府は、IT(情報技術)サプライヤーが信頼できる退屈な存在であることをあてにしている。

 

国防総省マイクロソフトから調達するクラウドサービスの契約額は総額100億ドルと巨額だ=ロイター

だが、米国防総省が米マイクロソフトと、10月25日に総額100億ドル(約1兆円)のクラウドコンピューティング契約を締結した一件は対照的で退屈とはほど遠かった。マイクロソフトは、米アマゾン・ドット・コムとの猛烈な受注競争の末に勝ち取り、その裏では元アマゾン幹部が国防総省で働きながら契約を形作ることに手を貸していたことなどが明らかになった。

入札で勝てなかった米オラクルは、契約の分割を求める訴訟を起こしたものの、望みはかなわなかった。アマゾンからの提訴を含め、今後さらに訴訟が起きる可能性はある。

国防総省クラウドの狙い

国防総省が「JEDI」プロジェクトでマイクロソフトと契約を締結したことは、明らかな政治的報復行為でもあった。多くの人がアマゾンの契約獲得を確実視していたなか、土壇場でトランプ米大統領が再考を迫るために介入したからだ。トランプ氏はアマゾンの最高経営責任者(CEO)で米ワシントン・ポスト紙のオーナーであるジェフ・ベゾス氏に対して敵意をむき出しにしてきたことで知られる。

予想外の契約獲得は、クラウド市場のリーダーである「アマゾン・ウェブ・サービス(AWS)」の性能と肩を並べたというマイクロソフトの主張を補強する結果となった。一方で、マイクロソフトのサティア・ナデラCEOは、これほど重要な軍需案件に関わることになり、不安を募らす従業員をなだめざるを得なくなった。

こうした事情すべてが、クラウドコンピューティングへ深く入り込み、デジタル複合企業と化しつつあるテック企業内の緊張を浮き彫りにしている。クラウドは、こうした企業の最大の商機になる可能性がある。調査会社の米IDCによると、クラウドは5兆ドル規模のIT市場のうち約2300億ドルを占めており、2023年までに5000億ドルに拡大する見込みだ。ただし、このグーグルやアマゾンといった企業がこのビジネスに長期的にとどまるかどうかは、また別の問題だ。

理想主義のソフトウエア技術者が、国防総省のために働くことに難色を示している事例をみるといい。JEDIは、将来の戦争を戦うための情報プラットフォームで、作戦の効果を高めるために将軍たちが利用できる情報をすべて集約するのが狙いだ。米空軍のデビッド・クラム准将がはっきり述べている。「ITを駆使する場合、人を殺し、モノを壊すことについては考えない」。国防総省の新しいクラウドの本質は、「もっと多くの悪人が死ぬ」のを確実にすることだ。

マイクロソフトはグーグルよりずっとうまく従業員の不安に対処してきた。グーグルは2年前、軍事ドローン(無人機)の画像認識処理で同社の人工知能(AI)を利用することをめぐって従業員の反乱に見舞われた。マイクロソフトは対照的に、国防総省のために仕事をする理由をもっとオープンにすることで反発を抑え込んだようにみえる。

だが、それでもマイクロソフトは依然として、従業員が軍事プロジェクトから抜けられるかどうかについては説明していない。会社の技術が絶対、自律型兵器に使われないことも従業員に示していない。会社にできることは、そのような重要な問題が議論される時に、話し合いの場を提供するくらいだ。

■法人に欠かせない「営業」と「サポート」

JEDIは極端な事例かもしれないが、この一件は企業や政府機関のデジタル部門になるためにサービスを提供しているわけではない企業にとっては企業文化の問題をあらわにする。

消費者向けの技術と法人向けの技術の間にある溝は、もっと平凡なレベルにも存在している。グーグルがクラウド部門を率いるために元オラクル幹部を採用したことは、技術力があるだけでは十分でないことを示したようなものだ。法人向けの技術は営業部門とサポート部門が欠かせない。いずれも、常にひたすら他社より優れた製品を作ることに誇りを抱いてきた企業文化とは縁のないものだ。消費者向けと法人向けの両分野を同じ組織内で組み合わせることに成功した企業はほとんどなく、グーグルは難しい移行に直面している。

アマゾンは今のところ、こうした企業文化の緊張に他社よりはうまく対処してきた。だが、JEDIの契約を逃したことは、クラウド事業を狙う大手テック企業(とその株主)が直面する別の問題を浮き彫りにしている。これまで多くの市場に手を出してきたが、それが経営の妨げになっているのだ。

例えばグーグルは、クラウドビジネスの潜在顧客である企業の従業員の個人情報を、グーグルの広告事業から完全に隔離できるかどうかについて疑問を投げかけられている。また、アマゾンかグーグルがいずれ競合企業になると考えている企業にしてみれば、会社のデータをアマゾンやグーグルのパブリッククラウドに置きたくないのは当然だろう。一方、マイクロソフトは純粋な技術サプライヤーとして、このような潜在的利益相反には見舞われない。

利益相反を防ぐには分割しかないか

アマゾンとグーグルはまだ、クラウド事業で優位に立っている。自社の他のインフラを共有し、検索や電子商取引のために開発された高度な機械学習能力を活用できるのは大きな利点だ。

だが、こうした事業が成熟するにつれて、ビジネス、企業文化の両側面から、クラウドを分離すべきだという意見が大きくなっていくだろう。事業を分割すれば、巨大な規模ゆえに政治的な標的になったテック大手を小さくする解決策にもなる。これはテック大手の敵が求めていた解体の形ではないかもしれない。しかし、経営の観点からみれば最も合理的な対策になるかもしれない。

By Richard Waters

(2019年11月1日付 英フィナンシャル・タイムズ紙 https://www.ft.com/

(c) The Financial Times Limited 2019. All Rights Reserved. The Nikkei Inc. is solely responsible for providing this translated content and The Financial Times Limited does not accept any liability for the accuracy or quality of the translation.

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