藤野の散文-私の暗黙知-

毎日の中での気付きについて書いています

AIが感動を作るかも。

ノラが発売した新しいCDに収録する曲を調べたところ、AIは12曲中10曲が90%以上の確率でヒットするとの結果をはじき出した。

特殊な見識を持ったプロデューサーでなければ成しえなかった判断を、AIはある程度できているらしい。
ノラ・ジョーンズだけをとってみれば特殊だが、古今東西のヒット曲を並べてみて、

声質とか、
ビートとテンポとか、
楽器の編成とか、
詩とか、
そしてメロディーとか。

を解析してみればある程度の傾向は出るのかもしれない。

結局はプロのプロデューサーも、一般大衆である自分たちも「一体何に興味を持つのか」ということが科学されてしまえばそれまでである。

流行りの人々の関心を、完全に科学することはそんなに簡単ではない(未来予測みたいなものだろうし)だろうけれど、そこに「一定の法則」を見出せれば商業的には共通の公式が導けるかもしれない。

また一人の人間としても「そういう心の傾向が何に基づいているのか」を知ることは面白いことに違いない。

そんな意味でAIの分析は、ぜひ行き着くところまで突き詰めて、再び人間の心とか嗜好とか感性にフィードバックされて欲しいものだと思う。
自分たちの知らないことを、理論的に分かるようにしてもらえば、また「その先」が開けてくるものだから。

「ヒット確率90%」 AIが曲の売れ行き予測 2045年を探して(5)

 米国を代表するジャズシンガー、ノラ・ジョーンズと、同じく実力と人気を兼ねそろえたロックバンド、マルーン5。今や米音楽シーンを代表するこの2大アーティストには共通点がある。人工知能(AI)がヒットのきっかけ作りの一端を担ったことだ。

米ミュージック・エックスレイのマイク・マックレディCEOがつくったAIは、アーティストがつくった楽曲がどれだけ注目されるかをはじき出す(ニューヨーク市

 仕掛け人は、マイク・マックレディ氏。AIを使ったヒット分析を手掛けるベンチャー企業、ミュージック・エックスレイを立ち上げ最高経営責任者(CEO)に就任した。現在の会社を立ち上げる前、2002年ごろに、レコード会社の依頼で「楽曲をAIで分析した」と明かす。

 ノラが発売した新しいCDに収録する曲を調べたところ、AIは12曲中10曲が90%以上の確率でヒットするとの結果をはじき出した。出だしはそこそこの売れ行きだったが、この解析結果がメディアで報じられると注目が集まったこともあり、最終的には世界中で大ヒット。収録した「ドント・ノー・ホワイ」は彼女の出世作となった。

 マルーン5はそのころ、別のレコード会社が初のアルバムを出し、うち1曲をシングルにして売り出していた。しかし、マックレディ氏のAIがヒットすると判断したのはそれではなかった。会社はその曲もシングルとしてリリースした。すると、それまで鳴かず飛ばずだったアルバムがじわじわと売れ始め、ついに1000万枚超の大ヒットを記録。AIが選んだ「ディス・ラブ」は、今やマルーン5の代表作の1つだ。

 なぜAIは、これらの曲をヒットすると判断したのだろうか。マックレディ氏は「それこそ『ドント・ノー・ホワイ』。AIがそう判断した理由すべてがわかるわけではないんだ」と笑う。AIは、これまでにヒットした曲のメロディーやリズムのデータをもとに、販売促進費なども加味してヒットの確率をはじき出す。だが、どうしてAIがその結論に達したのかは、当のマックレディ氏にもわからないという。

 現在マックレディ氏はAIを使って、アーティストが製作した曲をヒットの可能性でランク付けするビジネスを展開している。「この曲ならプロデューサーが興味を持つだろう、といったことをAIが判断し、確率として提示するシステムを構築した」と話す。「誰も関心を持たない曲を前もって排除するフィルターだ」。

 アーティストがメジャーになるには、レコード会社などプロの助けが不可欠だ。だがプロたちには、アーティストたちがつくる大量の曲をすべて聴いている時間はない。マックレディ氏がつくったAIは、過去のヒット曲のメロディーやリズム、「オリエンタルな女性ボーカル」といったプロたちが登録した求める曲想を分析。26万5000人のアーティストが送ってくる曲と照らし合わせ、その曲に何割くらいのプロが関心を持つかを、数字ではじき出す。

 数字を見れば、アーティストには売り込みが成功する確率がわかり、プロの側は誰のどの音楽を優先して聴けばよいかがわかる。マックレディ氏はアーティストからの登録料などを得る仕組みだ。

 AIで楽曲作りそのものを手掛ける動きもある。「米国で活動するポップミュージックのグループ2つに、AIで作曲した曲を提供したことがあるよ」。カリフォルニア大学サンタ・クルーズ校のデビッド・コープ名誉教授はこう打ち明ける。

 80年代の後半、メロディーやコード進行などを記したリード・シートを、無償で約30種提供した。いわば楽曲の素材となるもので、すべて自身で開発したAIが作曲した。

 提供するとき、相手は提供先を明かさないとの契約を結ぶよう求めた。「グループ側も、聞き手の反発を恐れたのかもしれない。AIで作った音楽を、そう言わずに聴かせると、怒ってしまう人が多いから」。コープ教授は契約し、その後、グループ側とのやりとりは途絶えた。

 マックレディ氏も、AIが音楽を評価することへの反発はあると認める。精魂込めて作った楽曲を「プロは関心を持たない」と機械に一刀両断にされれば、怒りを感じる人も少なくない。「アーティストからの批判はある」という。

 これまで人間の専売特許と目されていた創造性の領域に、AIは入り込みつつある。音楽だけでなく、文学や美術にも、AIの進出は進んでいる。AIが新しい作品を生み、人を感動させることはあるのか。そのとき、人とAIとの関係はどう変わるのか。その将来像は、まだ見えない。(戸田健太郎