藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

根っからの本気。


任天堂のボケモンGOが再びブレイクの兆しだという。
幾度目の大ホームランだろうか。

出自という言葉がある。
けど「氏より育ち」ともいう。
どちらも、その時々に「特徴を表現する」のに使われる言葉だ。
多分「氏」も「育ち」もどちらもがその個性の原因として大きく関係しているのだと思う。

ファミコンがブームになったとかマリオが大ヒットだとか。
64が出たとかwiiとか。

浮き沈みを繰り返しながらも、常に浮かび上がってくる任天堂の話を聞くと、自分はいつも父に連れられた京都の任天堂本社を思い出す。
四十年も前の話だ。
本社の門扉の上部には、ペンキが剥げて色褪せた"トランプ札"が遇(あし)らわれて、「我が社はカードゲームを作っています」と派手さのないとっても地味で堅実な雰囲気のする社屋だった。

その後の任天堂の大活躍を聞くたびに「あの社屋」を思い出していた。

しぶとく、たとえ派手に成功しても全然浮かれない京都人の気質。
(京都出自の企業に粘りがあるのは、そういう「自らもシニカルに見る一面」のせいかもしれない)

どこまで成功しても、危機においては「一ゲーム企業であること」の原点にいつでも戻れる柔軟性。
「育ち」はとっても重要な環境因子だが、結局その「育つ環境」も「出自」が形成していくものだ。

その人の「ある時点」だけを見て「氏か育ちか」というのではなく、氏が何十年、何百年もの間に「育ち」をがっちりと形成してしまうものなのではないだろうか。

つまり、"氏"も"育ち"もこれから十分作っていけるということだ。
すぐには結果は出ませんが。

ポッと出ては泡沫(うたかた)に消えてしまうエンタメ企業と違って、「氏と育ち」でたたき上げてきた任天堂の強みはそういう経緯で作られてきたのではないだろうか。
たかがエンタメというなかれ。
本気の奴らは恐ろしい。

[FT]恐ろしい世界に足を踏み入れた任天堂

2016/7/14 15:30
ニュースソース
日本経済新聞 電子版

 正気を失っているなんてもんじゃない。「ポケモンGO」が世界を席巻している。ポケモンGOは、スマートフォンスマホ)を使って現実の場所に任天堂の「ポケットモンスター」のキャラクターが重なりあって登場する「AR(拡張現実)」ビデオゲームだ。米国や他の国で発売された先週以降、「ピカチュウ」やほかのキャラクターを捕まえようと、プレーヤーが公園に集まったり、レストランになだれ込んだりしている。

任天堂などが開発したスマートフォン向けゲーム「ポケモンGO」=ロイター

 任天堂の投資家も少し正気を失っている。ポケモンGOの登場が「Wii U」のようなぱっとしないゲーム機への依存から同社を救い、スマホを使ったカジュアルゲームで成長する世界へ導くとの期待を背景に、同社の株価は1週間で50%も上昇した。

 みんな、落ち着こう。

 転換を図れる会社があるとすれば、それは任天堂だ。以前にも実績があり、同社が1980年代に、ゲームセンターにあるようなゲーム機製造会社からゲーム機やゲームソフトメーカーに姿を変えた時は特に目覚ましかった。同社が窮地に陥った10年前には、ソニーの「プレイステーション(PS)3」やマイクロソフトの「Xbox360」を出し抜き、初代の「Wii」を生み出した。

 こうした成功の陰には、創造的な才能を持った宮本茂氏の姿があった。同氏は、「ドンキーコング」や「スーパーマリオ」の生みの親で、「世界中の人たちに笑顔を」という同社の使命を取り仕切ってきた。任天堂は、世界の人たちを笑顔にするだけでなく、ずっと笑顔でいられるようなキャラクターを生み出す並外れた能力を持っていて、ポケモンシリーズは今年で20周年になる。

 任天堂はこの創造力のおかげで、セガと同じ運命をたどるのを免れた。セガ任天堂のかつてのライバルで、90年代にゲーム機の「セガサターン」や「ドリームキャスト」で戦いに敗れ、その後ゲーム機から撤退している。任天堂は今でも、2017年に発売予定で詳細がまだ明らかにされていない新型ゲーム機「NX」で、ゲーム機分野での復活を期待している。

■ゲームとゲーム機の連携がカギだった

 ゲーム機会社が活況に沸いている場合、新たに人を夢中にさせるゲームを発想する創造性の強みが、最新の技術を使った最先端ゲーム機のもうけを生む。ソニーはこの好循環を、13年以降で4000万台以上を売り上げた「PS4」で謳歌している。とはいえ、ソニー任天堂以上に、米アクティビジョン・ブリザードのような第三者のゲームソフト会社に依存している。

 変化が激しく循環するIT(情報技術)ビジネスで生き永らえるカギは、これまでゲームとゲーム機の間の連携にあった。人気のビデオゲームへの熱中は長続きしないかもしれないが、消費者にゲーム機を買う刺激になり、ひいてはより多くのゲームソフトを買わせることになる。任天堂の原動力はいつも創造力だった。

 任天堂にとって、ポケモンを見つけてモンスターボール(英語名ポケボール)を投げようと世界中を探し回る、新しくて若い世代のiPhoneやアンドロイドの持ち主以上に素晴らしいものはあるだろうか。これは確実に、任天堂の京都本社にいる経営陣に笑顔をもたらしたに違いないのではないだろうか。

 といっても、それにも程度がある。まず注意すべきは、任天堂ポケモンGOを作ったわけでも所有者でもない点だ。任天堂は、ゲームを手掛ける「ポケモン」社の議決権33%を所有する。そしてポケモンは、米グーグルの経営陣だったジョン・ハンケ氏が独立して立ち上げた、ARを手掛けるベンチャー、米ナイアンティックにライセンスを与えている。任天堂は15年、ナイアンティックに出資したが、受け取れるのは少数持ち分の利益だけだ。

 少数株主持ち分でも持っているのは、現象自体がなかったり持ち分を持っていないよりはましだが、広い文脈では影響が出てくる。任天堂が自らのゲーム機を設計し、Wii自体の知名度の高いゲームソフトを自身で多数発売する一方、スマホの世界に進出するためには提携先を頼った。任天堂は、ナイアンティック以外にも、ディーエヌエーと共同で新たに5つのスマホゲーム開発に取り組んでいる。

■求められる立て続けのヒット

 任天堂はこれまで、自らのゲーム機を使ったゲームの「ウオールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)」の中で身動きがとれなくなっていた。だが、同社はもはや自らのプラットフォームを支配せず、他のソフト会社と競合しながら「iOS」や「アンドロイド」向けにゲームを提供しなければならないスマホの世界に参入して、このあり方は弱まっている。これは、同社自らが所有していた一つの技術(ゲームセンターにあるようなゲーム機)から別の技術(ゲーム端末機)へ、という過去の転換とは異なる。

 新しい技術はオープンである上、位置情報やマッピングなど可動性もあり、仮想現実(VR)やARもある。このような技術においては、米シリコンバレーにいるナイアンティックのような新興ソフトウエア会社が有利だ。任天堂は提携を通して学べるかもしれないが、なじみのない領域だ。

 2つ目に、携帯ゲームのビジネスモデルは興味深い。ポケモンGOがその例だ。プレーヤーはゲームを無料でダウンロードし、モンスターたちをおびき出す「インセンス」や捕まえる「モンスターボール」のような追加アイテムを購入する。だが、ほとんどの人は気にかけないだろう。人気ゲーム「キャンディ・クラッシュ・サーガ」を手掛けた英ゲーム大手キング・デジタル・エンターテインメントは、アクティビジョン・ブリザードに買収される前の13年、96%の月間ユーザーは何も払っていないと明かしている。

 アクティビジョン・ブリザードが15年のキング買収の際に59億ドルを払ったのは、売り上げが堅調で利益率も高いことが理由だ。携帯ゲームはそれでももうけられる。だが、完全に当てにはできない。人気のゲームソフトは米国で60ドルで売られているが、ポケモンGOは60ドルで売られるわけではないし、ゲーム機の売り上げに直接つながるわけでもない。同社は立て続けにヒットを出し続けなければならず、そのコストを自身で賄い続けなければならない。

 ある意味で任天堂は、理想的な形でパラダイムシフトに適合している。同社は大きく羽ばたきたがる種類のキャラクターたちを生み出している。ハンケ氏の言うとおり、任天堂は「老若男女に広く受け入れられる素晴らしい知的財産」を持っている。かわいらしいモンスターを捕まえるのを楽しいと思わない人はいないだろう。しかし、任天堂の株主たちは興奮しすぎる前に、現実を検証すべきだ。

By John Gapper

(2016年7月14日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)

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